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237話 「ダンジョン産はいろいろある」

日々ダンジョンに潜る探索者達。

運次第ではあるが宝箱を見つける事が出来ればその中から価値のあるものを入手する事が出来る。

もちろんあまり価値が無い物が出ることもあるし、そもそも宝箱のもとへ辿り着けない事もある。

ただ宿の探索者に関して言えば辿り着けないと言うことはまず無い、スカの時もあるが大抵目的地までたどり着き、そして何事も無かったかの様に夕食時までには宿へと戻ってくる。

そんな彼らに幸運が重なればどうなるか? それはテーブルを埋め尽くす魔道具達が物語っているだろう。


「おー、今日はいっぱいだねー」


「二階層に行くようになってから宝箱を良く見つけるようになってな、そこまで中身は良いものではないが……ま、ありがたい事だ」


「ほへー」


テーブルの上にずらりと並べられた戦利品。それらを休憩時間中の加賀が興味深げに眺めてはへーほーと声を上げている。

加賀に魔道具を見せているのは珍しくギュネイである。

ほかの者は風呂に行っていたりとたまたまタイミングが合わなかったのだ。


「これはー? 見た目は綺麗だけど」


加賀が手に取ったのは一見すると綺麗な宝石の様な物であった。

ただ宝石の様に硬くはなく、少しぶよぶよした触感を不思議そうに指で突いている。


「死毒虫の目だな」


「ほぁっ!?」


自分の指先にあるものが虫の目である、それも死毒というやばそうな名前のついた者のであると聞いた加賀は大きく声をあげ飛び跳ねる様に後ずさりする。


「別に本物の虫の目ってわけじゃないぞ。見た目がちょっと似てるからってそう呼ばれているだけでな、それに本物は毒も持ってない」


「何でまたそんな毒っぽい名前に……」


加賀の指先にある魔道具と似ているというのであれば綺麗な目をしている事であろう。

最も虫にそんな目がついていたとしても綺麗と感じる人は少ないかも知れないが。死毒という名を付けられたのはそのあたりが原因なのだろうか。


「そいつは最初に名付けた奴に聞いてくれよ。効果はそいつを潰すと虫にだけ効く毒霧が発生する……潰す範囲によって効果と効果時間が変わってな、それこそ即死クラスから虫よけ程度にもなる」


「便利そうだけど、使い方がグロい」


効果的にはかなり有用ではあるようだがその使い方が中々グロい。

目と名付けられたものを潰すと聞いて加賀は嫌そうな表情を浮かべそっと指先を再び引っ込める。


「このへんはー?」


死毒虫の目は置いおいて、別の魔道具を見始めた加賀であったがいくつか隔離された様に置かれている瓶類を見つけギュネイに尋ねる。


「ああ、そいつは確か……ヒューゴ達がとってきた奴だな、使いたければ使っていいと言ってたぞ」


「うぇ? え、使って良いんだ……てか効果は何なの?」


「使ってからのお楽しみだーって言ってたが……」


「なにそれ怪しい」


貴重であるはずの魔道具を使っていい事、それに効果は使ってからのお楽しみと聞いて胡散臭そうに魔道具をつつく加賀。

その様子に苦笑を浮かべたギュネイが瓶を手に取ると軽く補足する様に魔道具について説明を始める。


「まあジョークアイテムの類だな。一時的に効果発揮して時間立つと効果が切れる……加賀ちゃんの体の悩みを解決できるとか言ってたかな」


「悩み……悩みねえ?」


悩みと聞いて首をかしげる加賀。

体について悩んでいる事はあるにはあるがどうしても何とかしたいといった類ではない。

この怪しげな魔道具を使おうと心に決めるには少しばかし魅力が足りない様だ。


「とりあえず八木に飲ませてあげよう」


「ひっでえ。まあ面白そうだけどさ」


そして加賀の出した結論はとりあえず八木に飲ますであった。

そして神がかったタイミングで食堂へと入ってきた八木に向かい瓶をすっと差し出す加賀。


「てなわけで八木。これ飲んでみて」


「どういう訳ですかっ!?」


食堂に入るなり瓶を飲めと突きつけられる。

思わず八木が声を上げるのも仕方のない事である。


「やだよそんな怪しいの誰が飲むってーの」


一通り話を聞いた八木の結論はやはり飲まないであった。

貴重な魔道具を飲んでいい、さらに効果は内緒とあればこれはもう全力で罠ですと言っているようなものである。


「えー、でもこれダンジョン産のアイテムだよー? 体の悩み解決してくれるらしーよ? 髪生えてくるかもよ?」


「俺はふさふさだっ」


例の件で一度禿になった八木であるが、今はもとに戻ってふさふさである。

だが加賀の言葉を聞いて否定したもののどこか不安があるのかそっと髪の毛を確認する八木であった。


「加賀には言ったがジョークアイテムの類でな。毒ではないし時間立つと効果は切れる……まあそこまでひどい効果なのは無いはずだぞ」


あんま酷いのであればヒューゴの命が危ない、そう半分冗談で言うギュネイであるが内容によっては二人ぐらいからボコられるのは確実であろう。

故に飲んでも大したことにはならないはずである。


「て言うかさ、俺じゃなくてヒューゴさんに飲ませれば良いんじゃない? 拒否したらやばい効果って事だし」


「あ、いいねそれ。うーちゃんちょっと手伝ってー!」


(あー……ヒューゴの奴ご愁傷様)


そもそもの話としてなぜ加賀や八木が飲まなければいけないのかと言うことに気が付いてしまった二人。

そしてヒューゴに飲ませれば良いと言うことにも気が付いてしまう。

これからヒューゴの身に起こる事を想像しそっと心の中で手を合わせるギュネイであった。

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