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223話 「バレンタインデー……」

仕事の合間のちょっとした時間をどの様に使うかはその日によって様々だ。

おやつを用意してお茶と一緒に楽しむ事もあればソファーや部屋のベッドで昼寝をする、なんて事もある。

今日は加賀の部屋でPCを使って調べものをしている様だ。加賀はベッドに寝転がり、アイネはPCに向かいキーボードを指でぽちぽちと押している。


「ねえねえ」


「なーにー?」


PCの画面を指さしたアイネが加賀を呼ぶ。

振り返った先に移っていたのは画面いっぱいに広がるハートマークと甘そうなチョコの画像。そしてそれをニコニコと見つめるアイネの姿。


「去年も気にはなっていたのだけど、このバレンタインデーって……」


「あはー……」


チョコなどの甘いお菓子が好きなアイネが惹かれるのも無理はない。だがバレンタインと聞いた加賀の表情はとても複雑であり、どう説明したものかと頬をかいている。


「えっとですね――」


ニコニコと笑顔を浮かべるアイネを前にして知らない、というのは出来そうにない。

加賀はとりあえずありのままを説明する事としたのであった。



「――てな訳です。元は好きな人に何か送り合う日だったみたいですけどー」


「ここでも流行らないかな……」


自分が好きなものは他人にも食べさせたくなるものである。アイネとしてはチョコがこの国に流行ってくれると嬉しいようだ。

加賀としてもチョコが流行る事自体は大歓迎である、だが日本でのバレンタインがどういったものだったかを思い出すと何とも言えない表情になってしまう。


「んー、定着するまで結構な年数掛かるよーな……と言うか色んな男性の恨み買いそうなので定着させたくないよーな」


「恨みを買う?」


「や、ほら。貰える人がいれば貰えない人も居るわけで……」


「……そうね?」


加賀の言葉を聞いて分かったような分かってないような何とも言えない表情を浮かべながらアイネは首をかしげる。


「そう……チョコを流行らせるのに良いかと思ったのだけどね」


アイネはキーボードを突いていた手を膝に置き残念ねと呟くと椅子を軋ませ加賀の方へと体の向きを変える。


「今度ね、カカオの使い道をもう少し詳しく教えて欲しいって話があったの」


そう少し笑みを浮かべ加賀に告げるアイネ。

カカオに興味を持つ人が出てきて嬉しいのだろう。


「あふぇ? そんな話来てたんだ-?」


「午前中加賀が買い物に行っている間にね……それでバレンタインデーの事を聞いたのだけど」


「話すだけなら話して後は業者さんにおまかせって事なら良いかもねー」


アイネの話は加賀にとって初耳であった。

横になっていた体を起こしアイネにその事を話すとどうやら午前中に加賀が不在だった際に尋ねてきていたようである。


「ん、そうしてみる。……それで教えるカカオの使い方なんだけど、何が良いと思う?」


業者が広めてくれるならば加賀には特に反対する理由もなく、バレンタインについては業者にお任せとなったようだ。

そしてアイネにカカオの使い方を聞かれた加賀であるがうーんと悩みつつ頬に手をあて前回教えたカカオを使った料理について記憶を掘り返す。


「この前はケーキとか教えたんだよね? もっと簡単なのって事なのかな?」


「そうみたい」


前回作ったものはいずれも美味しそうなケーキ類がメインであった。

それらはいずれも味も見た目も良いお菓子ではあったが、作るとなるとかなり難しいものもあったりする。

そのあたりから業者はより一般に広がりやすい様にとより簡単なものを教えてほしいとアイネにお願いしたらしい。


「簡単なのー……一番簡単なのはココアにして飲むだよね。 あとはただのチョコでいいんでなーい?」


簡単なものと言って加賀の頭に思い浮かんだのはまずココアであった。これであればお湯と牛乳があれば出来る、何ならお湯だけでも良い。チョコについては凝ったものは作るのは大変だろうが、シンプルならものについてはそうでも無いだろう。現にアイネもさくっと作っているのでその辺りなら丁度良いのでは?とアイネに答えを返す。


「そうだね。他にも用意はするけど、まずはそれでいこうと思う」


アイネも恐らくその辺りで行こうとは思っていたのだろう。

加賀に聞いたのは確認の意味もあったのかも知れない。


「それでー教えるのは何時やるのー?」


「明後日の午後から」


「ん、わりとすぐだね?」


「材料もあるし、業者さんの都合がその日が良かったみたいなの……加賀も一緒にこれそう?」


加賀に確認取る前に話を進めてしまっていた事から少し気まずそうに伏し目がちになるアイネ。

だが加賀自身はその事は気にしてはないようで、軽く笑みを浮かべ言葉を返す。


「もちろん大丈夫だよー。夕飯早めに仕込んでいこっか」


加賀の答えを聞いて顔を上げ笑みを浮かべるアイネ。

そのまま当日実際何を教えるかを相談するのであた。


そして、業者に教えに行く当日、宿の玄関にて。


「……うーちゃんいつのまに」


アイネと加賀の二人が準備を終え、玄関に向かうとそこにはうーちゃんがちゃっかり準備を終えて待ち構えていたのだ。


うー(ごえー)


「ほーほー」


ごえー……つまり護衛であるとうーちゃんは言うが、半分は業者に出す様々なお菓子をこっそり?頂くためだろう。

両手をワキワキさせるうーちゃんを見た加賀はま、いっかと呟くと背中をぐいぐいとう-ちゃんの頭を撫で皆で玄関を出るのであった。

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