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195話 「ポーションの使い道」

わずかな雲にあとは青い空、風は無く冬ではあるが着込んでいればそう寒さに震える事もないだろう。

実に釣り日和な天気である、釣り竿を持つ皆の顔にも自然と笑顔が浮かび次々と氷に空いた大小さまざまな孔に仕掛けを投入していく。だがそんな皆が笑みを浮かべ釣りを開始する中、一人だけぶすっと仏頂面を浮かべる男がいた。


「なーなー……」


「なんです、ヒューゴ」


コーヒーに苦虫ぶちこんで飲まされたような表情を浮かべるヒューゴに対し、涼しい顔で返すアルヴィン。

だがその顔は決してヒューゴの方……というよりはヒューゴの目の前にいる人物に向けようとはしない。


「なんで俺の前に全裸のおっさんがいるんですかねえ。絵面的に最悪だよ」


「全裸では無いぞ、腰に布を巻いているではないか」


「ほとんど変わんねーよ! !!」


ヒューゴの前にいたのはドラゴンである。

一応応急処置として腰に布を巻いてはいるが隠す効果は限定的だ、しかも釣りをする為に足を開いているので目の前にいるヒューゴにとってはかなりきついだろう。


「それもこれもくじ引きでそこを引いた貴方が悪いのです。諦めて犠牲になりなさい」


「犠牲とか言いやがりましたよこの糞エルフ」


「まあ、人間よ。私がこうして服を着ないのにもきちんと訳があるのだ」


言い争いに発展しそうな二人を見てドラゴンがなだめる様に声をかける。

誰のせいでこうなったと思ってるんだ、そう思うもぐっと口に出すのを我慢しヒューゴはドラゴンの言葉を聞く。


「ほう……どんなだ」


「人の恰好で裸になると妙な解放感があって気持ちが」


「ただの変態じゃねーか!!」


ヒューゴの予想してたの遥かに上回って碌でもない理由であった。

思わず叫ぶヒューゴにドラゴンは心外だといった表情で反論する。


「別に変態ではない。ドラゴンはそもそも服など着ない……っと竿にあたりが」


「股を開くな! 踏ん張るんじゃねえええ!」



一部が騒ぎだすと言うちょっとしたトラブルはあったが皆無事釣りを再開できたようだ。

釣果の方も悪くはない、水柱が上がった事や急に島が出来て逃げ出した魚もいたが元々魚影が濃いのと釣りをする人がほぼ居ないため魚の警戒心が薄く割と餌に食いつくのだ。


「んっし、片っ端から揚げてくよー」


「小さいのは丸ごと。大きいのはさばいて……内臓とかはどうする?」


「そこのバケツに入れておいてー。あとでリザートマンさん達が魚の餌にするんだって」


釣ってきた魚はある程度たまったところで加賀達の所に持ち込まれる。

加賀たちはちょっとした天幕を作り、中で揚げ物の準備を整えていた。

受け取った魚は二人の手によって丸ごとかさばかれ次々と揚げられていき、揚がったものはすぐさま釣った者の腹の中に納まっていく。


「はっ……ぁっあじぃっ……」


「火傷気を付けてねー。はいこっちはタルタルソースね」


普段も3日に1回は揚げ物が出てくるが揚げた瞬間ソースにつけて食べるというのは早々体験出来るものではない。ソースにつけた瞬間ジュッと音がし、いかに熱いかを伝えてくるが皆そんなのお構いなしに、むしろ喜んで口へと運んでいく。


「くはぁっ……っあー、ビールうめえ。冬なのにうめえ」


「うまいっすこれ! でも口ん中べろべろっす」


揚げたてはやはり美味い。

火傷すると分かっていても止められない、結果として食べ始めてすぐ皆の口の中は皮がべろべろになってしまった。


「しょうがないの。ほれ、これでも飲んどけい」


「これって……むっちゃ良い火傷用のポーションじゃん」


ごとりとテーブルの上に無造作に置かれたポーションらしき瓶。

それを手に取り確認したシェイラの目が見開かれる。どうやらかなり良いポーションだったらしい。

出した当の本人は我関せずで串揚げを2本ぐいっとまとめ食いするとビールで流しこみ盛大にぷはぁと息を吐く。


「ありがと。でも口の中の火傷だしもっとランク低いのでもいいのに……」


「ランク低いのはいかん飯がまずくなる。その点そいつなら口の中がすっきりするだけで飯がまずくなるこたあ無い。在庫は大量にあるでな好きに使うとええ」


「在庫……あ、まさかたまに飯の時に飲んでるのってこれ!?」


在庫が大量と聞いてふと飯時の光景を思い出すシェイラ。よく考えれば目の前のドワーフは揚げ物の時は酒とは別に何か飲んでいた。揚げたては美味しい。だが食えば確実に火傷する、その対策として火傷用のポーションを食事の際一緒に飲んでいたのである。

その事実に気が付き問い詰めるシェイラに対しあっさりそうじゃよと答えるゴートン。

まさかそんな事に使うやつがいるとはと呆れた様子のシェイラであるが、一口ポーションを含めばその効果とすっきりした味にありかも知れないと思ってしまう。


「ええじゃろ?」


「むぐぅ……これこんな味だったんだ……」


そうこうしている間にも揚げ物は次々揚がっていく。

鮭っぽい魚に大ぶりな白身の魚。なぜか釣れた貝類にリザートマンがこっそり持ってきたエビ類。

魚介類だけじゃ飽きるだろうと加賀が事前に仕込んでいた野菜や肉なども揚げられていく。

昼も過ぎればみんな程よく酔っ払い腹もくちくなる。そのまま釣りを続行するものもいれば昼寝と称して寝袋に入り込むやつもいる。

皆が皆好き勝手に過ごしなかなかカオスな空間になりつつある。



「んんー?」


休憩した人に代わり竿を手に釣りを始めていた加賀であるがふとある事に気が付いてしまう。


「どうしたの?」


「ああ、いや。そういやまだワカサギの天ぷら作ってないなーって」


今日の本来の目的はワカサギ釣りである。色んな魚が釣れ揚げまくっていた為忘れてしまっていたが、実はまだ1匹も釣れて居ないのだ。


「ほへ? さっき食べた黄色っぽい衣のやつじゃないのー? さっくさくで塩だけでもけっこう美味かったけど」


「あれは白身魚とエビだねえ。ワカサギはこんぐらいのちっさいお魚だよ。1匹丸ごと揚げるんだー」


天ぷら自体は白身魚とエビがあったので作成済みだ。

塩だけで食べたがその軽い触感が中々に好評ではある、だが食べ慣れている分宿の探索者はフライのほうが好みだったが……


「……」


などと言った事を加賀がシェイラに説明するその横でひたすら無言で竿を持つ八木。

加賀がそっと顔を覗き込むとふいと顔を背けてしまう。


「八木ー?」


「……釣れましぇん」


どうやら釣れていない様だ。

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