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174話 「夜食」

時刻は真夜中、討伐隊の面々は各々に割り当てられた狼の発見の知らせが来るまで休息の最中である。

討伐隊の内何名かは外に出て狼の群れがやって来るのを監視している、今は真冬であり担当する者の負担が大きいため交代制で行っているようだ。


「さっみぃー! おう、時間だ。交代たのまあ」


「あ? もうそんな時間かよ……」


体中に雪をつけ養鶏場の中へと戻ってきた見張り役の男が手近に待機していた者へ声をかける。

渋々立ち上がり、外套を羽織って外に出ていくのを見送り、雪を払い見張り役は暖かな部屋の奥へと進んでいく。


「おかえりなさい」


部屋の奥では暖炉に薪を火にくべ鍋の様子を見るアイネの姿があった。

見張り役の男たちが戻ってきたのを見て鍋の蓋を開けるアイネ、途端に部屋の中に漂うスープの匂いが男のすきっ腹を刺激する。


「さっそくだけど一杯貰えるかな」


「どちらが良い?」


どちらと言われ視線を鍋に向ける男たち、よくよく見ると手前の鍋の後ろにもう一つ鍋が置かれている。


「え、中身違うの? うお、まじだ」


鍋の中身は鶏肉と根菜類たっぷりのクリームシチューとバクス特製のソーセージを入れたポトフであった。

さらにはスープと一緒に食べるようとして切ったパンも用意されている。こちらは乾き気味であるが暖炉の火を使ってトーストすれば美味しく頂けるだろう。


「俺はこっちの白いやつ……まあ、あとでもう片方も食うんだけどな」


「違いねえ。俺はこっちの腸詰入ったので」


こくりと頷き器にスープを装い、パンを網に乗せるアイネ。


「どうぞ」


割と火力が高いのかすぐに焼けるパン。スープと共に出されたそれを受け取ると見張り役の男たちは各自適当なところに腰掛け食事を開始する。


「あー……温まる。むっちゃうまいし本当この仕事受けて当たりだったぜ……女の子可愛いし」


「鼻水垂れてきた……あぁ~……うめえ。……ま、確かに受けて良かったよ。戦闘もラヴィさん先陣切ってくれる見たいだし、実入りも悪くないし飯うまいし……兎かわいいし」


「お前……そっちかよ」


スープとパンをがっつき口々に美味いと感想をもらす男たち。

小声で誰それが可愛いと話しているが聞こえてないつもりでもとうの本人には丸聞こえだったりする。

もっともうーちゃんはもとよりアイネもその様な事は気にはしないが。


「俺ニも、モラエルか」


蓋を開けた事で漂った匂いに誘われたのかラヴィが尻尾をゆらしながら鍋へと近づく。

器へスープをよそうアイネを見て、ついであたりをきょろきょろと見渡す。


「他ノ者は?」


「そこ」


作業をしているアイネ以外の2人はどこか探すラヴィにすっとそばにあったソファーを指さすアイネ。

ソファーに寝ているのかと除きこんだラヴィであるが覗き込んだ瞬間びくりと身をすくませる。

確かにソファーには加賀とうーちゃんの2人が寝ていたが、問題はその恰好である。

仰向けに寝るうーちゃんのお腹から加賀の下半身が生えているのだ。


「びびったー! むっちゃびびった!」


もちろん実際に生えているわけではなく、単にふかふかした毛皮に加賀の上半身が埋もれているだけだ。

予想外の光景に驚いたラヴィ、自然と声が大きくなりその音で加賀が目を覚ましたのか身じろぎをする。


「ふぁ……ねむ。 ……ラヴィ? もう朝……じゃないね、夜食取りに来たのかな」


もぞもぞと身を起こしアイネのほうへと向かう加賀。交代するよーとアイネに告げ鍋のそばに立つ。


「討伐のほうはどんな感じー?」


「ん……今のところ養鶏場に近づいてくる気配はないなあ。たぶん俺らがいること気づいてるんだろうさ」


ラヴィ曰く狼は鼻が利くらしく、養鶏場に大量に人が集まっているのはおそらく気付いているそうだ。


「ありゃ……それじゃどうするの?」


それじゃ討伐完了することが出来ないのでは、と思いラヴィに尋ねる加賀。

シチューに浸したパンを手に心配ないと答えるラヴィ。ひょいとパンを口に放り込むと数回咀嚼しただけで飲み込んでしまう。


「今時期は食いもん少ないからあいつらも飢えてんのよ。こんだけうまそうな料理の匂い漂わせておけばそのうち我慢出来なくなってくるさ」


「なるほど。鼻がいいとその辺まで嗅いじゃうもんねえ……っと、お代わりかな」


用意した食事をぺろりと平らげたラヴィ。だが巨体な彼にとってはまだまだ食い足りない、加賀からお代わりを受け取るとすぐ様食べ始める。


「……ボクらの夜食もつくっちゃおっか」


うっ(ごはんっ)


すさまじい勢いで夜食を食べ進めるラヴィを見ていると加賀達もお腹が空いてきた様だ。

ごはんと聞いて光速で向かってきたうーちゃんを手で押さえ食事の用意を始める加賀。


「加賀ちゃんそれなーに?」


加賀が作り出したものにラヴィの視線が釘付けとなる、正確にはパンの上にのった目玉焼きらしきものにだが。


「ちょっと豪華な目玉焼きトースト」


ラヴィの言葉に答える加賀。

ただのトーストでは少し寂しいのでパンの縁を卵フィリングで囲み刻んだベーコンと生卵を乗せ焼いたちょっと豪華なトーストに仕上げたのである。


「もちろんラヴィのもあるよー」


「ありがてえ、ありがてえ」


焼きあがったトーストを4人そろってぱくついていると、先ほど入れ替わりで見張りに行ったものが養鶏場へと戻ってくる。

加賀達のトーストを羨ましそうに見ながらも彼が伝えたのは狼の群れの襲来であった。


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