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111話 「ひさしぶりのココア」

「それじゃ試しに飲んでみようか」


「おー」


そう言ってコップに粉状になった元ペーストの物体……カカオを入れ店員から貰ったお湯を注ぐアイネ。

油分がアイネの手によって分離されたことで日本でよく見るココアと見た目は変わらない、先ほどまでの様に脂が浮いていると言うこともないようだ。


「じゃ、半分こ」


「ありがと」


再び二つの容器に分け片方をアイネに戻し、もう片方を早速とばかりに口をつける加賀。アイネもそれに習い受け取ったコップを口に運ぶ。


「ココアだ」


「だいぶ飲みやすくなったね……もう少し甘い方が良いかな」


「ん、そだね。ボクももっと甘い方がいいかなー……甘さは砂糖で各自調整するとして。何も入ってない状態のこれ手に入れられるのかなー?」


加賀の言葉を聞いたアイネはすぐさま店員に購入の可否を尋ねる。

断れなかったのか実際問題なく買えるのかは分からないが、店員の答えは可であった。


「仕入れ先教えて貰ったよ。在庫がすぐ無くなる類のものじゃないそう、用事済ませたら買いにいきましょ」


そういって店員から追加で貰ったのか、空の容器に分離した油分を入れて蓋をするアイネ。

容器を荷物にしまいこむと王城へ向け再び歩きだす。


「その油何かにつかうのー?」


「ん、確かココアバターって言ってチョコ作るのに使う……はず。後で詳しく調べないと」


「へーっ。これチョコに使うんだ? 知らなかったー」


チョコに使うと感心した様子を見せる加賀。

アイネは事前にチョコについて調べていた為、そのあたりの事について加賀よりも詳しくなっているようである。


チョコドリンクのお店から離れて歩く事さらに30分ほど、加賀とアイネの二人は王城前までたどり着く。

門を潜った先にはアイネが向かっている事を聞いて出迎えの者が待ち構えていた。


「アイネ様、お待ちしておりました……皆がお待ちです、どうぞこちらに。お連れの方は部屋を用意しましたので──」


「だめ、加賀も一緒に連れてくよ」


「え゛」


部屋を用意したと言いかけた男を遮るように加賀を連れて行くと宣言するアイネ。

てっきり護衛にデーモンを付けてその間に用事を済ませるのだろうと考えていた加賀は思わず驚きの声を上げてしまう。


「それじゃ、行くよ」


「え、ちょ……ボクなんか行っていいのっ!?」


「別に構わないよ。加賀に何か話させようって訳じゃないから安心して。……私と仲が良くない者もいるから一人にはしたくない」


アイネの傍が一番安全と言う事だろう、そういわれてしまえば加賀は納得するしかない。

うぇーっといった顔をしならがも大人しくアイネへと付いていくのであった。


「アイネよ、よく来てくれた」


二人が通されたのは円卓のような机のある広々とした一室であった。

椅子にはいかにも国の要人ですといった雰囲気の面々が腰かけている。

部屋に入った二人に集まる視線に思わず身じろぐ加賀であるが、アイネは気にした様子もなく椅子に腰かけた。加賀もアイネに抱えられ半ば強制的に椅子に座らされてしまう。


「……そいつ……そちらのお方が神の落とし子か」


「そうよ、それで仕事の引継ぎが必要って聞いて来たのだけど。なんで皆ここに集まっている?」


胡乱気な視線をアイネの連れである加賀に向けていた要人の一人が加賀に対しそいつと言った瞬間アイネの手がぶれる。

ぱさりと音を立てて落ちた一房の髪をみて顔色を変えて言い直す要人の一人。

アイネはそれをあっさり流すと今回読んだ目的について問いただす。



「……私に国に戻れと? その意思はない事は伝えたと思ったけど……国の防衛のためと言ってもノーライフキングは私だけじゃ──」


私だけじゃないと言いかけ、視線を巡らすアイネ。

要人の中にいつもならいるメンバーが欠けている事に気が付く。


「ほかの皆はどうしたの……まさかと思うけど」


「ああ……皆フォルセイリアに行ってしまったのだよ。神の落とし子を守るためにとは言っていたが……」


その言葉を聞いてあちゃーと言った様子で額をおさえるアイネ。

形の良い眉を顰めながら話を続ける。


「加賀の作った料理目当てでしょうね……分かった、皆の説得は私がする」


説得すると聞いて要人の中でも特に立派な椅子に腰かけた人物がふむ、と呟く。


「説得するあてはあるのかね? 私がどれだけ言っても行くのを止めなかったのだ、説得は難しいと思うが」


「加賀の作った調味料を分けて貰うよ、それを使って料理を作れば加賀が直接作った料理でなくとも加護の力は働く事が分かっている」


アイネの話を吟味するように目を瞑り、再び目をあけたその要人は加賀へ確認するように言葉を投げかける。


「と言う事だが、貴方の方には特に問題はないですかな?」


「……調味料を渡すだけなら問題はありません、日持ちもかなりしますし」


「そうか、ならばそうするとしよう……それで神の落とし子の周りで見守る役目だが……」


要人は加賀に気を使い、見守る役目と言ったが要は監視役の事である。

この国からだす監視役はアイネがその役目を負っている。


「……代わる気はないよ」


「む……護衛もしたいのだろうが、別に君でなくとも構わないだろう、他のノーライフキングに任せても良いし、何よりあの宿には幸運兎がいるのだろう? それだけで十分すぎるとは思うが」


「……」


要人を見るアイネの目からどろりとした赤い光が徐々に溢れてくる。

まずい、と思ったのか少し話題をそらそうと要人は加賀へと話を振る。


「貴方はどうですか?」


「ボク……ですか」


「ええ」


今の話をどう思うかぜひ意見を聞かせてほしいという要人。

加賀は感情を押し殺し、無表情となったアイネをちらりと見て口を開く。


「国の事とかはよく分かりません。なので個人的な思いとなりますがそれでも良いですか……分かりました」


個人的な思いの発言で良いか尋ねる加賀に頷く要人の一人。

それをみて加賀は少し深呼吸をして心を落ち着かせ言葉を続ける。


「ボクとしてはアイネさんでないとダメです。アイネさんには宿でボクの仕事の手伝いをして貰っています、腕は確かですし。宿の皆とも仲良くやってます……そうですね、もっと個人的な意見を言うのであれば、数か月一緒に仕事をやってきて仲良くなったアイネさんと離れる気はボクにはありません」


「……そ、そうか」


加賀の言葉を聞いて面食らったように言葉につまる要人の一人。

個人的な思いで話すことを許可はしたが、ここまではっきり言うとは思っていなかったようである。


「そう言うわけだから、私は戻らない」


そう、改めて戻る意思が伝えるアイネ。

さきほどまで無表情だったのが嘘のように上機嫌な様子で話すアイネを見て、要人達は諦めたようにため息を吐くのであった。

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