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228話 「街の変化」

王座の間に通された八木を出迎えたのはリッカルド国の王、ウィルヘルムであった。

王って何だっけ、そう思うほどに野生の獣を彷彿とさせる王とはかけ離れた風貌を持つその男は入ってきた八木にその鋭い眼光を向ける。


「八木殿。よくぞ来てくれた……いつぞやの黒鉄の森の件以来だな」


「ご無沙汰してます。ウィルヘルム様」


初対面の際には相当びびりまくっていた八木であるが、前回何度も話していたこともあってもう慣れたものだ、こっそり視線を逸らして深々と頭を下げる。


「うむ、元気そうで何よりだ……要件はもう聞いているだろうが、要は宴会しようぜって話だ。つってもまだ始まるまで大分時間あるんでな。それまでは自由に……おお、そうだ街中でも見てくると良い、前回来たときよりも大分街並みが変わっているぞ?」


(口調が……)


最初はそれらしく話していたウィルヘルムであったが次第に面倒になってきたのか口調がぞんざいになって行く。

それはまわりに注意する者がいないせいかも知れない。八木のトラウマになった件もあって、王座の間には女性の姿は一切無い。恐らく宴会もそうなるだろう。


「はい、私も街並みがどうなっているのか気にしていましたので……しばし散策してこようかと思います」


「おう、護衛連れてくの忘れずにな」


ウィルヘルムの言葉に従って散策に行こうと八木は決めた様だ。実際街並みがどうなっているか気になるのだろう、王城へは窓の小さな馬車で来たためあまり外を見る事ができないでいたのだ。



「さてどうすんべ」


頭の後ろで手を組み、そう独り言ちる八木。

散策しに行くとは行ったもののいくつか家を見て回ったあたりで少し飽きてきたのである。


「取りあえずこのまま大通りでも歩いたらどうじゃ? 何か食いもん屋もあるだろうて……腹が減ってかなわんわい」


時刻は丁度昼頃である。

朝食を取ってから大分時間も経っているため皆お腹が空いてきたようだ。


「それもそう……っていきなり肉の焼ける匂いが」


勿論それは八木も同じであり、その意見に同意してあたりを見渡そうとしたところで鼻に焼けた肉のニオイが届く。


「串焼き売ってたんで買ってきたっす!」


ガイが早速屋台を見付けて買ってきたようだ、それも大量に。

一抱えもある袋を大事そうに抱えたガイの元に腹を空かした探索者共が群がっていく。


「一本頂きやっす。……ん、柔らかいし味も良い」


八木もちゃっかり1本ゲットしていたようだ。

加賀ならそれ1本だけでお腹一杯になりそうなボリュームのある串焼きで見た目はかなり美味しそうである。実際八木が食べた限りでは味も良い。


「ただ塩振っただけかと思いましたが違うようですね」


「中まで味が染みこんどる」


ただ焼いただけではなく、事前に何かしら下味を付けるなど工夫を凝らしているのだろう。肉が柔らかく仕上がっているのも恐らくそうである。


「いけるいける。てっか屋台で牛肉食えるの良いなあ。あっちじゃあまり取り扱ってないし……ってもう全部無い」


一本目を平らげた八木が袋へと視線を移すと袋の中は既に空っぽとなっており、ぺしゃりとつぶれた袋があるだけであった。

大量の串焼きは飢えた探索者達のお腹へと一瞬で納められてしまったのだ。


「この匂い……シチューがあるっすよ! シチュー食べたいっす!」


「相変わらず鼻がいいな……」


「シチューねー……そういや前回来たときもそんなのあったっけ。レシピ公開したって言うし、なら期待できるかもねー」


鼻をならしてシチューが食べたいと騒ぐガイ。

見た目は人間と変わりないが彼は人では無い、普段の状態でも鼻がよくきくのだろう。その優れた嗅覚で美味しそうな匂いを嗅ぎ分けるのだ。


「シチューっす!」


いつの間にか居なくなっていたガイが、これまた大量の袋を抱え皆へと差し出す。

中にはシチューがたっぷりと入った容器がいくつも入っていたー


「なんか色が濃いですね……」


「んぐっ……ちょっと塩っぱい」


「確かに……ああ、これパンと一緒に食べるのが前提の様ですよ」


普段宿で食べているシチューよりも大分濃そうな色合いのシチューであった。

見た目通り味は濃いようで少し顔をしかめる者もいる。それもそのはずでガイが抱えた袋の中にはかなり大ぶりのパンも入れられていた、シチューにパンを付けるのを前提としているため濃いめの味付けとなっているのだ。


「本当だ、パンと一緒なら丁度良いかも」


「少しずつだけど広まってるもんだなあ」


「良かったじゃねーか、帰ったら加賀ちゃんにも教えてやんなよ」


「そうっすね」


シチューの元は恐らくは加賀が伝えたレシピだろう。リッカルドでは一般にも公開しているため比較的簡単なものはアレンジしたレシピがある程度には広まっている様だ。


「ねね、あれ食べてみよーよ。すっごい甘い匂いする」


塩っぱい物だけではなく甘い物も取り扱う店があるようだ。その甘い匂いをかぎ付けたシェイラが皆の返事を待つことなく店へと駆け寄っていく。


「お、意外と固い、中にクリームみたいものも詰まってるねー」


店で売っていたのは薄く焼き上げた生地を棒状に丸め、中にキャラメルの様なクリームを詰めたものであった。


「ワッフル生地にキャラメル詰めてんのかな……あっま」


「んー!甘くてカリッカリでおいしい!」


「……頬が痛くなってきたのですが」


外側はカリッとした食感でクリームは非常に濃厚でシェイラをはじめとした一部の物にはかなり好評である。だが大多数のものはその甘さにお茶を求めてふらふらと彷徨っている。


「これ帰ったら加賀っちに作ってもらおーっと」


「えぇぇぇ……」


そのお菓子は加賀が作ったことのないもので有り、この地方特有……か、単に加賀の知らないお菓子のようだ。


(加賀もくれば良かったのになー)


加賀が伝えたレシピが広がっているのをその目で確認できるし、知らない料理に出会うことも出来る。

それに治安も悪く無く護衛が居れば危険はほぼ無いだろう。

次の機会には加賀も連れてこようと思う八木であった。

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