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159話 「甘いのは好き」

アイネの反応を見てどうせなら最初から砂糖と牛乳を入れておけばよかったと少し反省する加賀。

そういえばうーちゃんはどうだろうかとふとうーちゃんの方をみた加賀であるが。

そこには絶望感溢れる表情を浮かべ、半開きの口からだばだばとコーヒーを垂らすうーちゃんの姿があった。


「そ、そんなダメだったの……」


布巾でうーちゃんの毛皮についたコーヒーをごしごしと拭う加賀。

うーちゃんは半ば放心した状態のままコーヒーを見つめている。


うー……(いいにおいなのに……だまされたっ)


甘い香りがしただけに予想外の苦さはうーちゃんの心に結構なダメージを与えたようだ。

ふるえる手でコップを置くうーちゃんを優しくなで、加賀はそのコップを手に取ると砂糖と牛乳をいれはじめる。


「ごめんねえ……ほら、砂糖と牛乳いっぱい入れたからこれならだいじょぶだよ……うん、おいし」


砂糖と牛乳を入れたと言っても警戒する様子を崩さないうーちゃんを安心させるように一口コーヒーを飲んでみせる加賀。

それを見てうーちゃんもおそるおそるといった感じでコップを受け取ると少しだけ口をつけてみる。


う(も?)


一口含めば苦みもあるが、それよりも砂糖の甘さと牛乳のまろやかさが上回る。

気が付けばうーちゃんはコーヒーを一気に飲み干していた。


う(うましうまし)


「よかったー……とりあえずお風呂入らないとね、毛皮がマーブル模様になっちゃった……」


加賀が布巾で拭ったもののうーちゃんの白い毛皮はしっかりとコーヒー色に染まってしまっていた。


「しょうがないよ……匂いは甘いのにすごく苦いんだもの」


私もかなり驚いたというアイネに苦いからねーと笑う加賀。

加賀も二杯目はアイネと同じように砂糖と牛乳をたっぷりといれるようだ。


「ん、いけるいける」


「……何しとんだお前ら」


突如かけられた声に皆が振り向けばそこにはいつのまにか戻ってきたバクスの姿があった。

バクスはマーブルに染まったうーちゃんを見て呆れたように呟くとコーヒーへと視線を向ける。


「そいつがそうか。匂いはなかなかうまそうだな」


「あ、それ結構──」


「う゛んっ」


結構苦いから気を付けてと言おうとした加賀であるが一瞬遅かったようだ。

コーヒーを笑顔のまま口にしたバクスは笑顔はそのまま鼻からコーヒーを吹き出していた。




「なんつーもんを飲ませてくれたんだ……」


「いや……その、何かごめんなさい。 はい、これ………砂糖と牛乳いれたから普通に飲めると思う……」


熱いコーヒーが鼻を逆流し暫くのたうち回るはめになったバクスであるが、今度はゆっくりと加賀から受け取ったコップを傾けていく。


「……いけるな、はじめからこれなら良かったのに」


今度のコーヒーはバクスの口にあったようである。苦々しい表情を浮かべながらもしっかりとコーヒーは飲み進めていく。


「それで……そいつは何作ってるんだ?」


「これ? コーヒーゼリーですよー。精霊さんこれゆっくり冷やして~」


「ふむ?」


広めの器に並々と注がれたコーヒー。

それには多めの砂糖だけではなく、今回ついでに手に入れたゼラチンも溶かして入れてある。

加賀によびかけられた精霊の力によりゼリーは徐々に冷え、固まって行く。


「固まった? ……いや、何かぷるぷるしてないかそれ?」


「こういう食べ物なのですよー。母ちゃんコーヒー飲むのは苦手なのに、ゼリーは好きなんだよね」


冷えた固まったゼリーを器に掬い生クリームをかけていく加賀。スプーンを添えたそれをわくわくしながら待っていた咲耶へはいどーぞと手渡す。


「変わった食い物だな……」


「おいしいよ、命」


スプーンでゼリーを掬い食べる咲耶を物珍しそうに眺めるバクス。


「なるほどな、コーヒーはこうやって砂糖や牛乳いれて飲んだり。このゼリーみたいにして食うものなのか」


最初に飲んだあれは間違った楽しみ方だったのかと納得するバクス。


「ん、そのままでも飲めますけどねー」


「慣れりゃいけますよ?」


「……嘘だろ」


だがその目の前では加賀と八木がコーヒーに何もいれずそのまま飲む光景があった。

そんな二人をバクスは驚愕の眼差しで見つめていた。


「ん、こりゃーそのままは出さないほうがよさそうだな?」


「そだねー、慣れるまでは甘くして出すことにするよ。せっかくのコーヒーなのに嫌いになられても困っちゃうしね」


バクスにアイネ、そしてうーちゃんの反応を見る限りコーヒーをそのまま飲ませるのは無理がありそうだと判断した加賀。

当面はコーヒー牛乳の様に甘くして提供する事になるだろう。

ただ、ヒューゴにだけはそのまま出してやろうと、心の中でひっそりと思う加賀であった。


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