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99話 「リッカルドの王」

トゥラウニを出てそろそろ一週間が立とうとしていた頃、八木達の乗る馬車はリッカルドまで後少しと言うところまで進んでいた。


うー(これがさいご……)


ベーコンと目玉焼きを挟んだパンを大事そうに食べるうーちゃん。宿から持ち込んだ食料はこれで最後だ。

後は日持ちする調味料で何とか凌ぐしかない。


「ケーキこれで終わりかー……もっと大事に食べればよかった」


他のメンバーも似たような状態だ、悲しげに空になった皿を見つめる者。少しずつ削るようにケーキを食べる者。それを羨ましそうに見つめる者等々。


「やっぱさ、あの宿の食事が良すぎるんだよ……」


「昨日の宿も決して悪くないはずなんですけどねぇ……加賀ちゃんの食事に慣れた身としてはどうも」


決して他の宿の料理が不味いと言う訳ではない、大抵メインの肉か魚料理が一品、それに副菜とパンやスープが付き、宿によっては果物がついたりもする。

味付けはシンプルだが素材が悪くないので味も悪くない。

たまに食べるのであれば問題ないのだが、それが続くとなると話は変わってくる。


「まあ、リッカルドにつけば城で美味いもん出てくるんでねーの? 交代で何人か八木の護衛に行くんだしよ」


リッカルドと調整した結果、最終的には数名の護衛であれば城内への同行が許可されている。探索者達とも相談した結果数名が日替わりで八木の護衛として付くことになっていたりする。

八木が寝泊まりするのは城内であり、食事もそこで取ることになる、城主の計らいで護衛も一緒にと言うはなしであるので探索者達も城でご馳走にありつけると言うわけだ。


「甘いですねヒューゴ」


「ああん?」


そしてそんなヒューゴの思惑をばっさりと切って捨てるアルヴィン。ぎろりと目を向けるヒューゴを意に介さず言葉を続ける。


「確かに城での歓迎も兼ねた食事となれば贅を尽くしたものが出てきます……ですが贅を尽くしたものが美味しいとは限りません。貴方も覚えがあるでしょう?」


「まあな……」


アルヴィンの言葉に苦り切った顔で答えるヒューゴ。

色々とろくでもない思い出でもあるのだろうか。


「やっぱあれよねー。加賀ちゃんのご飯が一番ってわけよ」


「まったくじゃわい……」


その言葉に同感といった様子であちこちから上がるため息を吐く音。

これからリッカルドに着いたとしても各自のやることを済ませなければフォルセイリアに戻ることは出来ない、その事を思い先ほどよりもより深くため息をつくのであった。



「あれがリッカルドかあんま大きくは……んー?」


ちょっとした山を越えた先、馬の休憩もかねて小休止になった所で馬車を降りる八木。

彼の視界の先には山から見下ろす形で目的地であるリッカルドの首都が映し出されていた。

聞いていた通り城壁の周りを多くの緑で囲まれており、自然豊かだと言うのが伺える。

そんなリッカルドであるが、八木は山から見下ろすその光景にふと違和感を覚える。それがなんであるかは分からない、ただ漠然とした違和感を感じたのだ。


「八木殿、どうしましたかな?」


「ああ、ロレンさん。どうもあの街に違和感がありまして……」


ふむ、と顎に手をあて街を見下ろすロレン。

軽く首を傾げると、八木へと振り返り口を開く。


「はて、私には良くわかりませぬな。ここからでは遠いですし……近づけば何かわかるかも知れませぬぞ」


「そう、ですね……とりあえず行きましょか、この感じだと昼過ぎにはつきそうですし」


そう言って馬車へと戻る八木。

ほどなくして馬の休憩も終わり一行はリッカルドを目指し山を下りていく。



「違和感の正体これか……」


リッカルドへと到着し、門へと向かう二台の馬車。その窓から外を覗き込んだ八木がぼそりと呟く。

八木の視線の先にあるのは例の黒鉄の森である、一見すると黒っぽい森にしか見えないがよくよく見るとその異常さがわかる。

具体的に言うと異常なまでにでかいのである。城壁などよりもはるかに高く、恐らく100mは超えているであろう立派な木々をみて八木は一人納得し大きく頷いていた。


「妙に街が小さく見えたのこれのせいか……てかまじで大きすぎだろこれ」


未だかつて見たことのないその光景に八木はしばし時間を忘れたように夢中になるのである。



「依頼受けてきた八木といいます……あ、これ招待状です」


「失礼……たしかに、八木様ですね。話は伺っています。今から城までご案内いたしますので……ええ、護衛の方も皆さん一緒にです」


門番に八木が招待状を見せたところきっちり事前に連絡が来ていたようで城まで案内してくれる運びとなる。

聞けば護衛も全員城に泊まっても良いと言う話でこれには探索者達も驚きを隠せない。


「おいおい、全員とはえらい歓迎されてんなー」


「護衛に残るものだけかと思ってましたが……かなり期待されてるようですね、八木」


期待されていると聞いてそっと胃のあたりをさする八木。


「なんか胃が痛くなってきた……」


「何、気楽にやる事です。きっちり相手の言った事をそのまま伝えれば良いだけです、交渉が失敗したとしても貴方に責はありませんよ」


責は無いと言うがそれでもプレッシャーは残る。

八木も含め周りの人たちは交渉がうまく行くことを望んでいる……出来るだけ明るい調子で話そうと心がける八木であった。


「こちらです……あまり緊張なさらずに、多少の粗相は気にする方ではありませんよ」


城まで案内してくれた門番……かと思ったが、王の間の前まで案内してくれたあたりそうではないようだ。

八木の緊張をほぐすように笑いかけると、中に一言声をかけ静かに扉を開いていく。


(…………熊?)


王の間、その玉座に腰かけていた男。

髪と区別がつかないほどに伸びた髭、外套代わりにまとった毛皮、八木にも負けぬ体躯、獣を彷彿とさせる鋭い眼差し……八木が一瞬熊と見間違えたのも仕方のない事だろう。

王とはかけ離れたイメージを持つその男は、脚を組んだ姿勢のまま八木へと視線を向ける。


「よく来た神の落とし子よ。私の名はウィルヘルム……リッカルドの王を務めている」


歓迎するぞ、そう言ってリッカルドの王は八木へと凄惨な笑みを浮かべるのであった。


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