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212話 「閑話 夏の過ごし方10」

何となく想像はつくが一体何があったか確かめるべく加賀は声の元へと近付いていく。

プールの床を歩くように進む加賀の肩にはぷかぷかと水中に浮かんだアイネがしっかりしがみついていたりする、アイネも念の為ついて行くつもりの様である。


「何かあったのー?」


「おや、加賀さんと……アイネさん。 いやなに、何時ものあれですよ」


騒動の中心から少し離れていた所で遠巻きに見ていたチェスターに声をかける加賀。

声をかけられたチェスターは振り返ると加賀の肩にしがみついていた手を見てビクリと身を震わせる。一瞬手だけが肩にしがみついている様に見えたのだ。

手がアイネのものだと認識したチェスターは騒動の中心を指さして呆れたようすで言葉を続ける。


「あーなるぼどね。今回は何が原因で?」


「どっちが泳ぐの速いとかそんな話だったんですけど……今はただ悪口言い合ってるだけです」


予想通りの光景に納得して騒ぎの原因を尋ねる加賀であるが、やはりそちらも予想通り些細なことが原因であった。


「ふーん……実際泳いで確かめれば良いのにねー」


「まあそうなんですが……」


実際泳いで確かめれば良い、そう言った後に何か思いついたように手をぽむっと叩く加賀。


「せっかくだし皆で競争でもしてみたらー? 優勝者には豪華賞品が――」


豪華賞品と口にした瞬間周囲に居た者の視線が一斉に加賀へと向かう。


「ほう?」


「それはあれかい、また好きなもの作ってくれるとか?」


「まじっすか!」


以前の雪合戦で勝者の食べたい物作る権利を賞品にした事を皆きっちりと記憶していたのだ。前回もそれなりに反響はあったが今回は皆の食いつき具合が違う。と言うのも前回と違って皆どうしても食べたい物があるのだ。


「――……なんちゃって」


「聞こえてないみたいよ」


ぼそりと呟く加賀であるがもはや手遅れである。

アイネの落ち着いた指摘の声にやっちゃったと言う表情を顔に浮かべるのであった。



「あーん? 皆で競争するだあ?」


「……競争する意味あるのでしょうか、どうせ皆頼むものは同じでしょう」


皆で競争、勝ったら豪華賞品と聞いて一旦言い争いをやめた二人であったがその口からは何で競争するのかと否定的な言葉が聞こえてくる。


「カレーっす」


「カレーだの」


「カレー以外あり得ない」


アルヴィンの言葉通り皆の口から出るのはそろってカレーという単語のみであった。

それ見たことかと軽く息を吐くアルヴィンであったが、そこでふとある事に気が付いた様だ。


「誰が勝ってもどうせカレーに……ああ、でも毎月一回だけのカレーが二回になるのです。やる意味は大いにありますね」


「それもそうだな。何だよ、たまには良いこと言うじゃねーか! いやー、楽しみだな。俺はスパイシーでほろほろになった牛肉が好きで――」


月に一度しかないカレーの日がもう一日増える。そう分かった途端にころっと態度を変える二人。

ヒューゴに至っては自分の好きなカレーについて語り始めるが、それを聞いた一部の者の顔が一気に本気になる。


「は? 何言ってるんです。シーフード一択でしょう? とうとう暑さで頭までやられましたか」


「あぁっ!?」


「落ち着くっす二人とも。自分はボアのが良いっす」


心の底から見下した表情を見せるアルヴィンに青筋立ててガン付けるヒューゴ。

止めに入ったガイまでちゃっかり主張し始める。


「牛はシチューとかぶるし、ボアもええが食い慣れた鳥がええのお」


「牛か鳥」


「同じく」


一人が言い出すともう止まらない。普段は無口な地味ーずの二人まで言い出す始末である。


「収集つかねーぞこれ……くそっ、おめーらはどっちだ?」


皆が口々に自分の好みのカレーが一番だと語り出し、しかも票が見事に分かれている為中々収まりがつかなくなる。

どこかに票が寄れば騒ぎの収まるかとヒューゴは議論に参加していない者にも話を振り始める。


「え? 私は別に何でもいいよ……食べたいのはデザートだけど、頼まなくてもどんどん新作くるし」


「ぐ……ラヴィッお前は?」


「……卵がイイ」


「お前らに聞いたのが間違いだったよ、ちくしょうっ」


だが女性陣や卵大好きなラヴィはカレー自体にそこまで興味を示す事はない。

その騒ぎは加賀が中止でいいかなー?と発言するまで続くのであった。

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