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204話 「閑話 夏の過ごし方2」

映像には暑い中外で食事をし楽しそうに酒を飲む人の映像が流れていた。


「夏ってこんな感じで過ごすのね……確かに私の国でも暑い時期なのに外で飲み食いしてる人は居たね。それも嫌々じゃなくて楽しんでそうだった」


アイネの国は漁業が盛んなのと大勢の商人が街に訪れることもあってそれらの人が食べる屋台が比較的多く並んでいた。

前回二人で行ったときもそうだったが屋台で買った料理はその場で食うのが普通の様であった。夏になればあれに冷たく冷やされた酒が加わるのだろう、炎天下の中日陰で涼みながら美味い魚によく冷えた酒が合わされば実に美味しく感じることだろう。


「何時もやるってわけじゃーないんですけどね。どっちかというと普段は冷たいモノとかスタミナつくのとか、あと逆に熱くて辛いの食べたりとか? BBQはちょっとしたイベントみたいな感じかなー」


「……冷たいのとかスタミナつくのは分かるけど。熱くて辛いものを食べるの?」


それは逆効果なのでは?と首を傾げるアイネに加賀はどう説明したものかとこちらも首を傾げる。


「新陳代謝が活発になっていいとか何とか……?」


何となくそんな事を聞いたことがあると言う実に当てにならない理由を説明する加賀。説明している本人も良く分からないので疑問系になってしまっている。


「……確かに皆汗だくになって食べてたね。辛いならやめれば良いのにと思ったけど……結局作ったカレー全部食べきってたし……」


暑いと辛いのが美味しくなるのかな……と呟くアイネ。彼女は暑いのはまったく平気……と言うより暑さや寒さを感じてすらいないかも知れない、なので暑いなか食べると美味しいといった感覚がいまいちぴんとこないのである。


うー(かがー)


「ん?」


ふいに袖をぐいぐいと引かれそちらを振り向く加賀。

袖を引いたのはうーちゃんであり、もう片方の手で画面をぺしぺしと叩いている。


うー(おにくたべたい)


画面に映っていたのは骨付きのバラ肉を塊で焼いている映像である。

その豪快な焼きっぷりにうーちゃんは心奪われてしまったようだ。


「さすがにそれはすぐには作れないかな……ま、お昼はお肉メインにしよかねー」


目をキラキラさせるうーちゃんに申し訳なさそうに話す加賀。

可能であれば作ってあげたいところではあるのだろうが、あんなかたまり肉はすぐには手に入らないだろうし、出来れば道具も専用のが欲しいところである。


「かたまり肉と道具あれば出来る?」


「ん……練習は必要だけど出来ると思う。アイネさんも食べてみたいです?」


「うん、ちょっと食べてみたい……それに楽しそうだから」


そう言われてしまえばもう作るしかない。

映像を見終わった3人は作るのを前提で今後のことを話しながら食堂へと戻っていく。


「道具はゴートンさんに相談してみようかな、たぶんさっきの映像見せれば食いつくと思うんだ」


「そうね、あとはプールかな。あれは八木に相談してみると良いと思う……ちょうど帰ってきているみたい」


「あ、そうなんだ? 暑いし仕事中止にでもなったのかなー」


この炎天下の下で現場作業は相当辛いはずである。

八木の所属しているギルドはあまり無理をさせる事はしないので暑さが本格的になる昼前に中止にしたのだろう。現に食堂の中からは人の気配が感じられる。


「お、加賀。わるいなビールもらっあ゛あ゛ぁ゛~~~!」


うーちゃんの耳が八木の目を貫く。

アイネの言う通り八木は帰ってきていた。

そして暑かったのでビールを片手に椅子に腰掛け寛いでいたのだ……上半身裸で。


「八木、ちょっとお願いがあるんだけどー」


「っあ゛あ゛ぁ゛~~~!?」


八木が落ち着くまでしばらく掛かった。



「ほー、プールかぁ……プールねえ……なんか余計暑苦しくなりそうな気がするんだけど」


八木の脳内に浮かぶのは筋肉質な男共がプールで戯れる非常に暑苦しい映像であった。

げっそりした表情を浮かべる八木を見て加賀が口を開く。


「エルザさんでも誘ってみたら?」


「実に素晴らしい考えだと思います」


先ほどまでに様子が嘘のようにキリッとした表情で加賀に賛同する八木。

八木がやる気を見せたところで完成までどれくらい掛かるか尋ねる加賀であったが、その答えに落胆した表情を見せる。


「数ヶ月って夏終わっちゃう……」


「だってさ、ある程度の広さ欲しいだろ?穴掘るだけでも……ん? 加賀、精霊魔法で何とか出来ない?」


落胆した様子の加賀に訳を話そうとする八木であったがここでふと精霊魔法のことを思い出す。


「……出来ると思う」


規模は違うが過去に精霊にお願いして簡易のお風呂を作ってもらった事のある加賀は八木の質問に対しこくりと頷き返事をする。


「濾過装置もいらんだろ……排水も気にしなくて良いか、てか風呂代わりに使えるぐらいだからコンクリいらんよな……じゃあ、外見だけ整えればいいのか?」


「ケーキ1ホールでやってくれるかなあ……」


考えに没頭しブツブツと独り言を呟き始めた八木。

加賀は精霊にお礼がわりに何を渡せば良いか考えているようだ。魔力を対価にそれらの事をやって貰うとなると加賀の魔力では全くもって足らない、だが食事を用意してお願いすれば話しは別である。問題はそれだけ大規模な事をやるとなるとどれだけお礼を用意しなければならないかと言うことである。



「おー……すっごい一瞬でこんなん出来るとは」


が、加賀の心配は杞憂に終わる。精霊に姿を見せるようお願いし交渉したところ燻製の盛り合わせとビールで問題ないとの回答があったのだ。

ぽっかりと空いた広大な穴の床や壁はつるりちとした表面で覆われており、このまま水を入れればプールとして使えそうな状態である。


「いやーすっげえなほんと……」


穴が出来上がるまでの光景を見ていた八木はなんとも言えない複雑そうな表情を浮かべる。

プールが早く完成するのは八木にとっても大歓迎だが、こうもあっさりやられると普段必死こいて穴掘ってる身としてはやはり思うところがあるようだ。


「ま、早々使える手じゃないしなー」


作業自体は周りの目を誤魔化すためアイネに手伝って貰い、加賀ではなくアイネがやったように見せかけている。

が、何度もやれば何時も加賀がセットでいることに疑念を持たれる可能性もある、あまり多用出来る方法では無いだろう。


「んじゃあとは仕上げだけかな、明後日には使えるようなると思うぞー」


とまあ、兎にも角にもプール自体はすぐ使える様になりそうである。

加賀とアイネは作業を終えたその足でゴートンの元に調理器具の作成をお願いしに行くのであった。



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