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209話 「閑話 夏の過ごし方7」

そしてBBQ大会当日。

会場となる宿の庭には朝から大勢の人が集まり人垣が出来ていた。

彼らの目の前には大きな箱がいくつか置かれており、いずれの箱にも何やら布で作られたものが入っているのが伺える。


「それじゃ、みんなの分の水着は用意してもらったんで配っちまいますね」


そう言って八木は箱をごそごそ漁り各自の名札が張られた水着を取り出すと手渡して行く。

手渡された者はそれが下着と大差ないような代物であると知って驚き目を見開いている様子である。


「なるほど、泳ぐ様の服ですか……」


水着を受け取ったものは実際に手に取り広げてまじまじと観察を始める。

確かに布地成分は少ないが、それは泳ぎやすい恰好である事を意味する。


「おいおい、これしか履かないのかよ」


「普段と変わらないでしょう?」


「ここまではだけてねえよっ」


「とりあえず着替えるっすよ。確かにこれなら泳ぎやすそうっす」


そう言って水着片手に一旦宿の中へと引っ込む男連中。

庭は外から見えにくいとは言えさすがに外で着替える事はしないようだ、下手すると通報されかれないので当然ではあるが。


「……加賀っち、これまじ? 布成分がほとんど無いんだけどー」


「えー……はい。 あ、でも普段の格好とあまり変わらないと思います……よ?」


「ええっ!? さ、さすがにそれは……ない、よね?」


同意を求めるように当たりをきょろきょろと見渡すシェライであるが、誰も彼女と目を合わせようとはしない。

実際短パンにチューブトップブラという格好が多いのであまり水着と変わらないと言えば変わらなかったりする。


「うん……まあ、確かにそーね。 まあいいや着替えてこよっと」


と言った感じで女性陣も宿へと引っ込み水着に着替えにいく。

普段からラフな格好をしている分抵抗が少なかったようだ。

問題は……。


「八木様? ちょっとお話が……」


「……はい」


エルザに手を取られ物陰へと向かう八木。

もちろん待っているのは楽しい出来事ではなく、お説教か何かだろう。

どうも八木は直前までエルザに言い出せないで居たようだ。ここまできて帰るとは言い出すことは無いだろうが、八木の顔に紅葉ぐらいは出来るかもしれない。


「加賀はどうするの、もう着替える?」


「そだねーとりあえず料理出来たらかなー。 火使ってるし危ないからね」


「……そうね。後にしましょうか」


料理組は水着に着替えるのは後にするようである、他の者がプールで遊んでいる間に料理を仕上げる必要があり、さすがに素肌をほとんど晒した状態で料理をするのは危険を伴うだろう。


「うっしゃ、さっそく泳ぐとすっかね」


「一番乗りっす!」


男性陣の着替えは早い、宿に戻って早々来ていた服を脱ぎ去り水着へ着替えると彼らは一直線にプールに向かいほぼ同時に水面へ飛び込んだ。

かなりの勢いと重量が一気に水に入ったことで盛大に水しぶきが上がる。


「ちょっ」


水しぶきはプールの側で調理していた加賀達の方まで飛んでいく、このままでは料理がだめになる。そう思われたがそこはアイネが咄嗟に張った障壁の様なものでガードされる。


「危ないなーもう」


「少し離しましょうか、たぶんまた飛んでくる」


そういうとアイネはひょいと機材を持ち上げプールから離してしまう。

炭で熱せられているはずだがあまり気にしてないようである。


うー(かがー)


「ん? うーちゃんも泳いでくる? いいよ、こっちは火の加減見るぐらいだからいっといでー」


加賀から許可を得て大はしゃぎでプールに入るうーちゃん。

ふと、加賀は兎ってどう泳ぐのだろう……と気になり視線をプールに入ったうーちゃんへと戻す。


「……なんでバタフライ」


犬かきか何かだろうかと思っていた加賀の予想に反してうーちゃんは豪快なバタフライでプールを泳ぎまくっていた。

しかも足の力が強いからかそれとも腕の力だろうか、とにかくスピードが恐ろしい事になっている。


「トビウオみたい……っと、そろそろソース塗らないと」


何人か弾き飛ばされていたが加賀は見なかったことにしたようだ。

ソースの入った器をもってそそくさとその場から離れていく。



昼が近づくにつれて料理のほうも出来上がってきたようだ。

みんな泳いで体を使ったせいだろう、腹を大分空かせているようですぐ焼けるものを焼いてはつまんでいる。


「そろそろいいね」


「あ、それ開けるんですか。ずっと何焼いているか気になっていたのですよね」


「そーそー、これむっちゃいい匂いで気になってたんだよねー」


そろそろ完成と聞いてあたりに散っていた皆がぞろぞろと加賀の周りに集まってくる。

みんな腹を空かせて目をギラギラさせており暑苦しいことこの上ない光景であるが加賀にとっては慣れたもの……でも無いようだ。よく考えれば海パン一丁のむさい男たちに囲まれた経験などないはずである。

なるべく視線をそちらに向けない様に目の前の料理に集中し蓋をぱかりとあける加賀。途端に周りからかなりの音量で歓声が上がる。


「アイネさん切り分けお願いしますー」


「ん、まかせて」


スペアリブの塊をただの包丁で骨ごと切り分けていくアイネ。巨大な肉塊はあっという間に人数分に小さく切り分けられ各人に振舞われる。

もっとも小さくとは言っても加賀の肘から先ぐらいのボリュームであるが。


「お、お、おぉぉ……うまい! 酒にも合う!」


「これうまいよ加賀ちゃん。これなら1本丸まる食えるよ」


「1本食べたらほかの入らなくなりますよー?」


そんな感じで和気藹々とお肉をもしゃっていると先ほど二人でどこかに行った八木とエルザが戻ってきた。


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