181話 「暇つぶし」
真っ白となった街中のある一角、宿のそばに構えられた八木の建築事務所にて椅子の背にもたれ、ぼーっと天井を眺める男たちの姿があった。
「……暇だな」
「今月はもうでかい仕事ないですからね」
ぽつりと呟く八木に同意するようにモヒカンを揺らすオルソン達。
今朝がた事務所に顔を出したエルザから言伝があったのだ。
「皆さんお疲れ様です。これで今月分のまとまった仕事は終わりですね、あとは細かい仕事がいくつか残ってはいますがそちらはさほど時間が掛かることは無いでしょう。次回以降のまとまった仕事は年明けから入る予定となっています、それまではゆっくり休んでくださいね」
そう言ってエルザはギルドへと戻っていった。
残された男達は残った細かい仕事も早々に片づけてしまい暇を弄んでいるのであった。
「明日以降は休みだなあ……何すっかな」
「私は家でゆっくりしようかと……」
家でゆっくりすると言うオルソン、その言葉に同意するように残りの二人もモヒカンを揺らしている。
「そっかー……宿にずっと居るってのもなあ」
休みの間どう過ごすかで頭を悩ます八木。
自分も同じように宿で過ごすかと考えるが、宿でやる事と言えばただごろ寝して時間を潰しつつ飯の時間になれば食堂に行くだけ。
バクスの燻製小屋も特に不具合等があるわけでもないし、拡張する予定等もない。
PCを借りて時間を潰す手もあるが、あれは加賀に魔力を補充してもらう必要がありあまり使いすぎるのも気が引ける。
「まあ、戻って考えるか……」
休みに何をしようか考えていた八木であるが、結局就業時間になるまで良い案が浮かばないでいた。
宿の皆に相談すれば何かしら良い案でも浮かぶかも知れない、そう考えながら八木は事務所を後にし宿へと向かうのであった。
「え、暇なの?」
「おうよ」
夕食時、加賀のちょっとした空き時間に先ほどの話を振る八木。
振られた加賀は八木が休みと聞いて何かしらやってもらいたい事がないか考える。
「……特にないかも」
「えー……」
「何か壊れたとかも無いしー……ん、ほかの人にも聞いてみたら?」
頭をがしがしとかく八木。
あたりを見渡してとりあえず話できそうな人がいないか探し出す。
「バクスさん、俺明日から来月まで休みで……」
「ふむ……燻製の手伝いは特に必要ないからなあ……ああ、そうだ。ウォーボア狩りに行くの――」
「失礼しやしたーっ」
未だにトラウマが消えてないらしい。
ウォーボアを狩りに行くと聞いた瞬間、八木は脱兎の如く逃げ出した。
「戦闘狂はあかん……あ、咲耶さん!」
「うん? なーに、八木ちゃん」
逃げ出した八木の前に現れたのは食器を下げている最中の咲耶であった。
咲耶なら危険な事にはならないだろう、そう考えた八木は咲耶へと声をかけた。
「実は俺明日から暇で」
「あらー……お仕事首なっちゃったの?」
「違いますぅっ」
困ったわねえと頬に手をあてる咲耶の誤解を解くべく昼間の出来事を話す八木。
話を聞いて理解した咲耶は何か八木に頼める事はあるだろうかと考え始める。そして何か思いついたのかぽんと手を叩くと八木へと話しかける。
「新作の服作りたかったのよねえ、よかったら休みの間モデルに――」
「勘弁してください」
流れるような動作で頭を下げ逃げ出す八木。
咲耶のモデルをやったバクスがどうなったのか、八木も良く知っている。
「アイネさんも加賀と同じで俺が手伝える事は無いだろうし……やべえ、まじで食っちゃ寝するしかないのか」
宿の従業員に対し手伝える事はあまり無さそうだと分かった八木。
このままだと食っちゃ寝するしかやる事がないと頭を抱えテーブルに突っ伏してしまう。
「八木っち頭抱えてどうしたの?」
「あ、シェイラさん……ども」
そこに声を掛けてきたのはちょうどご飯を食べ終えたシェイラである。
八木は極力視線を下に向けないようにし事情を話して行く。
「んー、別にお休みなんでしょ? 私は無理に仕事探さなくてもいいと思うけどなー」
「まあ、そうなんすけどね。ずっと暇なのもなあーと」
確かにシェイラの言う通りである、ただ八木としては暇すぎなのも遠慮しておきたところなのだ。
そんな八木を見てシェイラは言葉を続ける。
「だったら――」
シェイラが八木に提案したもの。それは暇なのが問題だったら暇つぶしの道具作ったり、遊び考えたりしてみたら? と言うものであった。
せっかくの休みなのだから遊んでも別に良いでしょうと言うシェイラの言葉にはっとした表情を浮かべる八木。
シェイラに礼述べ、部屋に戻った八木は加賀から借りたPCを使い冬でも出来る遊びについて調べだす。
「あー……スキーとか暫くやってないな……でもこの辺で滑れそうな所は無いよな、多分」
冬に楽しめる遊びというのはかなり種類があった、ウィンタースポーツをはじめとした主に屋外で楽しむもの。冬限定というわけではないがトランプなどの屋内で楽しめる遊びもいくつも見つかる。
「せっかくだから冬にしか出来ないやつがいいよなー」
結局その日は寝落ちするまで調べ物を続けた八木。
いくつかピックアップはしていたので明日からはそれらの準備を始めるのだろう。




