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211話 「閑話 夏の過ごし方9」

しゃくしゃくと雪のような氷の山にスプーンを立てては口へと運んでいく。

氷はふんわりと柔らかく甘く味付けされたそれはそのままでも十分美味しい。そこによく冷えた季節のフルーツが加わればその味わいは格別である。


「頭いたぁ~い」


「急いで食べるから……」


だが美味しいからと言ってばくばく食べればどうなるか……苦悶の表情を浮かべ頭を押さえる女性陣の様子を見れば良く分かるだろう。



「……皆落ち着いてきたかなー」


加賀はかき氷を食べ終えると辺りを見渡しポツリと呟く。

参加者の内の半分は飯を食べ満足したのか腹ごなしとばかりにプールで歓声を上げながら遊んでいる。残りの半分は用意した椅子で寛ぎ、時折酒を飲みながらつまみ代わりに焼いた肉などを食べている。

もう自分が居なくても各自で好き勝手にやるだろう、そう判断した加賀はよっと言う掛け声と共に席を立つと水着の入った箱の方へと向かっていく。


「お? 加賀も泳ぐのか?」


そんな加賀に気が付いた八木。切なそうに見つめていた骨だけになったスペアリブを皿に置くと加賀へ声をかけた。


「うん、皆落ち着いてみたいだしね。八木もそろそろってもう着替えてたか、早いね」


ちらりと八木の格好を見る加賀であるが、八木は下は既に水着になっており、上はとりあえずシャツだけ着ている状態であった。


「まーな。本当は飯食う前に泳ぐつもりだったからなあ」


「……ああ、なるほど。んでエルザさんはどしたの?」


軽く息を吐く八木をみて先ほどの出来事を思い出し納得した様子を見せる加賀。

本来であれば真っ先にプールに向かうつもりだった八木であるがそこを水着の事を説明していなかったが為にエルザに呼ばれ事情聴取となったのである。


「さっき水着を受け取って着替えに行ったぞ」


「そかそか。ボクも水着貰って着替えてくっかねー」


だがそれも既に解決済みである。現にエルザは水着に着替える為宿の中に向かった後であった。


「アイネさんも食べ終わったら着替えるといいよー」


「ん、これ食べたら着替える」


加賀は八木と分かれ水着を取りに向かう途中まだ食事中だったアイネにも一声かけて行く。

アイネも食事を終えるところだった様でもうすぐ無くなりそうなローストビーフサンドを片手に加賀の言葉に応える。



「えーっと名札名札……あ、これか。よかった思ってたより普通のだ」


箱の中をごそごそあさるとすぐに加賀の名札が張られた水着が見つかる。

加賀は手に取った水着を空中で広げてほっと安堵した様子を見せる。加賀の水着はごく一般的な男性が着る海パンであった。

ちなみに男性陣の水着は今のところ全てこのタイプであり、ブーメランタイプの水着が当たった者は居ない。



「プールで泳ぐの久しぶりだなー……あ、エルザさん」


男性は水着に着替えるのにはあまり時間が掛からない。服を脱いで下を履くだけで終わりである。加賀もその例に漏れることは無かったようだ。部屋に入って水着に着替えるとすぐに廊下へと出て来て、玄関にいるエルザの後ろ姿を見かけ声をかける。

宿に入ったのはエルザの方が大分先であったが着替えの速度の差でほぼ同時に着替え終わっていたらしい。


「あ、加賀さんも着替え……て……えぇぇええっ!?」


加賀の声を聞いて振り返りそのまま会話をしようとしたエルザであったが加賀をみて思わず驚きの声を上げてしまう。


「な、なな、なんて格好してるんですかっ」


「え……」


加賀の方を指さし顔を真っ赤にするエルザ。

一方の加賀は一体何のことかとあっけに取られた顔をしている。


「いくら常識が違うと言ってもそれはいけません!」


オロオロする加賀の腕を取り、玄関から離れようとするエルザであったが外で待っていた八木が物音に気が付き玄関を開けて中を覗いてしまう。


「二人とも何かあったのか?」


八木の視界に映ったのは水着姿の加賀の腕をひく同じく水着姿のエルザである。それだけ聞けばなんてことの無い光景だ。だが八木はあ、これ目刺されるパターンだと瞬時に理解してしまった。

