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11話 「街の食糧事情」

「ここが俺の家だ。」


「えっ、ここ……ですか?」


バクスについて少し歩くこと、バクスがそういって立ち止まったのは何もない広場の前だった。

てっきり宿屋に行くのかと思っていた加賀は「え? え?」と言いながら広場を見渡している。


「いや、そっちの広場じゃなくこっちだ」


そう言ってバクスが指示したのは宿屋ではなく、今までの通りにあったのと同じようなごく普通の一軒家であった。


「あれ、普通の家? これ宿屋…って事はないですよね」


「道すがらさらっと話しただけだからなあ……宿屋は丁度建て直そうとしてたところで、解体して更地にしたばっかなんだ」


「ごめんなさい、聞こえてなかったです……でもなんてご都合主義なタイミング…」


「む?」


加賀の言葉に不思議そうな顔をするバクス、それを見て加賀は八木のほうへとちらりと視線を向ける。

それに気が付いた八木がバクスの方へ体を向き直し口を開く。


「加賀とも話してたんです、いつかお礼したいなって。それでお礼もかねて何かお手伝いできればなーと…俺、一応建築家ですし」


考える際の仕草なのだろうか、バクスは顎をさすりながらどこか中を見ていたが、あぁと呟くと視線を戻す。


「そういや言ってたな、まぁその辺の話は追々聞くとしてとりあえず中はいって飯にしよう、二人とも腹へっただろ?」


「言われてみると確かに」


「お腹へったねー」


ほれ入った入ったとバクスに促され家の中に入る八木と加賀、中は暗かったがバクスが何やら呟くとぱっと部屋が明るくなる。

部屋の明るさは日本で生活してた時とそう変わらないだろう。

八木が目を細めながら天井を見るとそこには玉状の光る物体が吊るされていた、それは明らかに火による光源ではなかった、どちらかと言えば蛍光灯に近い光り方をしている。


「なあなあ、バクスさん。あの天井に吊るしてるやつ火じゃないよな?」


「ああ、こいつは魔道具だ。魔石を使うが結構便利だぞ」


「はぁ~こいつが魔道具か」


八木は興味深そうに手を近づけてみるが熱などは感じないらしく、これなら火事とかも大丈夫そうだし便利だなと感心している。


「さて、そろそろ飯にするか。すぐ準備するからお前らは休んでてくれ」


「え、あ、手伝いますっ」


「ん、ありがたいが手伝うっていってもスープは温め直すだけだし、肉と卵焼くぐらいだからなあ……あ、じゃあ食器だしといてくれないか? そこの棚に皿とか入ってるから」


「はいっ用意しときますー」


バクスが飯の準備をすると聞いて手伝いを申し出る加賀だが、料理に関しては特に手伝う事はないようだ。

バクスに言われ棚から取り出した食器は木製のものと陶器製のものがあった。

加賀は食器をみて大きさがそろってることや歪み等もないことに少し驚いている。

建築物の件といいこの食器といいこの世界の物はかなりしっかり作られているようだ。


「おし、できたぞ。大したもんはないが食ってくれ」


「ありがとうございます。いただきまーす」


「いただきますー」


バクスに呼ばれ食卓に向かう八木と加賀、そこには異世界の食事と聞いて想像するよりも豪華なものが並んでいた。


深めの木皿へと大量に入れられたパンが中央に置かれ各自の前には湯気を立てた具だくさんのスープの皿、それに塩漬け肉だろうか手のひらサイズの焼かれた数枚の肉に目玉焼きとチーズが添えられた皿が並んでいる。

