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10話 「お肉」

門の先には中世ヨーロッパを彷彿とさせる光景が広がっていた……なんてことはなく、そこにはこうのっぺりとした豆腐ハウスが並んでいた。

目に見えてテンションの下がる八木、イリアに話は聞いていたがそれでも少しは期待していたに違いない、少なくともバクスの格好や門番の格好はまさにファンタジーのそれだ、街中もファンタジー風な光景が広がっている、と。

だが見事に期待は裏切られる結果となった。


気落ちしながらバクスの後へと付いていく二人、だがなんだかんだで初めてくる街の様子に興味津々なのだろう、次第に元気を取り戻し歩きながらあたりをキョロキョロと見回している。


「ふむん」


主に建物を見てた八木がなにやらうなっている。


「どったの?」


「いやあ……結構建物しっかりしてんなと思ってさ」


八木の言う通り、この街の建物は見た目はともかくかなりしっかりと作られているようだ

建物の壁には目立つひびはなく、土台もしっかり作られているように見受けられる。


「ふーん?」


「デザインメインでやることになりそうかな……そっちはどうよ?」


「ボクのほうはなんともいえないよ、何せまだお店一軒もみてないもの」


「そりゃそうだ」


等と話しながら歩いていると目的の肉屋に着いたようだ、バクスが一軒の建物の前で立ち止まる。

建物でまず目についたのは店先につるされた金属製の看板だ、看板には店の名前だろう文字が刻まれその上には人目で肉屋と分かるよう鳥と豚……ではなく猪のモチーフが飾られている。

加賀はファンタジーの世界というイメージから軒先に肉をつるしてあったり、肉きり台に切りかけの肉塊や肉切り包丁が並んでる様を思い浮かべていたが、実際にはそうではなく日本がそうであったように、建物の中で売買を行っているようだ。

入り口には少し大きめの窓ガラスがはめてあり、中をうかがうことができる。

肉はガラスケースの中に並べてあり何を売っているかまでは判別が付かなかった。

ガラスケースに結構な量の水滴が確認でき、なんらかの方法で肉を冷やしているということが分かる。


(ファンタジー世界だし魔法か何かで冷やしてるのかなー……でも、冷やして保存できるってことは保存方面で香辛料の需要がない? 単に味付けの方で需要があるなら良いけど、無いとなると困るなぁ)


