184話 「暇つぶし4」
宿のちょっとした催しを開けそうなぐらい広い庭に、雪で出来た人一人が隠れることが出来そうなぐらいの壁がいくつか作られている。
庭の中央にから左右にエリアが分かれており、それぞれの陣地には小さな旗が置かれている。
どうせなら本格的にと考えた八木は国際ルールに乗っ取り雪合戦をやるつもりのようだ。
「みんな怪我しない程度にがんばってねー」
縁側に腰掛け皆を緩い感じで応援する加賀。
人数制限とどう考えても戦力にならない事から加賀は見学としたようだ。
「はい、ココア」
「んっありがとー」
ココアを加賀に渡し自分も縁側に腰掛けココアに口をつけるアイネ。加賀も同じだが彼女は途中で夕飯の仕込みに抜けなければいけない為不参加となっておる。
「皆気合い入っているね」
「んだねー、怪我しなければ良いんだけど……まさかおかず一品でここまでやる気出すとは思わなかったよ……」
黙々と雪玉を作り続ける参加者を見て軽く息を吐く加賀、雪合戦をやるにあたって少しでも盛り上がるようにと勝ったチームに好きなおかずを一品増やすと公言してしまったのだ。
うー(りんごー……)
加賀とアイネの傍で寝転んでいたうーちゃんが悲し気に鳴き声をあげる。
うーちゃんもおかずが一品増えると聞いて参加表明をしていたのだが……
「え、うーちゃんも参加するの?」
「え゛っ!?」
おかずが一品増えると言う加賀の一言を聞いて雪合戦への参加を表明したうーちゃんであるが、周りの反応はどん引きであった。
「いやいやいや……ちょっと無理じゃない? てか死にそうな気がするんですがっ」
うー(へーきへーき)
「うーちゃんは平気って行ってるけど……」
平気と言うがやはりはいどうぞと言う訳には行かないようで、結局ならば一度投げるとこを見てみようと言う話しになる。
「じゃー、ちょっと八木ここにかがんでて」
「こう?」
「うん、そんな感じ」
雪壁の裏に八木を屈ませてうーちゃんを手招きして呼び寄せる加賀。
とことこ寄ってきたうーちゃんに向けすっと雪壁を指さす。
「じゃあ、うーちゃんここに雪玉投げてみてくれる? 思いっきり手加減して」
うー(まかせろー)
「……えっ?」
八木が何をするのか理解し振り返るが時すでに遅くうーちゃんは雪玉を持った手を振りかぶって下した所であった。
「っいたぁああああいんっ!?」
「あー……あっさり貫通したね」
「こりゃだめだべ加賀ちゃん、手加減してこれじゃ勝負ならんて」
手加減したはずの雪玉は雪壁をあっさり貫くと屈んでいた八木の太ももに激しくぶち当たる。
それを見ていた参加者は雪壁を貫通するようじゃさすがに無理である事を加賀に伝える。
「んー……しょうがないか……ごめんね、うーちゃん。一緒に見学しよっか」
うー(むー…‥おー)
うーちゃんの手を取り頭をよしよしと撫でる加賀。
うーちゃんも渋々ながら諦めたようで大人しく加賀へと着いて行く。
「これ、俺が屈んでた意味なくない?」
――といったやりとりがあり今に至る。
「ジャムでよければまだ残ってるから」
うっ(まじ?)
「うん、まじまじ。残り少ないけどうーちゃん食べていいよ。ヨーグルトあたりにいれよっか?」
リンゴのジャムが残っていると聞いた途端に機嫌のよくなるうーちゃん。
加賀はそんなうーちゃんのお腹を撫でつつ雪合戦の試合会場へと目を移す。
いつの間にか全員が配置につき審判役を押し付けられたバクスが試合開始の合図を今まさに出すところであった。
「そんじゃー……はじめ!」
バクスの合図と同時に誰かが飛び出す……かと思われたがいきなり雪壁から出るものは居ない様だ。
ルール上相手陣地の旗を取る必要がありその為には前に行かねばならないが……皆それを待ち構えて飛び出たところを狙い撃つつもりの様である。
「おい、八木ちゃんよ。このまま膠着状態続くのもつまらんしさ、同時に行ってみないか? 俺は右手側の壁に、そっちは左手側で」
どうやら前衛?役らしいヒューゴが同じく前衛役らしい八木へと声をかける。
膠着状態を嫌い思い切って飛び出すつもりのようだ。
「いっすよ、じゃあ1,2の3で行きましょか」
どうやら八木も乗り気の用だ。お互いタイミングをそろえ一気に飛び出すべく小声でカウントを進める。
「1,2の――3!」
3と言った瞬間に飛び出る八木、そして一拍置いて飛び出すヒューゴ。
一瞬長ではあったが結果として八木の方に相手から放たれた雪玉が集中する。
「あだぁっ!? ちょ、何でこっちだぷぶるぅっ!?」
誰ぁが放った雪玉が見事に八木の顔面をとらえる。これで八木は退場である。
そして生き残ったヒューゴの方であるが……
「八木ちゃん……お前の犠牲は無駄にしないぜっ」
きりっとした顔で八木に敬礼をし、ちらりと雪壁から顔を覗かせる。
「うおっと」
途端に飛んでくる複数の雪玉、すぐに顔を引っ込めた為ヒューゴには当たる事はない、そして二度の危険を冒した事で相手の居場所が大体判明する。
「俺の右手側の壁に集中で!」
ヒューゴから見て右手側の壁にどうやら二人隠れているようだ。
うーちゃんの様にとは行かなくても、探索者達の力はかなりのものである、一つの壁に集中して雪を投げれば雪壁を崩す事も可能である。
だが、それは相手にとっても同じ事である。
「そこの壁にヒューゴが隠れてます、壁ごとやりなさい!」
日頃の恨みでも積もっているのだろうか、ヒューゴが隠れていた壁への攻撃は相当なものであった。
「えっ、あっちょ……うぉおおううう!?」
相手の距離とのせいもあるだろうが、ヒューゴが隠れていた壁は集中攻撃に合いあっさりと崩れヒューゴの姿が露わとなってしまう。途端に飛んでくる雪玉を必死の形相で駆け出し掻い潜って隣の雪壁に滑りこむ。
「思ってたよりも白熱してるね」
「そうねえ……」
「そして予想通り八木はすぐやられたかー」
やっている方が白熱していれば観戦している方は楽しめるものである。
なかなか見ごたえのある試合をココアを飲みながら観戦する加賀とアイネ、そしてお昼寝モードに入ったうーちゃん。
「あっ、ヒューゴさんやられた」
「あら……八木のチームがちょっと負けてるね」
勝負ついちゃうかなと言うアイネにんーとうなる加賀。
「一応3回やって2勝した方が勝ちらしーから、まだ分からないかなー……この感じだともっとやりそうだけど」
試合は八木チームが2人倒し返した事でさらに盛り上がりを見せていた。
全員かなりまじになっているようで、飛び交う雪玉の威力が尋常ではない。
「結構楽しいけど、そろそろご飯の用意しないとねー」
「そうね……戻りましょうか」
「うーちゃんいっくよー」
寝ているうーちゃんをゆさゆさと揺らして起こし厨房へと向かう3人。
試合は1勝1敗となり現在は次の試合の準備中である。
少し名残惜しい気もするが、この様子だとまた別の日に再びやるだろうなと思い、仕事を優先する事にしたようだ。