ほぼ無意識でさっと手で目をガードしようとする八木。彼の視界の端には白い何かが見えていた。


「あ、あっぶねえっあ゛あ゛ぁ゛~~~!」


うっ(あまいわ)


結果的にうーちゃんの初撃を奇跡的防いだ八木であったが、その直後ぐりんとねじられた耳によってガードはこじ開けられ目に耳が突き刺さった模様である。




「……だ、男性!?」


「そうでーす」


「た、確かに胸は膨らんでいないし……いえ、でも」


加賀が男性である事を聞いて疑いの眼差しで加賀の体をじっと見るエルザであったが、確かにその体には胸の膨らみなどは見られない。


「それでもその格好は不味いと思います、もし間違いでも起きれば……それはそれで良いかも知れませんが」


「え」


だがほぼ女性にしか見えないその外見で男性の水着姿でいるのは問題だろうとエルザは考えたようだ。

加賀が脱いだシャツを指さし言葉を続ける。


「とにかくその格好は不味いと思います、せめてシャツか何か羽織っておいてください」


「い、いま……その……はい」


エルザの目がマジだった事もあり、上にシャツを着る加賀。

加賀自身はまだ過去の感覚が抜けきって居ないところがあったりするが、自身の外見がどうなっているか分かってない訳では無い。なのでシャツを着るのも仕方なしといった様子である。



「結局上まで水着になった……」


が、結局シャツは透けるからという理由でダメ出しをくらい。加賀は小さい子供用の様な水着を上に着る事となったようだ。

少なくともシャツよりはましだろう。


「それはしょうがないと思うよ。私だって水着変えたのだし」


水面から顔を出し、手を加賀が握った状態でバタ足で泳ぐ練習をするアイネであったが、加賀の呟きを聞いてそう返す。


「いや、アイネさんのあれは……大分泳ぐの慣れてきたね。一応クロールと平泳ぎ、一応背泳ぎも教えるけどこっちはその内出来るようになればいいかなー」


泳げなかったアイネであるが練習を繰り返す内に徐々に泳げるようにはなっていた。次はバタ足からクロールや平泳ぎ等も教えていくようだ。

ちなみに今のアイネの水着はシンプルなビキニタイプである。


うー(かがーかがー)


「うーちゃん氷の上楽しそうねえ」


アイネが泳ぎの練習をする横でうーちゃんが氷に乗ってはしゃいでいた。

八木の目を突いた時以外ずっと氷の上に居る辺り大分気に入ったようである。


うー!(かがー!)


「んー?」


そんなうーちゃんを微笑ましそうに見ていた加賀であったがどうもうーちゃんの様子がおかしい事に気が付く。

はしゃいでと言うよりは必死になって加賀に呼びかけているように見えるのだ。


うー(たしけて)



どうやらうーちゃんは気に入ってずっと氷に乗っていたわけでは無く、毛が凍り付いてとれなくなり身動きがとれなくなっていたようだ。

無理やり取るわけにもいかないので加賀は凍り付いた毛皮に水を汲んで掛けて溶かす事したようである。


「確かに毛が抜けそうだもんねえ……背中部分は溶けたかな? ちょっと上半起こしてみて」


もちろんうーちゃんの力を持ってすれば簡単に取ることは出来るが、うーちゃん曰くそれをすると毛が抜けそうな気がして出来なかったとの事である。


「あれ、なんか言い争ってる?」


うーちゃんの上半身が氷からとれた辺りで加賀はプールの端の方から何やら言い争うような音を捕らえる。

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