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18話 「ばれたらしい」

「ふんふんふーん、ふふーん、ふんす」


鍋の中身をかき混ぜながら楽し気に鼻歌を歌う加賀、ブイヨンはもうできたのか今かき混ぜているのは鶏のトマトソース煮のようだ。

ふいに扉が開き八木が何やら胸に抱えて入ってくる。


「おー? お疲れー、石鹸できたのー?」


入ってきた八木に気が付いた加賀は振り向くと八木へと声をかける。


「とりあえずはな、つっても固まるまでもうしばらくかかるが……早いのだと明日には固まるんでないかな、そのあとは熟成させて完成だ」


「熟成ってことはすぐ使えるわけじゃないんだー」


八木の言葉に目に見えて落ち込む加賀、作った石鹸がすぐ使えると思っていたのだろう。

八木が言うには作った石鹸をすぐ使うと手荒れ等が起きる場合があるそうだ。

それならしょーがないかーと言う加賀だが、口を尖らせ横を向いているその様子からは納得していないのがばればれであった。

そんな加賀をみて八木は思わずといった感じで苦笑すると口を開いた。


「まあ、いくつか試しに使ってみて、肌があれなければ使ってみても大丈夫だと思うぞ?」


「本当っ!?」


八木の言葉に加賀はぱっと表情を変えると嬉しそうに振り返ると手をあげ歓声を上げる。

それを見てまだうまくいくと決まったわけじゃないぞ、と八木がいうも加賀には聞こえてない。


「まったく……ん? 誰か来た? バクスさんかな」


ドアの外からこつこつと歩く音が聞こえてくる。

八木がドアのほうを見るとガチャリと音を立てドアノブが回り扉が開く、姿を見せてたのは八木が考えた通りバクスであった。


「バクスさん、お帰りなさい」


「あ、バクスさんお帰りなさーい」


バクスの姿を確認した八木が声をかけると気が付いた加賀もそれに続く。


「おう、今戻った…何やらうまそうな匂いがするな、夕飯はうまく作れたようだな……それにこいつはもしかして石鹸か? もうできたのか」


部屋の中には先ほどから煮込まれている鶏のトマトソース煮の匂いが漂っている。

香辛料を使って作られたそれはバクスにとっても美味しそうな匂いと感じたようだ。

続いて机の上に置かれたまだ型に入ったままの石鹸をみて興味深そうに近づいていき、手を伸ばし触れようとしたとこで八木がまったをかける。


「あ、バクスさん石鹸ですけどまだ固まってないんで、触れないほうがいいですよ」


「む、そうなのか」


「ええ、早くても明日、遅ければ1週間ぐらいは置いておくことになりますね」


「そうか、なら明日を楽しみにしておくとして……とりあえず飯にするか、せっかく作ってくれたんだしな」


「はいっ、今よそうんで少し座って待っててくださいー」


加賀の言葉に二人は椅子へと腰かける。

さきほどから漂ってくる匂いが気になるのだろう、バクスはソワソワした様子である。


「さていったいどんな料理が…っ!?」


加賀が運んできた皿をことりと机におく、皿には焼きたてのオムレツ、さらには昼から準備していた鳥ノトマトソース煮が乗っている。

焦げ一つ無く綺麗に焼かれたオムレツは卵の色が濃いのか、若干オレンジがかった濃い黄色をしていて

トマトソース煮はトマトの赤色が実に鮮やかである。

赤と黄色のコントラストが綺麗で実に美味そうであるが…バクスの目には奇妙なものと映ったのであろう、ぎょっとした表情をして無言となってしまっている。

料理は次々と運ばれており、最後にパンをいれた器を置いたところで加賀がバクスが固まっていることに気が付く。


「これで全部です…あの、バクスさん?」


「お、おう…なかなか豪勢? だな……なあ、この赤いのは一体…?」


「あ、それは鳥のトマトソース煮ですよー。ソースも結構良いできですし……おいしいと思いますよ?」


「なるほどこの赤いのはトマトか…そういや東の国ではトマト使った料理あるって聞いたなあ」


加賀の言葉を聞いてなるほどと言うバクスであるがその顔は引きつったままである。

加賀が椅子に座り食事がはじまるもなかなか手を付けようとしない、八木が一口食べうまそうにしているのを見て決心がついたのかフォークとナイフを手に取り鶏肉へと手を伸ばす。

