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230話 「樹液酒らしい」

翌朝城のベッドで目を覚ます八木。

起き上がろうとした所で頭に鈍い痛みが走り再び横になる。

思いっきり二日酔いであった。


「ん……っつぅ……頭いてぇ」


ガンガンする頭を押さえ唸る八木。

痛みに気を取られてた為か自分のそばに佇む人影には気づいていないようだ。


「おはようございます八木様」


「あ、おは……ようぇえええっ!?」


横から掛けられた声にゆっくりと振り返る八木であったが、その姿を目にした瞬間思わず悲鳴があがる。

そこに居たのは前回リッカルド国を訪れた際に最初に宛がわれたメイド?さんであったからだ。


「頭いってぇぇ……」


「大丈夫ですか八木様?」


大声をあげたため頭が酷く痛むのだろう、八木は頭を抱えて蹲ってしまう。

そしてそんな八木を気遣うように声をかけるメイド?さん


「だ、大丈夫……え、俺昨日どうしたの……?」


「宴会の最中で酔い潰れてしまったのですよ。あの酒は後から酔いが一気に来ますので……」


寝起きでまだ呆けた頭で昨日のことを思い出そうとする八木であるが、思いっきり酔っぱらっていた為記憶が残っていないらしい。


「そ、そうなんだ……えっと」


「何もしてはいませんのでご安心を。ただ部屋まで運んだだけです」


さりげなく服を確認し言いづらそうに口籠る八木。

そんな八木を安心させるようにメイド?さんが笑みを浮かべただ運んだだけだと伝える。


「そ、そうっすか……ありがとうございます」


「食事の用意が出来ています。準備が整ったら食堂まで行きましょう」


ようやく安心した様子を見せる八木に軽く苦笑しつつ、食事の用意が出来ていることを伝えるとすっと壁際に立つメイド?さん。

八木は頭に響かない様にとゆっくり身を起こし軽く身支度を整えると部屋を出るのであった。


食堂へ向かうとすでに探索者達は食事をとり始めていた。

がやがやと響く声に顔を顰めながら八木も席へと着く。


「おはよーっす……」


「おー、ひっどい顔だなあ」


「あはーまあ、飲みすぎだったしねー」


席に着いた八木を見て口々に好き勝手なことを言い始める探索者達。

二日酔いで苦しんでるのが自分だけと分かって仏頂面を浮かべる八木、知ってたら止めてほしいと呟いている。


「今日は昨日の酒の原料が取れるとこに案内してくれそうだが……だいじょぶかのお前さん」


「少し休めば何とか……うっぷ」


今日は王の計らいで酒の原料を入手するところを見せてくれるらしい。

二日酔いで体はだるいが原料に興味がないわけでは無い。

八木は少し休めば問題ないと答え、料理を口にしようとしてうっと軽くえずく。


「まあ、水でも飲んどけ」


「うぃっす……」


とりあえずは落ち着くまで水を飲んで休む事にしたのであった。


そして朝食を終え、しばしの休憩を挟んだあと一行は黒鉄の森とは種類の異なる木が生えた森へと来ていた。


「これだ」


「んー……? 何か色のついた氷?」


王がくいと指さした地面。そこにはほんのり黄色く色づいた氷が存在している。


「もとは樹液だな、夜中に凍って昼間に水分以外が下に落ちるんだ。で、そこにこの木の実をぶっ叩いて入れると一晩で酒になる」


「っへー!」


お酒の元は樹液であった。メープルなどのように糖分を含んだ樹液なのだろう、それが水分と分離され濃度が高くなり、そこに木の実を入れ醗酵させ酒とする。

割と珍しい樹液酒に関心した様子を見せる八木。


「んじゃ、回収作業はまかせたぞ……ああ、今日の分は昨日のうちに回収してあるからな、ちゃんと飲めるから安心しろい」


樹液をじっと物欲しそうに見ていた八木にそう話しかける王。

自分が物欲しそうにしてたことに気づいた八木は照れ臭そうに頭をかくのであった。



「それでだ、ちょっと八木殿に頼みたい事があってだな」


「お……私ですか? 何でしょうか」


作業員に樹液を集めさせてる間に王が頼み事があると八木へ声をかける。

畏まった様子で対応する八木に向かい手を軽く振り口を開く。


「周りが身内だけの時は普通にしゃべっていいぞ。 今日の宴会に黒鉄のエルフを呼ぼうと思ってな、ちょいと通訳を――」


「はい喜んでぇっ!」


黒鉄のエルフと聞いた瞬間がしっと王の手を取る八木。

先ほど樹液を眺めていたとき以上にの食いつきに王はちょっと……いやかなり引いている様だ。


「……おう、よろしく?」


そう口にする王であるが、小躍りしている八木に届いているかは少々怪しそうだ。

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