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188話 「お雑煮たべたい」

容器に入れられたお餅は小さく千切られ丸められて行く。

小皿に並べたお餅の上に餡子がぺたっと乗り、とりあえず味見用の餡団子?が完成したのであった。


「んじゃいただきますっと」


「おーつきたては良く伸びるなあ……うんっうまい」


箸……はないのでフォークで突き刺した餅を持ち上げると途中で途切れることなく良く伸びる。

餡子の乗った餅を頬張り付きたての触感を楽しむ八木。


「ん、面白い食感……だからもちなのね」


「どーなんだろね。名前の由来とかはちょっとわからないや」


アイネは初め餅の食感に戸惑ってはいたようだがすぐに慣れもくもくと食べ進める様になる。


うー(のびー)


「うーちゃん食べ物で遊んじゃいけません」


そしてうーちゃんはと言うと餅が伸びる様が楽しいのか、餅を咥えると端っこをフォークで抑え思いっきり引っ張って遊んでいるようだ。

そして加賀が注意したその瞬間、伸び切った餅はぷつりと千切れうーちゃんの頭をぐるりと一回りすると鼻面にぺちんとへばりつく。


「ぶふぉっ」


「う、うーちゃん……っ」


その光景をみた八木の口から餅が飛び出した。

加賀はすんでのところで堪えたようだが今にも笑い出しそうである。


うー(うらぎられた)


「何言ってるの……あー、こりゃだまになっちゃいそうだね」


うーちゃんについた餅をとってあげる加賀であるが、どうも毛に絡みついて全てをとるのは無理そうであった。

ある程度とった所で諦め手を止めると食べ終わったらお風呂に行こうと言い、とりあえず変わりの餡団子をうーちゃんに差し出す。


うー(うまし)


「そりゃよかった」


顔に張り付いた餅のせいで餅が苦手になるかと思われたが一度食べてみればすぐにお気に入りなったようだ。

うーちゃんの頭をなでる加賀の顔に少しほっとした表情が浮かぶ。


「そういや」


「うん?」


餅を一気に平らげた八木がぽつりとつぶやく。

お茶を一口飲み一息つくと加賀へ話しかける。


「残った餅はどうすんの?」


「あー」


残った餅と聞いて視線を作った餅へと向ける加賀。


「大福にするつもりだったけど……」


ただ、そう呟いて頬をかく加賀。

作った餅は数キロ分に及ぶ、これをすべて大福にすればとんでもない数が出来るのは明らかである。


「全部大福にするのはいくらなんでも多いかなー……何かリクエストある? なければ切り餅にしちゃおうかなと思うけど」


「んー……雑煮食べたい」


「醤油ない……八木のとこも醤油だよね?」


雑煮はもちろん加賀も食べたいなーとは思っていたが、あいにくと醤油などはまだ手に入っていない。ギルドに調べて貰ってはいるがあるのかもまだはっきりしてない状態である。

そして八木も加賀も雑煮の汁は醤油ベースらしい、醤油がないと聞いた瞬間八木の眉がへにゃりと八の字にゆがむ。


「そっかー……なら醤油手に入るまで待つよ」


「ごめんねー、ほかに何かあるかな?」


暫く頭を捻って考えていた八木であるが出てきたのは揚げ餅食べたいという一言であった。


「揚げ餅……いいかもね、あれなら餅独特の食感もまぎれるし、胡椒きかせてお酒のおつまみでもいいし。うんとりあえず大福作って余った分は切り餅。でもって夜に揚げたのつまみ替わり出しちゃおう」


「だな、それでいいんでね」


うん、それがいいと納得した様子の加賀。

八木も雑煮は残念であるがもち米はまだあるし、ほかのレシピも色々ある。それに餅もとりあえずは食べれたので少し待つぐらいなら問題ない、そう考えたようだ……が。



「とはいえ……」


大福に変わっていく餅を少し悲しげな視線で見つめる八木。

時間が経つにつれだんだん故郷の味が恋しくなってきたのだ。


「あまり考えないようにはしてたけど、やっぱ欲しくなるよなあ……」


普段から加賀が作った飯を食べている分、故郷の味への執着はさほどでもなかった八木であるが、1年2年と経つと次第にその思いも強まってきたらしい。


「まーねえ……たぶん、作ろうとした人は間違いなくいると思うんだ」


加賀の言葉に同意するように頷く八木。

過去に来た神の落とし子が残したであろう食物がいくつかあるのは八木も確認済みだ。

その地方限定でほかの国に広まると言ったことはほぼ無いようだが。醤油や味噌もおそらく作ろうとした人はいるだろう。


「ただ……作れたか分んないんだよねー。とりあえず調べて見るからもうちょっと待っててよー」


「おうよ、期待してまってる」


「んっ……よし、これで全部完成っと、切り餅は夕飯前に切ればいいかな」


二人が話してる間にも大福づくりはちゃくちゃくと進んでいたようで、お皿いっぱいに大福が並んでいる。

切り餅は固まってから切るのでこのまま冷蔵庫行きのようだ。


「んじゃ、ちょっとうーちゃんお風呂いれてくるね。ほい」


「いっふぇらー」


八木の口に大福を押し込んで席を立つ加賀。そのままうーちゃんの手を引きお風呂へと向かったようだ。

夜は揚げ餅をつまみとして出す、食感を受け入れてもらえるかどうかが不安な所ではあるが、おそらく揚げ餅であれば大丈夫だろう。




「思ってた以上に取れないんですけどー……刈る?」


うー!(やだぁー!)

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