「ハンズ、いるか?」


加賀が考え事をしている間にバクスは背負子を降ろし、店の中へと入り店員を呼んでいた。

バクスの声に気が付いたのだろう、店の奥から返事と共に太鼓のような腹を揺らしながら人のよさそうなおっちゃんが現れた。

おっちゃんはバクスの知り合いなようで、バクスの姿を確認すると嬉しそうに声を掛けた。


「はい、いらっしゃーい! って、バクスか久しぶりだなー! 何がいるんだい?」


「声でけぇ、久しぶりだなハンズ。まずは買取をお願いしたい、店先までもってきてるから見てもらえないか?」


「あいよ! 問題ないぜ、それじゃ重さ量るから裏に回ってもらってもいいかい?」


「ああ、分かった先いっててくれ」


バクスは八木に声をかけ背負子を背負いなおすと二人で店の裏に向かう。

裏に回ると大きな扉が開いており、中ではハンズが待ち構えていた。


「結構な大物だな! 部位はロースとバラが多いな……血抜きも問題ないみたいだな」


それじゃ量るよとハンズは天井から吊るされた秤に猪肉をのせていく。


「50kgってとこだな!」


二人で背負える分のみ持ってきたので、猪肉の大部分は穴に埋めてきた。

それでも50kgもあるのだからやはり地球の猪と比べると格段と大きい。


「50kgだから~…んーっと、100,000リアになるが良いかい?」


「ああ、問題ない」


100,000リアと聞いても貨幣価値がわからない二人にはまったくピンとこないようであった。

納得したような納得してないような、まさに良く分からないといった顔をしている。

ハンズは店の中から台車を持ってくると猪肉を上に乗せ、店の奥へと台車を押しながらバクスへと声をかける。


「じゃあ、代金わたすから店で待っててもらっていいかい? 俺っちは先にこいつしまっちゃぅ……」


そう言いながら返事も待たずに見せの奥へと消えていくハンズ、後半部分は音が小さく聞き取ることもできない。


「ったく、相変わらずせっかちなやつだ」


バクスは苦笑いしつつ店の入り口へと向かっていく。

バクスに少し遅れて店へと入る八木と加賀、中に入るとちょうどバクスがハンズから代金を受け取るところであった。

目ざとくその手元を確認する加賀、それと対照的にへー、ほー言いながらショーケースを眺める八木。

バクスの手にはたくさんの金貨とそれより少なめの銀貨が確認できる。

加賀は枚数的に金貨一枚が10,000リア、銀貨一枚が1,000リアなのかな、と当たりをつける。


「確かに受け取った」


「金貨ちょっと切らしててな、銀貨混ざっちまったけど問題ないかい?」


「あぁ、問題ない。……ついでだし買い物してくか。卵をくれ10個セットのやつな、あとは塩漬けのバラ肉を……2kgくれ、それと骨付きの鳥モモ三羽分」


「あいよー!計算するから待ってくんなっと………卵が300リアの塩バラが8000リア、鳥モモが1500リアで……えーと、9800リアだね!」


ちらっと八木と加賀を見てから肉を頼むバクス。

それに気づいた加賀はもしかしてご馳走してくれるんだろうかと期待に胸を躍らせるが、同時に今日あったばかりの人にご馳走になるのも悪いかなという思いもあるのだろう、複雑そうな顔をしながらモジモジしている。


「なんだよ加賀、体くねくねさせて気持ち悪い」


「やかましっ」


八木に蹴りを入れてる間にバクスの支払いは完了したようだ、お釣りだろう、銅貨らしきものと丈夫そうな紙に包まれた大量の肉を受け取ると紐で結び肩に担ぎ上げた。

卵は紙袋に入っているようだ、紙袋を受け取った中身を確かめるように軽く持ち上げる。


「確かに、それじゃハンズまたくるよ」


「まいど! またきてくんなー!」


店を出て少し歩いたところでバクスが二人に話しかける。


「八木、加賀」


「おう?」


「ほい?」


バクスによばれ返事をする二人に巾着袋を渡すバクス、袋からはジャラジャラと金属がこすれる音がしている。

ぽかんとした表情をしている二人にバクスは言葉を続けた。


「とりあえずそれだけあれば当面の生活費にはなるだろう。泊まる所も俺の家にいくつか部屋があまってるからそれを使え」


それじゃとりあえず俺の家に行くぞといい歩き始めるバクスに、遅れてバクスの言っていることを理解した八木が慌ててバクスを呼び止める。


「ちょっ、ちょっ待った待った!」


「なんだ?」


「いやいやっ、あの猪倒したのはバクスさんだろ!? 俺達がもらうわけにはいかねーだろデスヨ!?」


慌てて喋ったため語尾がおかしくなる八木、バクスはそんな八木を気にした風でもなくふむと一言つぶやくと八木へ振り返る。


「まあ俺は止め刺しただけみたいなもんだからな、つーかだお前ら正直な所無一文だろ?」


「うぐっ」


そう、イリアの入れ忘れなのかは分からないが八木と加賀は無一文であった。

加賀の袋の中にあったのは地球で使っていた包丁セットのみ、八木にいたってはそもそも袋すら持っていない。


「あとな、正直な所ろくな荷物も持たずにパンツ一丁で旅してるとかそれただの変質者だからな? まあ何かしでかすようにも見えんが……俺が保証人になるといった以上は面倒みんといかん、しばらくの間は家で寝泊りしてもらおう」


「うぅっ」


「まあ、なんだ気になるってんなら働いてそのうち返してくれりゃーいいさ、ほれ行くぞ」


「……すまん、本当にありがとう」


いいってことよ、と言い先に行くバクスはどこか照れくさそうにしてた。

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