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166話 「……閑話? 2」

「わかったってばー。うーちゃんのかぶりものは……母ちゃんに渡そうかな? アイネさんいいー?」


「いいよ」


うー……(やっぱつかうんね……)


とりあえず自分で被るのはあきらめ咲耶に渡す事とした加賀。

うーちゃんがまだいやいやしているが半ば諦めてはいるようだ。アイネの部屋へとかぶりものを取りに向かう加賀の後ろをとぼとぼと着いて行く。



「うわぁ」


そして数日が経ったある日の夕食、宿の食堂では異様な光景が溢れていた。

探索者達は皆一様に被り物をしていたのだ。

興味深そうにきょろきょろと皆のかぶりものを見る加賀に一人に人物が話しかける。


「加賀殿? そろそろ被っておかないと危ないですぞ?」


「ん……アイネさんがそばに居るからだいじょぶって……」


「……ああ、なるほど。確かにそうでしょうなあ……ま、我々は念の為被っておきますが、くれぐれもアイネ殿から離れない様に気をつけて」


声などで誰が誰だか大体の区別はつくが見た目からは誰が誰なのかさっぱり分からない。

加賀は曖昧に返事をしつつその異様な光景から抜け出すように厨房へと戻る。


厨房に入ればそこでは既にアイネとバクスが作業を開始していた。

アイネはもとよりバクスもアイネのそばに居る限りは平気だろうと被り物をしたりはしていない。


「そう言えば」


「おう?」


取りあえず何時の通りな厨房の光景にほっとした

加賀、ふと疑問に思っていたことを口にする。


「マスクしたままでどうやって食べるんだろ」


ものによっては口元が露出しているタイプもあるが、大部分は顔全体が覆われてしまっている。


「ああ、簡単だよ」


バクスは質問した加賀の方とちらりと一瞥するとあっさり答えてみせる。


「単に口元までめくれば良い」


そりゃそーだよねーと頬をかく加賀。

食べにくそうだよねと思うがしょうがない事なのだろうと気持ちを切り替え作業に没頭する。


夕食は何事もなく終わり、探索者達は皆部屋へと戻っていく。

バクス曰く普通であれば食堂の中を幽体が彷徨っていても不思議ではないそうだがそう言ったことは一切無かった。アイネの言った通り宿にいる分には問題ないのだろう。


そしてそれは探索者達も感じたらしい。


「くあーっ」


ベッドにかぶりものを放り投げ顔を振るヒューゴ。

乱れた髪を軽く整えマスクに視線を向け独り言ちる。


「あー楽になった。ほんっとマスクしてっと蒸れんだよなー……寝る前にしょんべんしとこ」


先ほど飲んだ酒のせいだろうかトイレが近くなっているようだ。

よっと掛け声と共に立ち上がったヒューゴはトイレに行くべく部屋の扉を開け廊下へと出る。


「っげえ」


そして廊下の奥へと目を向けた瞬間、廊下におかしなものを見つけてしまう。

一見するとそれは白い髪に白い肌を持つ女性のようである、だが月明かりに照らされた為かその肌は青白く。そして何より異様なのはまるで糸がいくつか切れた操り人形の様に奇妙な動きをしている事だろう。


「まじかよ……かぶりもの」


そう言ってヒューゴが部屋に戻ろうとした瞬間、音に反応したのかそれがぐるんと顔を持ち上げる。



「なにごとですっ」


「おいおい、なんかすげー声したぞ」


廊下に突如として鳴り響いた大きな悲鳴に部屋に戻っていた探索者達が次々と廊下にでてくる。

そして程なくして彼らは廊下にへたりこむヒューゴを見つける事となる。


「ヒューゴ……お前さんかぶりものもせずにどうした?」


「お お、おおぉ、ぉぉ、おおお……」


「お、だけじゃ何か分からんわい」


よほど恐ろしい目にあったのか腰を抜かし動けなくなっているヒューゴ。何かを言おうとしているようだがさっぱり何を言いたいのか皆には分からなかった。


「かぶりものをしてない事から察するに襲われたのでしょう」


「……だとしてもここまでなるっておかしくない?」


おかしいと言われ顔を触ろうとしてマスクに触れるアルヴィンらしき人物。

ふむ、と呟くと皆を振り返り言葉を続けた。


「アイネ殿がいるにも関わらず現れたのです。よほど強力なやつかと思われます……皆さん単独行動が決してしないように……かぶりものは絶対に外さないでください」


「わーっとるわい……ほれ、さっさと立たんか。かぶりものは部屋の中か?」


腰を抜かしたヒューゴを部屋にひっぱりこむアントン。他にも何人かが一緒に中にはいり扉を閉める。

他の者も何人か一塊になって各々と部屋へと戻る。どうやら今日はそのまま籠城するつもりのようだ。



「んっ……何かきこえた?」


幽霊にびびる余りアイネの部屋へと泊まりにきていた加賀であるが、うとうとしかけた所にさきほどのヒューゴの叫びが聞こえぱっと顔を上げる。


「悲鳴ね。……特に何も感じないし大丈夫」


アイネにそう言われ再び寝に入ろうとした加賀であるが、しだいにそわそわしだす。


「? どうかしたの?」


それに気が付いたアイネが加賀へと問いかけ、加賀は申し訳なさそうにおずおずと口を開く。


「ト、トイレ行きたくなってきちゃって……」


「そう、ならそのままここで……冗談よ。ついていって上げるから行きましょ」


一瞬本気かと思ったとつぶやく加賀。もぞもぞとベッドからはい出し上着を羽織り、アイネが付いてきている事を確認し部屋の扉をあけ廊下へとでる。


「ふぇ」


そしてさきほどヒューゴが遭遇したもの、それとばっちり対面する事となるのであった。

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