プロローグ
気が付くと景色が一変していた。
先ほどまで歩いていた歩道の姿はなく、今目の前にあるのは白い靄の掛かったなにもない空間である。
「……」
「……」
ぽかんと口をひらき、目の前の光景を眺める二人。
一人の名は『八木隆志』、職業は建築デザイナー。
もう一人の名は『加賀命』、職業は料理人。
二人はいわゆる幼馴染であり、つい先ほどまで二人で買い物しようと歩道を歩いていたところであった。
「あー、気が付いた?」
驚き固まる二人の後ろから話しかける者がいた。
まるで鈴の音のような綺麗な声ではあったが、二人は急にかけられた声に驚き反射的に振り返る。彼らの視線の先に居たのは一人の非常に整った顔立ちの女性であった。
「驚かせちゃった? ごめんねー、私はイリア。神様やってます」
君たちの世界のじゃないけどねーと笑いながら二人に手を振る女神を名乗る女性。
突然の展開に固まる二人をみて、女性はわかるわかると云々頷く。
「ここはねー、魂の集う場所。君たちに分かりやすく言うと死後の世界だね」
死後の世界ときいて戸惑う二人。
女神を名乗る女性は二人が落ち着くのを待ってから話を始めた。
「……ってわけで。 良かったら転生しない?」
「……はぁ」
「えっと……」
一通り女神から話をきいた二人であったが、まだ頭の整理が追い付いていないようだ。
ともあれ女神からの話を整理すると。
・二人はもう死んでいる
・女神の管理する世界に神の落とし子として行き、二人の持つ技術を広めてほしい
・強力な加護は無理だけどちょっとした加護はあげる
・報酬は……異世界とは言えもう一度人生をやり直せる、これを報酬とする
・ほかに何かあれば話は聞く
と、なる。
「どうするよ、加賀」
「どうするって……受けるよ、まだ未練あるもん」
「そうか……んじゃ、俺も受けるかね」
話を聞いて加賀は受けることにしたようだ。
八木も加賀が受けると聞いて自分も受けることに決める。
「お、ありがとー助かるよ。また丁度良い魂探すのも手間だしねー」
さてさてと呟き何も無い空間に腰かけるイリア。
脚を組み何やらボードのようなものを手に取ると二人へと笑いかける。
「まだまだお話するから二人ともそこらに座ってよー。あ、何もないけど座ろうと思えば座れるから」
イリアの言葉を本当だろうかと思いつつもとりあえず座ってみる二人。
すると彼女の言った通り何もない空間に座ることができた。
「向こうの体はこっちで用意するね。 見た目は期待しててよー。 んで、加護はどうする?」
「それじゃあ……」
しばらく加護について相談していた3人であったが、結局加護の内容は八木が身体能力の向上、加賀が魔力の小向上と種族特有の食中毒をさける為の謎能力をそれぞれ貰った。
「体のどこかに神の落とし子って判別する様の紋様が出来るから、誰かがその紋様を描こうとすると描いたそばから消えるようになってるから、もし神の落とし子だって証明しないといけなくなったら見せてね」
紋様の説明を聞いて頷く二人を見てイリアは満足げに頷くと次いで転生先の説明に移る。
「最初は神の落とし子ってのは大々的に言いふらさないようにしたほうが良いから普通に暮らすことになると思うけど、転生先は治安も良い方だし景気も良いから仕事もすぐ見つかると思うよ。あ、出現場所は街から少し離れた森の中に開けた場所があるからそこにするね、混ざると困るし。そこ、危険な生物もいないから安心して」
「混ざるとか何それ怖い」
「あー、じゃあ俺がそっち行くから加賀は動かないで待っててくれるか?」
「ほいほい」
「もうちょっとしたら転生してもらう訳だけど、二人とも他に何かある? お願いでもなんでもいいよ」
叶えられるかどうかは別だけどね、と笑うイリア。
二人とも転生するにしてもどうしても心残りが一つあった、それはもう会うことのない肉親や友達などだ。
二人は可能であれば別れの挨拶をしたい旨をイリアに伝える。
「いいよ、夢枕に私が立って伝える感じになるけど……そうそう手紙書いてもらってもいい? もしどうしてもうまく伝えられない時は渡してしまうから」
手紙を書いてと言われた二人は少し時間を取りそれぞれ手紙を書き終え、イリアへと渡す。
イリアは手紙の内容をちらりと一瞥し頷くと懐に手紙をしまい込む。
「ああ、そうもう一つ注意事項があった。 魔法の中に精霊魔法というのがあってね、これって要は精霊に頼みごとをして魔力と引き換えに現象起こしてもらうって魔法なんだけど、実質使えるのはエルフと神の落とし子ぐらいだから使うときは一応気を付けて。神の落とし子は誰とでも会話出来ちゃうからねー」
頷いた二人に他には何かあるかと聞くイリア。
八木はまだ聞きたいことがあったようで口を開く。
「ネット見られるようにすることって出来たりしますか? というのもですね、俺たちの記憶は完璧じゃないですし、いずれ忘れることもあると思うんす。そういった時ネット使えるとかなり助かるんです……」
「いいよ、そっちは後で対応することになると思うけど。宿とか泊まれたらその時点で使えるようにするね」
実はダメ元で聞いたお願いではあったが、あっさりと許可が下りる。
これで向こうでの仕事が大分楽になりそうだと二人は笑みを浮かべた。
そして準備も終わりいよいよ転生する時となった。
緊張した面持ちの二人をみてイリアは安心させるように優し気な笑みを浮かべ、二人へと話しかける。
「あ、そうそう言い忘れてたけど、君達って寿命ないから。転生したまま年取ることもないよー」
そんな笑顔からしれっと放たれた最後の一言。
八木と加賀が驚きの声をあげる間もなく、二人の意識は暗転した。
3月23日
ちょっと手直しかけました。
文章量が半分ほどに。