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17話 「なれない台所」


「ふぅ…」


バクス邸に帰宅し、八木は抱えていた荷物を机の上に置くと思わずため息をつく。

結構な量を抱えたまま買い物を続けていた為、それなりに疲れていたようだ。

加賀は大半の荷物を八木が持っていた為、そこまで負担が大きかった訳ではないだろう、それでも少し疲れたのか軽くぐたっとしている。

見た目通り体力はあまり無いようだ。


「んし、んじゃ型、彫っちまうかねえ。加賀は少し休んでたらどうだ?」


「ん、そーだね。ちょっと休んでからにしようかな」


八木の言葉に加賀は椅子に座るとだらりと机へ体を投げ出す。

八木はそんな加賀をよそに買ってきた木板を取り出すとさっそく型を彫り出した。

静かな部屋に木を削る音が響いている。

石鹸を作るための型であり、それなりの深さにする必要がある。

いかに八木が筋肉だるまになっているにしてもただの彫刻刀ではそれなりに彫るのには時間がかかるようだ。

およそ1時間ほど経っただろうか、八木がふーっとため息を一つ付くと木を削る手を止める。

音が止まったことに気がついたのだろう、うたた寝していた加賀が顔を上げ、八木へと声をかける。


「ん。終わったのー?」


「おう、とりあえず1個な」


「1個? 全部で何個彫るのー?」


「とりあえず5個かなあ、うまくいくか分からないし何パターンか試してみようかと」


「なるほどねー、お昼までには終わらなさそうだね。とりあえずボクもお昼の用意するから八木はそのまま作業すすめるといいよー」


そういって加賀は立ち上がると台所へと向かっていく、そんな加賀に八木はそういえば、と後ろから八木が声をかける。


「結局なに作ることにしたんだっけ?」


「ピーマンのピーマン詰め」


「やめてえぇっ」


「冗談よ。夕飯はコーンとイモのポタージュ、あとトマトーソース作っておいて、オムレツと鳥のトマトソース煮かなー」


昨日加賀が話していた通り、最初はそこまで凝った料理にはしないようだ。


「コーンとイモ? 混ぜるの?」


「んにゃ、2種類つくるのよー。コーンはほら、甘いとちょっと抵抗あるかもだし」


加賀の言葉になるほどねと納得する八木。

二人は飲みなれているので気にならないが、はじめて飲む人にはあの甘味に抵抗を感じるかもしれない。

加賀は苦手だった時も考えて量を少な目にして2種類つくるつもりのようだ。

加賀の作る料理の味を知っている八木は、まあその料理なら問題ないだろうと考え少し安心したようだ。

安心したところでまた何か気になることがあったのか再び加賀へと問いかける。


「お昼は何にするんでしょうか!」


「お昼はーナスとひき肉のラザニアとオニオンスープだよー。なんと、オーブンがあるのだよ。オーブンだよ、オーブン。やったね、レパートリーが増えるよっ」


「加賀のキャラがおかしい」


「やかましっ」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ごはんだよー」


「おっ、もう昼か? 早いなー」


「だいぶ集中してたみたいね、進み具合はどー?」


「あと1個で終わりだぜっと、…おーいい感じで焼けてるじゃん、意外となんとかなるもんだなあ」


「ほんとだよねー…」


食卓にはぐつぐつと音を立て、チーズが綺麗なきつね色に焼けたラザニア、おいしそうに湯気を立てるオニオンスープが並んでいる。

それを見て嬉しそうに加賀へと話かける八木であるが、それとは対照に返事を返す加賀はちょっと疲れた感じである。


なぜ疲れているかというと単純な話、なれない道具に手間取ったからである。

なにせ竈の火はガスや電気ではなく、薪であった。

火をつけるの自体は加賀が精霊にお願いすることでなんとかなった、ただ火加減が非常にむずかしくただスープを作るだけでも加賀は四苦八苦することになる。

さらにはオーブンも当然ながら薪であった、ネットでなんとか使い方を調べつつやっとこさ焼き上げたのが先ほどのラザニアである。

これで失敗していたら目も当てられなかっただろう。


「いただきまーっす」


「いただきます」


八木がラザニアはフォークを入れるとこんがりと焼けたチーズが割け、中から湯気があふれ出てくる。

その光景に食欲を刺激されたのか八木は冷ますことをせず、ラザニアを口へと運ぶとぱくりと一気に食べてしまう。


