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210話 「閑話夏の過ごし方8」

切り分けたスペアリブを皆が食べて居るのを見て間に合ったと安堵の表情を浮かべる八木。

エルザに手近な椅子に座るよう声をかけ自身は加賀の元へと肉を取りに向かう。


「間に合って良かったわ。加賀、こっちにもお肉おくれー」


「ほいほい。……じゃ、こっちはエルザさんの分ね。 んでだいじょぶだったん?」


加賀は肉を皿に取り分け渡す際にちらりと横目でエルザの様子を窺い八木に声をかける。

ぱっと見で不機嫌な様子は見えなかったが一応気にはなるのだ。


「おう、致命傷で済んだぞ」


「致命の時点でダメじゃん」


八木の言葉においおいと言った表情を浮かべる加賀。

まあ八木としては問題なかったと言いたかったのだろうが……。


「まあ、プールの映像見せてやましい気持ちなんてほんの少ししか有りませんって言ったら許してくれたよ」


「そこ、あるって言っちゃったのね……」


「嘘ついてもバレバレじゃん」


「胸張って言うなし……」


八木の説明に呆れた表情を浮かべていた加賀であるがその堂々とした態度を見て諦めた表情へと変わっていく。

軽く息を吐いてソースの入った容器を八木へと手渡す。


「はいこれソースね。冷めない内にエルザさんと食べなー」


「お、あんがとなー」


ソースを受け取った八木は喜びスキップするようにエルザの元へと向かっていく。その様子をぼーっと眺めていた加賀であったが、その背中に背後から声が掛かる。


「加賀ちゃーんちょっといい?」


「おー?」


加賀が振りかえるとそこにはプールの縁に上半身をのせたヒューゴがヒラヒラと手を振る姿があった。


「なんかさープールの水温くなってきたんだけどさ、これ冷たく出来ないのかな?」


「んー……あ、ほんとだぬるま湯みたい」


ヒューゴの用件は水が温いので冷やせないか、と言うものであった。加賀が確かめるように足のつま先をちょいちょいと水面に付けて見ると、確かに水はぬるま湯の様になっていた。

焼け付くような日差しと暑苦しい連中の熱気によって水温が一気に上がってしまったのだろう。


「んー……アイネさーん。ちょっと手伝ってー」


一瞬精霊に頼む事も考えた加賀であるが周りにはエルザなども居る、出来るだけ使わない方が良い、そう判断し加賀はアイネへ声をかける。


「……ん、どうしたの」


アイネは皆に混ざって食事中であったようだ。その手には他と比べて幾分大ぶりに切られたスペアリブが握られている。


「アイネさん食事中ごめんねー。 プールの水が温くなっちゃって冷やしたいんだけど……お願いしてもいい?」


「ん……うん、いいよ」


口に含んでいたお肉をゴクリと飲み下し、アイネは片手を水面に向け何やら詠唱を始める。


(詠唱って途切れ途切れでもいいんだ……?)


詠唱を始めたアイネを見てそんな事を考える加賀。と言うのもアイネは詠唱する片手間にお肉をもしゃもしゃ食べていたりするのだ。魔法を使うための詠唱と言うのはもっと、こう集中して行うはずであるが……冷やすためだけの恐らくは簡単な魔法であり、アイネにとっては別に集中が必要なものでは無いのかも知れない。


「おー凍ってくー」


アイネが完成した魔法を放つと着弾した水面がぴしぴしと音を立てて凍り付いていく。


「冷てええええ!?」


それはぐんぐん範囲を広げ側にいたヒューゴを見事に巻き込んだ。


「ありがとアイネさんー」


「どういたしまして」


加賀からお礼を言われたアイネはにこりと笑い再び食事が並んだテーブルへと向かう。他にも色々と料理は用意してあるので全部食べてみるつもりなのかも知れない。

そしてアイネが凍らせた水であるが今は小さな氷山の様にぷかぷかと水面に浮かんでいた。凍った範囲はどうやら横にではなく下に広がっていたようだ。もし横に広がっていたら今頃ヒューゴは全身氷付けになっていただろう。


うー(うひょーい)


そんな氷山目がけて犬かきですいーっと近付いていくうーちゃん。ひょいっと氷山の上に乗っかると必死になって腕を抜こうとしているヒューゴを尻目にごろりと横になる。

どうやら涼みに来たらしい。


「うーちゃん涼しげでいいねえ……」


うー(つめたーい)


その姿はまるで流氷の上に乗ったアザラシか何かのようであり、見ていて中々和む光景である。加賀はそれを眺めつつこっそりデザートのかき氷を食べるのであった。


「あっ、ずるいー。一人だけデザート食べてるー!」


「ソシエさんイーナさん……シェイラさんも食べますか?」


「加賀っち今私のお腹見たでしょっ」


こっそり食べようが甘い匂いが漂えばあっさりばれるものである。加賀は早速女性陣に集られる羽目になったようだ。

なおヒルデは甘味よりも酒とお肉派のようでデザートにはまだ興味を示さずひたすらスペアリブに齧り付いていたりする。


「それじゃーこれ回してくださいな」


シェイラの突っ込みをスルーして加賀が皆の前に差し出したのはゴートンお手製のかき氷器である。

ハンドルをぐりぐり回せばふわふわに削られた氷が容器の上に降り積もっていく。

色が白なのはただの氷ではなく牛乳も使っているからだ。

上にも大量のカットフルーツが乗りかなり豪勢なかき氷が完成となる。

氷にシロップだけでも十分いけるが加賀は切角だからと凝った物にしたようである。

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