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189話 「毛刈り」

加賀がうーちゃんと共にお風呂に行き、入れ替わる様に燻製小屋から戻ってきたバクス。それに掃除を終えた咲耶。

バクスはテーブルに置かれた大福を見かけると興味深々といった様子で手に取りその柔らかさに驚く。

咲耶は大福を見ると嬉しそうに手に取ると頬張りはじめる。


「柔い……それに結構ずっしりしてるな」


「中身餡子っす」


なるほどと頷くバクス。

バクス自身、触った感じからして中に何か入っているだろうとは思っていたが、それが餡子と言うことであればその重量感にも納得がいったのだ。


「不思議な食感だな、味は……少し甘いか? 餡子と良く合う」


「もち米は……普通の米とはちょっと違うけど、まあ一応主食にはなると思うんで……わりと何にでも合うんすよね」


「ほう?」


大福を二口で平らげてしまったバクス。

ふと八木が紙に何やら書き込んでいる事に気が付いた。


「ああ、これすか」


視線に気が付いた八木が紙をすっとバクスへ差し出す。

受け取ったバクスがさっと目を通すとそこにはメニューらしきものがずらりと並んでいる、餅という文字が入っている事から全て餅を使った料理だろうと察する。


「ずいぶん多いな」


「主食みたいなもんなんで……まあ、そんだけ書いておいてあれですけど、実際作れるのってそれのごく一部なんすよね」


「そうか材料が足らんか……む、これピザにもなるのか?」


大福を手に持ちふにふにと触ってみるバクス。

その食感は小麦粉を練った生地に似てなくも無いがあちらは火を通す前でバクスが手に持つのは火が通った後のものだ。


「焼いたりすると何かこうぱりっとなるんす。あと温めると柔くなってチーズみたいに伸びるんですよ」


「んん? 焼くとぱりっとして……伸びるのか?」


「えーと……何というか、あれです。実際食ってみるとわかります! 夕飯の時にでも加賀に頼んで作ってもらいましょう」


餅の性質をどう説明したものかと悩む八木。とりあえず食えば分かると説明するのをぶん投げるのであった。

そしてその時、ふいに食堂の扉が大きく音を立て開かれる。

何事かととっさに身構えた一同であったが扉を開けて入ってきたのはうーちゃんであった。


うー!(やだー!)


「ちょっ、うーちゃん!?」


先ほど加賀と一緒にお風呂にいったはずのうーちゃんであるが、一応風呂には入っていたらしく全身の毛皮がびっしょりと濡れている。

床を濡らして食堂の中を走りソファーの後ろにひゅっと隠れてしまったうーちゃんを見て一同は突然の出来事に固まるばかりである。


「うーちゃん、だめだってば! さっきの冗談だからっ」


そして少し遅れて今度は加賀が食堂へと飛び込んでくる。

さきほどソファーに隠れたうーちゃんであるが床に足跡がきっちりと残っておりどこに居るかはばればれであった。


「命、なんて格好してるの! はしたない……」


「ごめんっ急いでたから……ほら、うーちゃん戻るよ。さっきの冗談だから安心してって」


うー(やだー)


うーちゃんもそうだったが加賀も急いできたせいかびしょぬれのままである。

なんとかうーちゃんを連れて行こうとするががしっとソファーにしがみついたうーちゃんは中々動こうとしないでいいた。


「むっちゃ嫌がってるんだけど、何したのさ加賀?」


「いやー……」


八木に促され風呂場で何があったかを話す加賀。

毛にからみついた餅がだまになって中々とれず、冗談で毛刈りするといったところ逃げ出してしまい今に至る。それを聞いて……と言うより毛刈りのところで思いっきり顔をしかめる八木、あまりよくない思い出がいっぱいらしい。


「加賀、私がとってあげるから大丈夫……風呂場いきましょ」


「アイネさん助かります……よし、うーちゃん行くよー」


うー(かみがおる)


嵐のように訪れ、さっと居なくなった加賀とうーちゃん、それにアイネ。

3人が居なくなった後残された物はしばらく無言であった。


「……何の話だったかな」


「夕飯ピザにしようぜって話っす」


「……そうだったな」


皆疲れたようにため息をつく。

誰かがさて、と言って席を立つと皆も釣られたように席を立つ。

休憩は終わりと言うことだろう、バクスは再び燻製小屋に行き咲耶は洗濯。八木は部屋へとそれぞれ向かっていくのであった。

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