「はっ、はふっ! …っあっふぃ!」


口に入れた瞬間あまりの熱さにはふはふしだす八木、これはたまらんとばかりにオニオンスープを口にするが、残念ながらスープも熱々であった。

熱さと格闘している八木を余所に加賀は息を吹きかけ十分冷めたのを見計らってラザニアを口にする。

はじめは美味しそうに口を動かしていたがふと何かに気が付いたように首をかしげる。


「んー…美味しいんだけど…」


「あ゛あ゛あぁぁ~…死ぬかと思った、まじ死ぬかと思った!」


「そりゃー冷まさないで食ったらそーなるよー」


八木は先ほどの熱さにこりたのか今度はちゃんと冷ましてからラザニアを口にする。

それでもまだ少し熱いのかたまにはふっと言う音が聞こえてくる。

そんな八木へと加賀が声をかける。


「ねえねえ、八木ー。味はどーう?」


「ん…うまいぜ!トマトソースとナスは相性ばっちりだな!チーズもうまいし…ただ」


「ただ?」


「パスタがなんか舌触りと香り? がちょっと…」


「だよねぇ」


たしかに八木の言う通りだと加賀は思った。

十分に熟したトマトから作られたソースはひき肉とナス、さらにはチーズと合わさり抜群のおいしさとなっている。

ただ中に入れたパスタがどうもぼそぼそしていて少し匂いが気になるようだ。

昨日の夕飯で食べたパンからこの世界の小麦粉は地球で食べていたのとそこまで変わらない、そう考えた加賀は買い物途中でみつけた穀物屋から小麦粉を一袋買い、それでパスタを作ったのだが。

どうもその小麦粉はあまり品質の良いものではなかったらしい。


「パスタ作った時に違和感あったんだよねー、パン食べた感じ小麦粉は地球と遜色ないと思ったんだけど…うぐぐ」


「ああ、確かに昨日のパンは普通にうまかったな。あのパンは使ってる小麦粉が違ったんかね?」


「たぶん、そうだと思う…バクスさん帰ったら聞いてみよ」


「それがいい ま、冷めないうちにくっちまおうぜ」


「そうだねー…あ!」


「ん? どしたん?」


食事を再開しようとしたところで不意に大きな声を上げる加賀。

それにどうしたのかと声をかける八木だが、加賀は忘れてた忘れてたーと言いながら食器を新たに取り出すとそこにラザニアを入れ、窓をあけるとそのふちにラザニアが入った食器を置いた。

いったい何をしているんだと訝しむ視線を受ける八木を余所に加賀は手を合わせおじきをすると窓の外に向かって話しかける。


「精霊さん精霊さん、昨日は助けてくれてありがとうございました。これお礼です、たぶん精霊さんでも食べれると思うのでよかったら食べてみてくださいっ」


そして再びぺこりとお辞儀をすると椅子へと戻る加賀。

八木は昨日助けてくれた精霊へのお礼かと納得しかけるが、ふと疑問が湧いてきたのか加賀へと問いかける。


「精霊って飯食えるの…?」


「ん、たぶん。普通は食えないかもだけど、イリア様が言うには誰でも人と同じように食べることができるって話だから…」


いけると思う、そういう加賀は少し不安そうであるが食事が終わり食器を片付けようとふと窓際をみるとそこには謎加護の効果だろう、空になった食器が置いてあった。

それをみた加賀は嬉しそうにほら、見て見てと八木へ報告するのであった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




お昼を食べ少し休んだ後、八木は型彫りを再開し、加賀は夕飯の準備に入った。

1時間ほどで八木は型を彫り終わったようで加賀へと声をかける。

加賀は火加減の調整のためだろうか、ずっと鍋の前にいるようだ。


「加賀、とりあえず彫り終わったから石鹸の作成に入るな。しばらく外にいるから何かあったら声かけてくれ。」


「ん、りょうかーい。ボクはしばらく火加減みてないとだから、八木も何かあったら声かけてねー。」


「あいよーって、それは何作ってるの? 何かスープみたいだけど」


「鶏ガラとお野菜のスープ…というかブイヨンだよー。」


「おっ、そうか。夕飯も期待してるぜー」


そういって八木は油や重曹、貝殻等、さらには火種にと火がついた薪を台所からとると外へと出て行った。

加賀は加賀で薪をかまどに追加すると竈の近くまで椅子を持ってくると座り込む。

そうこうしている内に時間は過ぎ、外は徐々に暗くなっていった。

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