鶏肉はよく煮込まれているためほとんど抵抗なくナイフが通っていく、その事にバクスはほうと一言つぶやくと切った鶏肉を口へと運んでいく、まずは一口。味を確かめるようにゆっくり咀嚼していく、次第に速度は速くなり口に含んでいたものを飲み込むとまた鶏肉へとナイフをいれる、今度はより大きく切り取り再び口へと運んでいく。その仕草や顔の表情からバクスがその料理を気に入ったことが窺える。

バクスは鶏肉は半分ほど食べると次にオムレツへと取り掛かった、おそらく同じような料理はこちらでも一般的なのだろうこちらは躊躇うことなく口へと入れ、そのふんわりとした食感に驚きの声をあげる。

どちらもバクスはかなり気にいったようで皿が空になるのにはさほも時間はかからなかった。


「うぅむ、こりゃまた予想以上にうまいな……っと、スープも飲ん…で?」


「ん、黄色いのがコーン、白いのがジャガイモのスープです。コーンの方は甘味が結構あるので好みがわかれるーかも、です」


「ああ、黄色いのはコーンか…とりあえず一口」


新鮮なコーンと牛乳を使って作ったスープは加賀から見ても、見た目、香り、味すべてにおいて満足できる出来栄えとなっていた。

一口含むとコーンと牛乳の香り、それにアクセントにいれた胡椒と細切りし炒めた猪の塩漬けの香ばしい香りが口一杯に広がる。

コーン自体の甘味がかなりあったこともあり、スープは割と甘目となっているが、牛乳のコクと猪肉の塩加減が絶妙の加減となっている。

バクスも初めは戸惑っていたがすぐに慣れ、またこのスープのこともかなり気にいったようでこちらの皿もあっという間に空となる。


「こっちの鶏肉煮たのもスープも美味いな……すまんがお代わりもらえるか?」


「はいっ、いっぱい作ったのでたくさん食べてくださいねー」


「加賀、俺も俺も」


「ほいほい」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




その後もバクスと八木は何度かお代わりし、大量に用意してた料理はほとんどなくなっていた。

加賀のバクスへおいしい料理を作るとという目的は間違いなく成功したといえるだろう。


「トマトソース? もそうだがコーンスープうまかったなあ……あ、もちろんジャガイモも美味かったぞ?」


「ありがとうございますー。コーンスープは甘味あるので好み別れるかと思ってたんですが…気に入ってもらえてよかったです」


「俺はどっちかというとコーンの方が好きかもな、パンとの相性も良いし、本当美味いと思うぞ」


そう言いながらバクスは皿に残ったソースをパンで拭うとひょいっと口へと放り込み咀嚼し飲み込むと美味いと満足げに笑った。

バクスに改めてお礼を言うと加賀はそういえば、と昼間のことを思い出した。

バクスが帰ってきたらパンのこと、小麦粉のことを聞くつもりだったと。


「バクスさんバクスさん、そのパンのことで質問いいですかー?」


「ん? 別にかまわんがパンがどうかしたのか?」


「そのパンかなりおいしいですよね、それで結構良い小麦粉使ってるんだろうなーと思ったんですけど。昼間買ってみた小麦粉は…その、あまり良いものじゃなかったので…できればそのパンに使っているような小麦粉を入手したいんですけど、どこで売ってるとか分かりますか…?」


加賀の言葉にバクスは顎に手をあて斜め上を見ながら少し考えたそぶりを見せる。

だがすぐに手を下すと加賀へと向き直し口を開いた。


「すまんが、このパンに使ってるような小麦粉がどこで売ってるかは分からん。が、知ってるやつには心当たりがある…まあ、そのパン屋の主人なんだがな、俺の知り合いなんだ。明日の朝でもパン買いに行こうと思っていたところでな、加賀も一緒に来て聞いてみたらどうだ?」


「いいんですか? やったー」


バクスの言葉に小躍りする加賀、八木は腹が膨れたのと思ってたより石鹸が上手く作れそうなのか機嫌よさそうに固まりかけた石鹸をつついている。

そんな二人をみてバクスはこうつぶやいた。


「料理といい、石鹸といい……さすが神の落とし子だな」

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