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214話 「閑話 夏の過ごし方12」

ラヴィが参加すると聞いた途端、参加者全員から悲鳴があがる。

元々水辺に生息する種族であり泳ぎも非常に得意な彼に人の身で勝つことはまず不可能である。


「ラヴィ参加するのですかっ!?」


「ずりーっす! 勝ち目ないっすよー!!」


このままではカレーではなく、卵料理になってしまう。カレー目当ての参加者はそろって頭を抱えてしまった。

実際にはカレーにオムレツの組み合わせになるのだが、彼らには先ほどの加賀の会話は聞こえてなかったようだ。


「ふぅはははあっ! 何とでも言うが良い! リザートマンが参加しちゃだめとかルールないもんね! 勝てばいいのだよ勝てばあっ」


「くっそ!この糞トカゲめ! 急に流暢に喋りやがってからに……」


一方のラヴィはテンションがおかしい感じになっていた。

何時もは片言な言葉も何故か流暢である。

プールの端で妙なポーズを取り始めたラヴィを殺気交じりの視線を投げるがラヴィはそんなのどこ吹く風である。しかし何にしろ事前にルールを決めてなかった以上彼が参加する事は拒否できない、半ばあきらめたようにラヴィの参加が承認されるのであった。



「んじゃ、位置についてよーい」


そしてレースが始まる。

プールの縁に立つ者へスタートの合図をかける役となった加賀が手を上げ、声を掛ける。

現在プールの縁に立つのは二人だけ、プールの幅に限界があるため人数を絞っているのだ。

通常であればもっと大人数で参加可能であるが今回ばかりはそうもいかない、鮫を彷彿とさせる頭部に首長竜のような首と胴体。ラヴィは全長は30mを優に超えているその参加者をきょとんとした目で見つめていた。


「どん」


スタートの合図があった事に気が付いたラヴィは隣のドラゴンから慌てて視線を切るとプールへ飛び込む。

どうやらドラゴンが動きだす前に逃げ切るつもりらしい、その泳ぐ速度はまるで魚の様ですらありゴール目掛けてぐんぐん進んでいく。


「ぐわあああああ」


が、ゴールまで半ばまできた所でドラゴンがプールへと飛び込む。

巨体により生じた波にラヴィは流されコースアウトしてしまう。そして生じた波は次に周りで見ていた人へと襲い掛かっていった。



「ラヴィ、コースアウトで失格~、ドラゴンさん妨害で失格。料理に被害でそうになったので罰として尻尾さしだしなさい、根元からでもいいのよ?」


「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛ぃっ!」


勿論料理に被害が出るのをアイネとうーちゃんの二人が黙ってみているわけもなく、二人によって波から料理は守られたのであった。


「んじゃ次いくよー次。ほら並んで並んで」


うーちゃんに尻尾をむんずと捕まれ連行されたドラゴンを横目に加賀は次のレースを進めていた。

あまり時間が押すようだと夕飯の支度に支障が出かねないのである。



「結局全種類作る事になったと……あ、おいし」


「うん…… まさかあんな凹むとは思わなかったからねえ」


レースは無事終了し、プールサイドで寛ぐ加賀とアイネ、それにうーちゃん。

エルザと八木はレースが終わるなり滑り台に直行している為ここには居ない様だ。

今度はかき氷ではなくアイスクリームを食べながらレースの結果について語る二人。

結果はチェスターの勝利であった。比較的細身であったせいか皆よりも速度が上だったのである。


「もうちょい気軽に作れれば良いんだけどこればっかりはねー」


「作るの大変なの? 確かにすごい種類の香辛料使ってたけど……」


「んー……そうでもないんだけど。はいこれうーちゃんの分ね」


大変と聞かれどう答えようかと考える加賀。確かに大変は大変であるが、大変の意味が少し異なるのだ。

うーちゃんにアイスを乗っけたコーンを手渡すと加賀は再びアイネに向かい口を開く。


「お金がねえ……ちょっと手に入りにくいのがあってそれが恐ろしく高いんだよね」


「そんなに?」


「一回作ると100万リアは掛かるねぇ……チョコも良い感じに出来てるね」


コーンにチョコアイスを乗せ満足そうに頷く加賀。

バニラだけでは悲しいのでいくつか種類を作ってあったのだ。


「それはちょっと気軽には作れないね」


「バクスさんに相談かなー……」


さすがにそれだけの金額となると加賀単独でぽんと決めて良いものではない。

バクス自体カレーが大好物すぎるぐらい大好物なので反対する事はないだろうが、それでも相談は必要である。

加賀は小さく息を吐いて手に持ったアイスを口に運ぼうとし、ふと自分をじーっと見つめるうーちゃんの視線に気がつく。


「な、なに? うーちゃん」


うー(ひとくちー)


見てたのはアイスだったらしい。


「えぇ~うーちゃんさっき……もう食い終わってるし。……しょうがないなあ、はい」


他人が食べているのは美味しそうに見えるものである。

加賀はうーちゃんの視線に負け、一口だけだよーとアイスを差し出した。


「あ」


一口だけかじろうとしたうーちゃんであるが、かぽっと音を立てアイスが丸ごとコーンから外れてしまう。

それを見て固まる加賀とうーちゃんの二人であったがうーちゃんが再起動するほうがちょっと早かった様だ。口を高速で動かすとアイスをあっという間に平らげてしまう。


う(うまし)


「うーちゃんめ……」


加賀がうーちゃんの頬を手でぐいぐいと揉みしだくがうーちゃんに反省した様子は見られない、むしろ楽しそうですらある。


「もう、しょうがないなあ」


そう言って手を離すと再びアイスを作りはじめる加賀。

それにそのアイスを再び物欲しそうな目でみつめるうーちゃん。

加賀がアイスを食えるのはしばらく先になりそうである。


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