121話 「全員集合」
「そういえば」
「ん?」
「リッカルド組はまだ戻ってないんだねー」
今回皆が旅にでるにあたり宿を出てから戻るまでの日程を大体合わせてから出発をしている。
バクスは八木達の行程を思い浮かべああと一言呟くと加賀の問いに答える。
「向こうは馬車の移動時間長いからな、その分到着するのが前後するんだろう。もしかすると交渉が難航してる可能性もあるっちゃあるがな……」
そう言って最後の肉まんを口に放り込み飲み下すバクス。
さすがに10個近い饅頭を食えば腹もそれなりに膨れたのだろう、軽く腹をさすりコップの中身を飲み干した。
「早けりゃ明日にも帰ってくると思うぞ」
「そっか、なら食材の買い出しとかもそのつもりでしておかないとだねー」
「そういえば残りのPTの人も来るのですよね、なら普段の倍用意しないと」
「倍……」
加賀の形の良い顔がきゅっとゆがむ。
アイネが加わった事で半分の人数なら普通に回す事が出来ている、その倍となると今のままでは相当厳しいだろう。
「大丈夫、私に考えがあるから」
「ん、なら明日はとりあえず買い出しだね」
特に気負うでもなく、なんともない事であるように大丈夫と言い切るアイネ。
余裕そうにチョコをぱくつくその姿を見て加賀も萎えそうになった気持ちを立て直す。
(……たぶんあれだろなー)
ここひと月アイネと共に過ごしその力を間近で見ていた加賀。
アイネの言う考えとやらに心当たりがあったのだ。
「何とかなりそうなら良かった……」
相変わらず従業員確保できていない事に頭を悩ましていたバクス。
何とかなりそうと聞いて安堵した様子を見せる。
「しかしあれだな、アイネさん」
「なにかしら?」
そして話題を変えるように手に持ったフォークをしげしげと見つめアイネに話を振るバクス。
「うまいなこのケーキ」
「そうね、思ってた以上に美味しく仕上がった。お酒との相性も良さそうだし、ほかにも色々作れると思う……仕入れて本当に良かった」
夕食の饅頭を食べ終わったみんなの前に並ぶのは、チョコをふんだんに使った菓子。
バクスが食べているのは恐ろしく濃厚に仕上がったガトーショコラである。
ケーキを一口食べ、ホットミルクを飲んでほっと一息。大分気に入った模様である。
ケーキを作った本人であるアイネも予想以上の出来映えに満足し、他人の評価も上々とあってその顔にはうっすら笑みが浮かんでいる。
テーブルの上にはまだまだチョコを使った菓子が並んでいる、甘いものは別腹と言う事で食べる手もなかなか止まりそうにない。当分の間このお茶会は続きそうだ。
「お、加賀ちゃん戻ってたのか!」
「はい、昨日戻ってきましたー」
そうかそうかと嬉しそうに奥から商品を大量に引っ張りだしてくるハンズ。
「ほれ、そろそろ戻るだろうってんで商品きっちり仕入れておいたぞ」
「おー……鶏肉大量にウォーボアのお肉もいっぱい、卵も……あ、鶏ガラもありがとうございます。これ全部買いますね」
全部買いますと聞いてあいよと返事をし、そのまま固まるハンズ。
「えっ、ぜ、全部? 全部買うの?」
「買います、人数増えそうなのでー」
「おお、なるほど」
ぽんと手を打ち納得いったとばかりに頷くハンズ。
そう言う事ならと用意した食材を全て袋に詰め込んでいく。
「結構な量になるけど大丈夫かい? 他の店も……ああ、一度荷物置きにいけばいいか」
こくりと頷いて代金と引き換えに荷物を受け取り……そしてそのままアイネに渡す加賀。
肉類がたっぷりと詰まったそれは加賀にとっては重すぎたようである。
「荷物多いとちょっと大変だね、毎回荷物置きに行かないと……」
「持てなくは無いのだけどね」
加賀にとっては重すぎるその荷物もアイネにとってはまったく苦にならない重量である。
必要な食材を全て買って持ったとしてもまだまだ余裕のはず、ただ外見上非常によろしくない事になる。
「うーちゃんが戻ったとしてもちょっと無理かなあ」
「荷車か何か買おうか、毎日買いに行くんだもの持ってて損はないよ」
「そうだね……うん、そうしよっか」
とりあえず荷車を買う事を検討しつつ買い物を終わらせた二人。
宿へと戻ると何やら中が騒がしい事に気が付いた。
「んん? もしかして帰ってきたかな?」
「そうみたい、聞き覚えのある声がする。聞き覚えのない声もあるけど」
「たぶん残りのメンバーだろねー」
騒音の正体はやはりというか帰ってきた八木達であった。
荷物をかかえ食堂の扉を開くと一月ぶりに見るみんなの姿と、見覚えのない人たちの姿があった。
うー!(かがー、もどったぞい!)
「うーちゃんお帰り! んんぅ……」
うー(ぎょええぇ)
扉を開けるなり加賀に駆け寄るうーちゃん。
加賀はうーちゃんにぎゅっと抱き着くとそのままお腹に顔をうずめぐりぐりしだす。
「……うーちゃんやっぱ痩せたね」
うっ(ゆうはんたのしみにしとるでの)
「ん、まかせなさい。たっぷり作ってあげるよー」
抱き着いた感触からやはりと言うかうーちゃんは分かれる前よりも大分痩せていた。
ぱっと見はそこまで変わらないが毛皮の中身のもっちり感が少なくなっていたのだ。
ふと、そこで皆の視線が集まっていることに気が付いた加賀、慌ててうーちゃんから離れると皆へも声をかける。
「おかえりなさい」




