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137話 「約束していたもの」

「それはまた……こちらとしては有り難い事ですが」


「だろ? 取りあえずエルザさんのとこ行ってくるよ。他にも話しがあるんだろうし」


「分かりました、事務所の方はいつも通りで?」


「うん、それで頼むよ。そんじゃ行ってくる」


揺れるモヒカンに見送られギルドにて待つエルザの元へと向かう八木。

事務所の方は八木の帰りが遅くなるようならモヒカンらがきっちり戸締まりしてから帰ってくれるので問題は無い。

会場の案を幾つか考えつつぶらぶらとギルドへと向かう八木、程なくして目的地であるギルドの建物が見えてきた。


「エルザさんお早うございます」


「もうお昼過ぎですよ八木様」


呆れた表情を浮かべ八木を出迎えるエルザ。

八木が書類を持ってきたのを見て別室へと案内する。


「それで、要件はなんでしょ? やっぱこの件ですか」


「そうですね……まず、今回の依頼について追加の情報があるのでそちらをお伝えしますね」


エルザからの追加情報は何時迄に応募するかの期限と、枚数の規定等についてだった。

大事な情報ではあるが特に今日明日にでも伝えなければいけないと言った急ぎの内容でもない、八木は一通り話を聞いた後まだ何かあるのだろうと続きを促す。


「……実はちょうど仕事の谷が来ていまして、割と手が空いているのです」


「ふむふむ……ふむ?」


わざわざ読んで手が空いていると話す、その意図を考える八木であるが、ある可能性に思い当たる。


「まさか……」


「ええ、以前お誘い頂いたお食事でも一緒にどうかと言うお話。今ならお受け出来ますので」


「まじっすか!!」


喜びと驚きのあまりがたっと勢いよく席を立つ八木。

ええ、と言ってくすくす笑うエルザを見て顔を赤くして再び席へ着く。


「えっと、それじゃ夕飯って事ですよね……どこがいいかな、エルザさん好みの食べ物とかあったります?」


「私はわりと何でもいけるのですが……そうですね、それだけだと決めれないですし。八木様が最近気に行ってる料理でどうです?」


「了解! そんじゃあ戻って準備してますね、定時なったら迎えにきます!」


そう言うやいないやダッシュで宿へと向かう八木。

これからもう一度ひとっぷろ浴びて仕事着から出かけ用の服へと着替えるのだ。

それにどこで食べるかも決めねばならない、そう色々考えていると自然と頬が緩んでくる。宿に戻った瞬間、加賀にきもっと言われるのも仕方がない事である。



「どうしよう……」


そして八木が宿に戻ってからおよそ1時間ほど、風呂を浴び服を着替えた八木であったが今は何故か食堂のテーブルにつっぷし頭を抱えていた。


「どしたのさ、これからデートなんでしょー?」


「お、おおぉぉ……た、助けてくれぇ」


「え、何、やだ。なんか怖い!」


まるで地面を這いずる死体の様に加賀に腕を伸ばす八木。

だが加賀は八木からさっと距離を置いてしまう。


「み、店が……ぎゅぷるぅっ」


「店がどうかしたの?」


二人が何やら話してるのを見たアイネがバクスを引き連れ食堂へと入ってくる。

ちなみに先ほどの八木の奇声は空中に召喚されたデーモンが八木の背中に激突した為である。


「アイネさん、バクスさん。八木がなんかおかしい」


「ん……そうか? そうかも知れんな」


「何時もと同じと思う」


八木は別に普段からそんなに変な行動をしているわけでは無いが、印象に残る行動というのはあるもので、極稀にとった変な行動から二人の中で八木の変な行動はデフォだと思われている節がある。


「言われてみればそうかも……それで八木どうしたの?」


「帰ってきたときはデートだと浮かれてのに、何かあったのか?」


「お茶でも入れようか?」


なんだかんだ言って皆八木の事は気にかけているようで、椅子に腰かけ話を聞く体制をとる。


「…………聞く前に上のこれ何とかしてくれないですかねえ」


どうやら話を聞くのはデーモンを送還してからになりそうだ。



「デートに使うお店ねー」


八木がテーブルにつっぷしていた原因はデートに使うお店に心当たりがない為であった。


「たまに飯食ったり酒飲みに行ってるだろ? そこ使ったらどうだ」


宿で寝泊まりしている八木であるが、朝食や昼食は別として夕食は常に宿で取ると言う訳ではない。

飲みや食事に誘ったり誘われたりで職場の皆と時たま店に行ってたりするのだ。


「エルザさんをあんなモヒカン共の巣窟につれてけねーっす」


「モヒカン共って、同僚じゃん」


中々に失礼な事をいう八木であるが、エルザの様な年頃の女性をモヒカンが集まる飲み屋に連れて行くムキムキな男。確かに絵面てきには色々と不味そうである。


「バクスさん、何か心当たりないですか……?」


「そんな情けない顔するんじゃない……すまんが、俺も飲み屋ぐらいしか知らなくてなあ」


どうもバクスも心当たりは無いようだ。

八木の顔がますます泣きそうになってくる。


「か、加賀は?」


「……まだこの街で食事しに行った事ない」


加賀に至っては論外である。もちろんアイネも知らないだろうし咲耶も加賀と変わらないだろう。

脱力しテーブルにつっぷす八木に首をひねりつつバクスが声を掛ける。


「ここじゃいかんのか?」


八木のお気に入りの料理を出すお店。

その条件であればこの宿ほど合うところは無いだろう。

だが、八木は渋そうな顔をするとうなるように話し出す。


「昼食だったらよかったんすけど……夕食だと絶対ちょっかい出す奴がいるじゃないですか」


「……まあ、確かになあ」


八木の言葉に皆の頭にいくつかの人物が候補としてあがる。

具体的に言うとヒューゴとフランクである。


ヒューゴはデート中の八木をからかう場面がありありと浮かび、フランクはエルザをナンパしようとする光景が思い浮かぶ。

ちなみにフランクは追加できたPTメンバーの内一人で初日に加賀に声をかけた人物である。

彼はあの後咲耶に粉を掛け目をえぐられそうになり、さらにはアイネにも同様の事をし四肢をもがれている。

怪我は全て治療済みだがそれでも女性を見れば声を掛けようとするあたり相当ハートの強い人物である。


「ダメそうだな」


「ですよねー」



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