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124話 「鍛冶師」

探索者の人数が合わない件については翌日理由が判明した。


「へぇ、ゴートンさんって鍛冶師さんなんですねー」


「そうじゃよ、嬢ちゃんこれお代わりあと2つ頼めるかいな」


「はーい、少々おまちくださーい」


翌朝、探索者達から少し遅れ食堂に現れたゴートン。

探索者達はすでに朝食を食べ終えており、ある程度余裕のあった加賀は配膳するついでにゴートンと軽く雑談していた。

何度か話す内にゴートンがここに来た理由は大体把握できたようだ。まず彼は人ではなくドワーフと呼ばれる種族である、見た目は髭面でまるで大樽のような体格、背はドワーフと言われて想像するほど低くはない、170前後はあるのでないだろうか。これは人にも個人差があるようにゴートンが大柄な部類に属するからであり、ドワーフ全体でみれば人より低めの身長である。


「それじゃー、当分はここに泊まる事になるんですね」


「うむ、飯はうまいし風呂もある、ほかのサービスも良い。これでビールがあれば文句ないんじゃが……ま、そっちはわしが何とかしたろう」


「え……何とかできるんですか? あれって輸出してないって聞いたんですけど」


バクスが飲みたくてしょうがなかったビール。このドワーフにはどうにかできる手段があるらしい。


「昔の伝手を頼るだけじゃよ。あ、これもう1回お代わり頼めるかいな」


「はいはーい」


空になった皿を持ち厨房へと引っ込む加賀。それと入れ替わるよう厨房から出てくる人物がいる。


「さっきの話は本当かい?」


「ん、ああ。本当だとも。こんなうまいソーセージがあるのにビールが無いとか考えられんわい」


出てきたのはバクスだ。厨房の中に居たにも関わらずビールと言う単語に釣られ出てきたのだ。

バクスの問いに本当だと答えるゴートン。バクスはガッツポーズを作りよしっと声を出す。


「それで、量はどれぐらい仕入れられるんです?」


「お前さんも好きそうだな……この宿の全員が一日一杯は飲める程度じゃな。それ以上は厳しいぞ」


「……いや、十分だ。全員がビールを飲むと言う訳でも無い、別の酒のが好みって奴もいるだろう」


ソーセージを作り出してから一年以上が経つ頃になってようやくビールと一緒に味わえる。そう考えると自然と目頭が熱くなるバクスであった。


「泣くほどの……いや、そうかこのソーセージ作ったのはお前さんじゃったか」


そう言ってじっとバクスの目を見つめるゴートン。

すっと手を差し出すと固くバクスと手を握るのであった。


「え、何。何があったの……」


ちょうどそこに料理の乗った皿を持った加賀が厨房から戻りその場面を目撃する。

奇妙なものを見る目で二人を見ながらとりあえずテーブルに皿を置く。


「加賀、ついにビールが入荷できるぞ!」


「へー、八木喜びそうだね」


「ああ、あいつも好きらしいからな」


八木と言う言葉を聞いて何かを思い出したように手をぽんと打つゴートン。


「おお、そうじゃ思い出したわい。その八木とやらに頼みたい事があっての」


「八木にですか」


そうじゃと頷き追加の料理を口に運ぶゴートン。

ジョッキにはいった酒で料理を流し込むと再び口を開く。


「連中に頼まれて来たは良いが、設備を一から作らんといかん。土地はまだまだ空きがあるそうで何とかなるんじゃが、建物を作る職人を集めにゃならん」


「なるほどー」


鍛冶屋となるとそこらの家とはまた違う立て方や設備やら何やら色々と必要となってくるのだろう。

それで職人を集めなければいけないと聞いてなるほどと納得する加賀であるが、ふと疑問が浮かんでくる。

八木はそんな設備作れるのだろうかと。


「でも、八木はその手の設計には詳しくないような」


「うむ、だが建築ギルドに所属してるのじゃろ。できるだけ早めに建てたいのでな直接職人に話もっていこうかと思っての……ちょいと紹介して欲しいじゃよ」


「あー……それなら夕方には戻ると思うので、その時聞いてみてください」


八木の所属するギルドに該当する職人がいるかは分からないが、と念を押す加賀。

ゴートンは軽く頷く残りの料理を一気にかき込んでしまう。


「ぷぅ……ま、できればじゃからな。無理そうなら待つしかなかろうて」


ごっそさんと言って席を立つゴートン。

どうやら今日は酒の手配をかけにいくらしく、戻るのは夕方になるとの事であった。


今日は探索者達も全員出払っており、午後からは割と暇になった宿の従業員達は食堂に集まるとお菓子を用意し休憩を始めたようだ。


「ふーん、じゃあ汽水湖で魚介類とれそうなのね」


「うん、ちょっとドラゴンをどうにかしないとダメらしいけど」


ドラゴンと聞いて眉をくいと上げるバクス。次いでうーちゃんとアイネを見て眉の位置を元に戻す。


「まあ、何とかなるとは思うが穏便にな?」


「当然、交渉するだけだよ」


ほんとかね、と言った表情でぱきりとソーセージを食べるバクス。

燻製の香りがふわりと口の中に広がり、ふと思い立ったように加賀へと話しかける。


「加賀、魚介類って燻製にしてもうまいのか?」


「ん、美味しいですね。いくつか作り方知ってますよ、手に入ったらやってみましょー」


「む、そうだな。これは何としても交渉成功して貰わんとだな」


「まかせて」


ドラゴンとの交渉ではあるが、あくまで余裕そうなアイネ。

ことりとフォークを置き、すっと加賀の隣を指さす。


「いざとなったら物理的に」


「いやいやいや、それはやめとけっ」


実際実行出来てしまうあたり洒落にならんと止めに入るバクス。

アイネはうーちゃんを指さした手を下ろし、冗談よと軽く笑う。

半分目が本気だった気がしなくもないが。

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