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101話 「情報は正確に渡しましょう」

「そういえば、黒鉄のエルフとはどんな交渉するんです?」


食事も後半に差し掛かり、皆の腹も落ち着いてきた頃。

何度か雑談を繰り返しお互いに大分慣れてきたところで、八木は明日行うエルフとの交渉について王へ訪ねる。


「ん? そうだな……一応内容ぐらいは知っておいたほうが良いだろう。とは言っても大した事はない、たんに切っても良い本数を増やしてくれて頼むだけだからな……問題は向こうが飲んでくれるかと、どんな条件を出してくるかだが……」


そこでいったん言葉を区切ると王は両手を上げおどけたようなしぐさを見せる。


「さっぱりわからん」


どことなく愛嬌のあるその仕草を見て、八木の頭に浮かんだのは動物園の熊のみたいだ等というばれたら殺されそうなものであった。

うっかり笑いそうになるのを無理やり抑え込みなんとか平静を保ち口を開く。


「……ちなみに前回の交渉の時はどんな条件だったんです?」


「前回は食料と交換だったな、特に種類の指定はないから毎度適当に食料を荷車に詰め込んで森の境界までもっていくんだ。で、そこから向こうが好きなの選んで持っていく事になっているぞ」


かなりざっくりした内容に少し面食らう八木。約定と聞いてもっとがちがちに固まったものを想像していたのだが、どうやら違うようだ。


「となると今回も食料ですかね」


「さて、どうだろうな? 何度か姿を見たがあれは食料に困っているようには見えなかった。要求されるにしても別の物になるだろうさ」


そう言って空になったコップに自ら酒を注ぐ。

かなり度数の高い酒であるがまるで水を飲むように胃へ流し混んでいく。


「なあに、難しい話は明日考えればよい。ほれコップが空ではないか」


酒瓶を見せ八木のコップに酒を注ぐ仕草を見せる王。

なお、八木のコップは酒で満杯状態である。


「あ……い、いただきます」


王自ら酒を注ごうというのだ、八木には断る勇気はなかった。

ぐいっと酒をあおり咽そうになりながらもコップを差し出す。コップは再び酒で満たされた。


(……このおっさん見た目変わんないけど酔ってる? やばい、酒がんがん進めてくるタイプかっ)


たまに飲み会で見かける事がある、酒の入ったコップをみて空じゃないかと酒を注ごうとするタイプ。

このままでは酔いつぶされる、そう考えた八木の対策は……



「王……だめですね、完璧寝てます」


返礼で酒を注ぎ返し先に相手を酔いつぶすであった。


「……酒、強すぎだろ」


「まさに蟒蛇だの」


「これ、ぜってー明日二日酔いだあ……」


顔を真っ赤にしふわふわとした様子の男3人。

王のあまりの飲みっぷりに一人じゃ無理と悟った八木。アントンとヒューゴを巻き込み3対1にもっていたのである。

王を抱えて退室する兵士らしき人を見送っていると八木に申し訳なさそうに声をかける人物がいた。


「八木殿……申し訳ありません、ああなるとどうにも止められなくて……普段はそこまで飲まないのですが、問題が解決しそうと言うこともあって少しはめを外してしまった様です」


「はぁ……そうなんすねえ」


八木に話かけて来たのはこの国の大臣であるらしい。

その疲れた表情とまぶしい頭から普段の苦労がしのばれる。



「部屋が遠いぞお……」


王が退室した時点でその日の晩餐は終了となった。

ふらふらとした足取りで割り与えられた部屋へと向かう八木。

部屋の前で待っていた世話係の肩に捕まるようになんとかベッドへ倒れこむ。


「八木様……大変でしたね。とりあえず寝間着を用意してますので……お手伝いしますね」


「んー……あー、いいよいいよ。それぐらいならまだ一人で出来るから」


もそもそと身を起こしとりあえず上着を脱ぐ八木。

世話係の差し出した寝間着を受け取ると若干おぼつかない手つきでなんとか着ていく。

そんな八木の着替えをじーっと見ていたお手伝いさんがぽつりとつぶやく。


「……すごいですね」


「ん?」


何が? と思い振り返る八木。

お手伝いさんは慌てた様子で手をぱたぱたと振りすみませんと謝る。


「すごい筋肉だなと……私体質的にあまり筋肉つかない見たいなんです。それでちょっと羨ましくて……」


「あー……確かに筋肉つきにくい人はいるよなあ…………?」


羨ましいといって八木の体を見るお手伝いさん。ふとその顔に浮かぶ表情を見た八木の頭に疑問が浮かぶ。

なんか目つきがおかしくないだろうか、と……さらによくよく見ると顔が若干赤い。

逃走本能が働き扉へと視線が行く、そこで扉からこっそりこちらをのぞき込む二つの視線と目が合ってしまう。

八木は必死に自分に気のせいだと言い聞かせ、とりあえず寝てしまえとばかりにベッドにもぐりこむ。




「あの……なんでベッドに腰掛てるんですかねえ」


「えっと……主から夜のお相手もと……」


一瞬で酔いが覚めた八木であった。

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