さらにはデザート代わりだろうかヨーグルトに刻んだ果物らしきものを入れた小皿もあり、大き目のジョッキも置かれている。


「飲み物は牛乳とワインがある、好きな方をついで飲んでくれ」


「ボクは牛乳もらいます…お酒だめなので」


「ワインいただきます!」


バクスと八木はワインを選び加賀は牛乳を選んだようだ。

歩いたことで喉が渇いていたのだろう、二人は料理を口にする前にまず飲み物を注ぐと飲み始めた。

ワインも牛乳も飲んだ八木と加賀の表情を見るにかなり良いものだったことが窺える。


次に加賀はパンを手に取り口へと運び、目を見開く。

パンは決して質の悪いライ麦パンやふすまが多量に混じったパンではなく、日本で食べていたパンに近いものだった、とはいえ小麦粉の精製技術の差だろうか若干ふすまの匂いが鼻につくようだ、それに密度も高くずっしりと重く噛み応えもある……が、十分美味しくいただけるようだ、好みによってはこちらのパンが良いと言う者もいるだろう。


(イメージだとがちがちなパンだったんだけど…これトーストにして食べたらモチモチして美味しそう。トースト食べたいなー)


八木は最初にスープを頂くことにしたようだ、かなり具だくさんのスープで野菜と肉のぶつ切りがごろごろ入っている。

味付けはシンプルに塩のみのようだが具材からでた出汁のおかげで悪くない味に仕上がっている。

スープを一口すすった八木は次にお肉に取りかかる。

単純に塩漬けした肉を少し厚めに切って焼いただけの物だったが、八木は好みの味だったのか1枚、2枚と次々と食べて行く。


(塩漬け肉はじめて食べたけどいけるじゃん! もっと塩辛いもんだと思ったけど丁度いいし……黒コショウとレモンがほしい)


ここでパンを食べていた加賀がチーズへと手を伸ばす。

表面は黄色く中はクリーム色、ぽこぽこと空いた穴が目立つそれを一切れ取るとぱくりと食いついた。

もくもくと口を動かし飲み込むと、すぐにもう一口、二口とチーズを口に運んでいく。

こちらも美味しいチーズであることがうかがえる。


「んーっこのチーズ美味しいですね、そのままでもいけるけど料理に使ってもよさそう……そういえば牛乳新鮮でおいしかったし……このあたりは酪農が盛んなんですか?」


「うむ、街の南にはだだっぴろい草原が広がっててな、そこに牛を大量に放し飼いにしとる。ついでに言うとその卵を産む鶏も放し飼いにしてるし、土地が肥沃なもんで小麦やらなんやらもいっぱいとれる」


「なるほどー、それじゃ牛のお肉なんかも手に入るんです?」


「いやあ肉用に育ててる牛はいないからなあ、たまに亡くなった牛が出ても酪農家の連中が食っちまうし」


「そうですかー……」


乳製品に、小麦、さらには鳥、豚(猪)とワインに果物と、どうやらこの街では食材はかなり入手しやすいようだ。

ただ残念な事に牛肉は手に入れることが難しいかもしれない。

それが分かった加賀は食事の手をとめるとうーんと考え始める。


「牛が食いたいのか?」


「食べたい。というか料理に使えたらなーと」


「料理?」


バクスの問いに加賀は自分が料理人であること、自分が作る料理によく牛を使うことを話した。

バクスはなるほどなーと、腕を組みすこし思案した後、それならばと切り出した


「牛が食いたいなら狩るしかないな」


「牧場で!?」


「なんで!? ……この街から西に馬車で2時間ぐらい行ったあたりにカウシープって牛がいるんだ」


そいつを狩れば良いと話すバクスにいやいやと手をぱたぱたふる加賀。


「狩るとかむりむりっ 追い回される未来しかみえないよー……」


「いや別に自分で狩る必要はないぞ? ギルドで依頼をだせばいい」


「ギルド……ですか」


「ああ、狩りは狩りが得意な連中にまかせればいいさ、とはいえ結構金かかるからしばらく先の話だろうがな」


「なるほどー……」


手には入るがお金がかかる。

当然といれば当然のことに加賀はまずは手に入るものを利用してこつこつお金を貯めるしかないかな、と考えていた。

酪農と養鶏、さらには農業も盛んなこの街だ、牛が使えなくてもやれることはたくさんあるだろう。

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