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127話 「厄日」


「ところでうーちゃん、このドラゴンさん生きてるよね……?」


海岸に打ち上げられぴくりとも動かないドラゴンを見るうちに加賀の中の不安が大きくなっていく。


うー(ちゃんとてかげんしたで)


「すごい飛んだけどしてたんだ手加減……じゃあ、気絶してるだけなのかな?」


「たぶん、そう」


ドラゴンに近づき頭を手でぺちぺち……と言うには聊か強すぎる力で叩くアイネ。

手がめり込みそうな勢いにドキドキがしならがも加賀が見守っていると、ドラゴンは小さくうめき声を上げ目を開く。


「ぐ、うぅ……い、一体何が」


「あ、ドラゴンさん大丈夫ですかー?」


ぐぐぐと首を持ち上げ加賀を見ようとするドラゴン、そしてうっかり加賀のそばに居たうーちゃんと目があってしまう。


「お、おおおぉおお前は!! わ、吾輩をどうするつもりだっ、さては食う気だな!? この悪魔!」


「あ、あの誤解です落ち着いて……」


何とか宥めようとする加賀であるが、ドラゴンは興奮し加賀の言葉は届いていないようだ。


「だがただでは死なん! ただでは死なんぞおおおっ!」


「うぁっ、ちょ危なっ」


食われてたまるかと必死なドラゴン、びったんびたんと釣り上げられた魚のように跳ねまわる。

遠目で見てる分には笑える光景かも知れないが問題はドラゴンの巨体によってそれが行われていると言う事だ、近くに居た加賀はたまったものではない。


「例え死のうとも! 一矢報いげぶぅぇえ゛っ」


そしてその巨体が振り回した前脚?が加賀に向かった瞬間、再びうーちゃんの蹴りが炸裂した。喉と腹に1発ずつ。


「ド、ドラゴン様ぁあああっ!?」


地面を滑るようにすっ飛んで行くドラゴン。

長の悲痛な悲鳴があたりに響いた。



うーちゃんの蹴りを受けたドラゴンは再び気絶してしまった。

また暴れられてはまともに話す事も出来ないと、今度はアイネが魔法によってドラゴンの頭から尻尾まで、四肢も含めてを地面に固定していく。

そして再び頭をべちべちと叩き始めたアイネ。やがて眼を覚ましたドラゴンが体を拘束され動けないと理解した所で加賀が話かけた。


「──落ち着きました?」


「あぁ、主らが吾輩を殺すつもりは無さそうだとは理解した。それで何のようなのだ?」


「この汽水湖で漁をしたいのよ、一応許可を貰っておこうと思って」


ドラゴンの問いに漁をしたい旨を伝えるアイネ。きゅっとドラゴンの瞳孔が縦に細長く絞られる。


「それは……人がここに来ると言う事か」


「いえ、漁自体はここのリザートマン達にやってもらう」


リザートマンが漁をすると聞いて不思議そうに首をかしげるドラゴン。


「では近くに来て魚を取り引きすると言う事か?」


漁をするわけではないと聞いて、ならばと問いかけるドラゴン。

これについてのアイネの答えはもちろん否である。さきほど長とリザートマンに街まで運んでもらうよう話し合い済みだ。


「え、それ吾輩の許可いらなくない? と言うか吾輩ただの蹴られ損じゃ……」


「……そう言えばそうね」


確かにドラゴンの言う通り。漁をするのはリザートマンであり、彼らは普段からこの汽水湖で漁をしているので問題はない。また取引を近くでするわけでもないので人間が汽水湖に近づく事も無い。

よって別にドラゴンに許可を得る事は何もなかったりする。



「ああ、ドラゴン様。おいたわしやこの様なお姿になられて……」


おいおいと涙を流すリザートマンの長。彼の目の前ではドラゴンが地面に横たわり不機嫌そうに尻尾を打ち付けている。


「なんか本当ごめんなさい……これお詫びに」


すっと加賀が差し出したのは本来リザートマンへの挨拶用として用意しておいたお菓子の詰め合わせだ。

どうも差し出すタイミングが読めず、このままおやつで食べてしまおうかと思っていた矢先にこの出来事である。ドラゴンも問題なく食えるはずなので一応詫びの品としては使えるだろう。


うー(え、それおやつじゃないのけ)


「元々お土産用だよー、帰ったら用意したげるから素振りしないの」


ドラゴンに向けシュッシュッとパンチをする素振りを見せるうーちゃんを頭をぽんぽんと叩き、帰ったら用意するからと宥める加賀。


「……ふん、持って帰るが良い。そんなもんいら……頂きますね。わざわざ申し訳ありません」


お土産を差し出そうとする加賀をちらりと見るドラゴン。

そしてそんなもん要らないと言いかけた瞬間、ドラゴンの頭部付近の地面がごっそりと消え失せる。


「いやぁ、実に美味しそうです。あ、ここじゃ何なのでこちらにどうぞ」


「ドラゴン様ぁ……」


もはやがち泣きに入った長に加賀達を引き連れドラゴンが向かったのは祭壇そばにあるオープンテラスの様な場所であった。

テーブルや椅子もこまめに掃除されている様で埃や汚れ等は無い。祭壇にきたリザートマン達が休憩したりするのに使っていたのかも知れない。


「ふと思ったけど、これドラゴンさんが食べるには少な過ぎたかなー」


「いえいえ、ご心配なく」


そういうや否やドラゴンの体が光り輝き、そして小さく縮んで行く。

光りが収まった時、ドラゴンが居た場所には一人の偉丈夫が立っていた。ただし全裸であるが。


「これなら量は問題ないでしょう……おや、どうされましたかな」


「えぇと……色々聞きたい事はあるんですが、なんで裸……」


「あぁ、失礼。しばらくこの姿になった事は無かったもので……服は無いのでこのままの姿で失礼しますね」


「えぇー……」


やはりと言うかその偉丈夫はドラゴンであった。

そしてドラゴンであるが故に人用の服など持っていなかったようだ、もろ見てしまった加賀がうげぇっといった表情を浮かべるが、ドラゴンは我関せずと言った様子で椅子へと腰かける。

加賀以外の者もすでに椅子に腰かけており、加賀もそれを見て諦めたように椅子に腰かけるのであった。




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