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119話 「まあ、そうなるよね」

「……皆行ったようだな」


「ええ」


場面は宿から出発した皆を見送った、その後の宿へと移る。

皆の姿が見えなくなるまで宿のまえで見送っていたバクスと咲耶の二人。

自分たちもこれからやらなければいけない事がある、軽く言葉を交わし宿の中へと一旦戻る。



「それじゃ俺たちも行くとするか……場所は総合ギルド、今から行けば丁度良いでしょう」


荷物を持ち宿から出てきた二人、鍵をしっかりしめ確認をする。

かなり大きめのバッグを背負い大通りを歩くバクス。後ろをついていく咲耶もバクスが背負うものより大分小さいがバッグを背負い歩いて行く。

中身は今日の教室で参加者に見本としてみせる為の衣服である。

現世地球の様々な地域の衣類を咲耶が今日の為少しずつ作成していったもの、その一部だ。


「予約していた咲耶です」


「……確かに。部屋は廊下の突き当りを右に曲がって3つ目の扉です。もう何人か集まっているようですよ……えっと、バクスさんは」


「彼女の付き添いだ」


「そうでしたか、お仕事がんばってくださいね」


ギルドの職員に軽く礼を言い廊下を進む二人。

やがて見えてきた扉を軽くノックしがちゃりと開く。


「お待たせしました。皆さんお早いですね」


中にいた人物らに軽く挨拶をし中へと入る咲耶。次いでバクスも部屋へと入る、途端バクスに集まる視線の数々。一応は裁縫の教室なのだ、バクスの様な筋骨隆々の男がまさか来るとは皆思ってもいなかったのだろう。


「驚かせたようですまない、俺は彼女の──」


「モデルよ。今まで作った服を着て貰う予定なの」


「…………」


咲耶の言葉に耳を疑うバクス。

護衛のつもりで来たのがまさかのモデル役である。無言で視線のみで咲耶に聞いてないぞと訴える。

それに対し咲耶は申し訳なさそうに、でもどこか楽し気に手を合わせるのであった。


「ここ、どうやって縫ってるのかしら……」


「すごいわね、見た目もいいのは勿論なのだけど、体に合わせてぴったり作ってある……」


咲耶が用意した衣服をまとったバクス、それに群がる裁縫職人の面々。

興味深げに衣装を眺めるその様子をみて内心ため息を吐きつつバクスは何とか平静を保っていた。

裁縫職人の興味はあくまで服であり自分ではない、それにバクスに遠慮し好き勝手触ったりする者なども居ない。

問題はほぼ全員が女性だけと言う事であるが、多少恥ずかしさは感じるもののがまん出来ない程ではなかったのだ。



「……腕はそこじゃなくてこう……そうそうそんな感じ!」


「次脚組んで貰える?」


だが次第にバクスに慣れてきた裁縫職人たち、初めのうちはただ見ているだけだったのに数日経った今ではバクスにポーズを要求するほどになっていた、少しでも思った通りのポーズでなければぐいぐいと手足を押さえポーズの矯正を行ってくるのでバクスのほうも必死である。


「バクスさん次はこの服着て貰えるかしら」


そしてそれは咲耶も同じだったようで、次第にバクスに渡す服が趣味に走りまくるものが増えてきた。

裁縫の教室なので、裁縫職人たちも各自が咲耶から教わった事を参考に自らも服を急ピッチで仕立てていく。それらも次第に咲耶の趣味に毒され様々な趣の服が増えて行くことになる。

新作が出来るたびにそれを着るはめになったバクス、最初の1週間で目が死に2週間で頬がこけ、3週間で肌が乾燥しだす。



「ダンジョン攻略したときより辛かった」


そう今までの出来事を無表情で語るバクスに加賀は涙を禁じ得ないのであった。


「この度はうちの母親がご迷惑をおかけしまして……」


心の底から申し訳なさそうに謝る加賀。

当初バクスは護衛と聞いていた為まさかこんな事になるとは露にも思わなかったのだ。


「二人ともココアできたよ……」


お盆にコップを乗せ二人の元へと運ぶアイネ。

疲れ果てた様子のバクスを見て疲れた時は甘いものが一番だと、さっそくココアの入れてみたのだ。


「さっきからの甘い匂いの正体はそれか……これはまた変わったものを仕入れたな」


変わったものと言いつつもココアを飲むバクスに戸惑いはない、口に含みゆっくり味わうとうまいなと呟きを漏らす。


「ほかにも色々なお菓子に使えるので、夕食後楽しみにしててください」


「うむ、楽しみにしておくよ」


少しだけ顔色の戻ったバクス。

ココアの香りとその甘さは少なからずバクスの心を癒したようである。


「本当に香りが良い、それに酸味と甘みと……苦みか、バランスが良いな。なかなか良いものを仕入れられたようで何よりだ。他には何があるんだ? ずいぶんと大量の荷物だが」


「ん、あとはですね──」


シグトリアで仕入れた食材や調理器具をバクスに説明していく加賀。

今日の夕飯はそれらを実際使った料理になるのはほぼ決まった様なものだ。

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