みらくるぼーい
今回のキリヤ君はほぼ真面目モードです。
真面目じゃないと話が進まないからですね。
つまり、例のスキル発動中です。
それでもちょっぴり変なところが残っていますがまだまともな感性があります。
でも、クールでいられるのも今のうち。
次回で性格を固めます。
いつまでも外にいても仕方ないので俺は勝手に民家を使わせて貰うことにした。
一応言い訳をさせて貰うと、鍵がかかっていなかったのが悪い。
この家の感想を一言で言うなら……微妙かなぁ。
少なくともベッドの寝心地は良くなかった。
六畳一間程のワンルーム。
壁紙など洒落た物はなく、木目そのままの壁。
壁はそれなりの厚さはあるようだが、塗装処理していないからか雨の浸食で所々腐ってしまっている。
やはりこの家は地上にあったと見て間違いないだろう。
雲とほぼ同じ高さにあるこの家が雨に打たれるわけがない。
家具は簡素なベッドがと木のテーブルが一つあるだけと非常に殺風景。
そのベッドも藁束に麻布を架けただけの粗末な代物だ。
地球に比べて大分文化のレベルが低いのだろう。
窓ガラスは張っていなく、光源はただ丸くくりぬいただけの窓だけだ。
ほんと、無いよりマシなレベルの家だ。勝手にあがりこんだ俺が思うことではないかも知れないが。
しかし、食料の類は見回した限り存在しない。
水瓶にはほんのちょっとだけ底に水が溜まっている。
ふぅむ。物資が乏しい。水は今日中に飲み干してしまうだろう。
どうしたものだろうか?
考えていると、外から小さく足音が聞こえてきた。
そして扉が開く。
「はわ~。お腹が空きました~」
そう言いながら入ってきたのは金色の髪をした小柄な少女だった。
バッチリ俺と目が会う。
「……悪い。勝手に邪魔してる」
空気が凍りついた。
少女は青い瞳をまん丸に見開いている。
長く伸びた尻尾は真っ直ぐと地面へと垂れて少女の周りをぐるりと一周巻いている。
長さ的には足の一・五倍くらいか。
ん? 尻尾?
根元が太く、先端にいくに従って細くなる鱗に覆われた爬虫類のそれを思わせる尻尾だ。
尻尾は薄い青色をしている。表面は鱗に覆われているようだ。
根元はかなり太く、少女の細めなウエストとさほど変わらない。
尻尾の上部分は所々ゴツゴツとしたりと硬そうな鱗が覆っているが、下は鱗が薄くどことなく柔らかそうなイメージを受ける。色素が薄くほぼ白で手触りはすべすべとしていそうだ。
よく見れば少女の両こめかみの辺りからはややカールした角が伸びている。
ついでに背中には小さな羽もある。
「は、はわわわわっ。どちらさんですかっ!?」
少女は取り乱しながら俺に言った。明らかに動揺している。
そして俺の方がもっと動揺していると自信を持って言える。
どうやって誤魔化す。
勝手に家に侵入した手前、気まずさが半端じゃない。
と、そこでぷつっと何かの接続が切れる感じがした。
「やっほー、通りすがりの異世界人だよ」
「ヒュ、ヒュームの方ですよね。イセカイ・ジンというのはお名前ですか?」
「異世界人だけど、それは違うかな?」
「ち、違うのですか? でも、今そう名乗ったのに? じゃ、じゃあそのイセカイ・ジンさんじゃない方は私のお家で何をしているんですか! 通りすがりじゃなくてしっかり滞在してますよね」
あ、ばれた。正直に言うしかないか。
「ん~、そこのベッドでちょっと寝た。あと、水も飲んだ」
「は、はわわっ! 泥棒です! そしてそれを敢えて言ってしまうあたり大胆不敵です! こ、ここは雨が降らないからお水は貴重なんですよ!」
「そっかぁ、そのうち雨降るよ」
「はわっ、人の話聞いてました!?」
あれ? またなんか頭の中で変な感じがするな。
「ああ、悪い。悪いついでにちょっと聞きたいんだが、はわわさんはずっと空の上で暮らしてるのか?」
「わたし、はわわさんって名前じゃないですよ。勝手に変な名前つけないで下さい」
尻尾を一度持ち上げ、地面にぴしゃりと叩き付けながら少女は否定した。
何となくいらっときたんだろうなと推測がつく。
仕方ないだろう、はわわってイメージだったんだから。他に何て呼べと。
「悪い。はわわって言ってたからつい。どう呼べば良いかわからないからとりあえず自己紹介しよう。俺は工藤桐弥。一度は死んだが華麗に復活したミラクルボーイだ。生き返ったからには健康第一をモットーに生きていきたい所存でいる。あとはそうだな。こことは違う世界から来た。まずはお友達から始めよう。宜しく」
慌てて取り繕ったせいで、クラスの自己紹介風になってしまった。ぎこちなさが前面に出ている。
「は、はわわ。勝手に侵入してきた挙げ句友達宣言とは中々強引で頭がおかしい人です。一度死んで復活したとか、違う世界から来たとか言ってることも荒唐無稽で滅茶苦茶です」
頭おかしいって言われた。実際かなりテンパってるからな。おかしくなっていることを否定は出来ない。
ミラクルボーイって何だよ。どうしてそんな言葉が出たのかわからない。
自分で言っておいて恥ずかしい。
俺はやや赤面しながらも少女の反応をじっと待つ。
「はわっ! な、何ですかその目は。自分が名乗ったんだからわたしにも名乗れと言っている目です」
「うん、出来れば頼む。別に名乗らなくてもいい。そしたら俺は暫定的にはわわさんって呼ぶことにする」
「は、はわわっ。何ですかその斬新な脅し文句は。嫌なら名乗るしかないじゃないですか。仕方ないです。リルア。そうよんでください」
名乗りながらリルアの尻尾は不機嫌そうに左右に揺れていた。
「オーケー。じゃあ、リルアとよばせて貰うな。俺はキリヤでいいぞ」
俺が手を差し出すと、リルアはあからさまに距離を取った。
俺は仕方なくその手を引っ込める。
……き、嫌われたのか?
人との距離感を掴むのは中々難しいな。
俺は転移前は殆ど病院暮らしで母さんやナース、担当医以外とあんまりコミュニケーション取ったこと無いんだよな。それが問題として出てしまったか。
「悪い。気を悪くししたなら謝る。俺、他に頼る人いないんだよ」
「ああ、はい。ここは場所が場所ですからね……ってあれあれ?」
リルアは口元に人差し指を当てる仕草をしながら少し考え事をしていた。
それからおもむろに口を開く。
「あの、キリヤさん。ちょっと疑問に思っていたんですけどどうやってここに来たんですか? ヒュームの方は空を飛べませんよね。私がこの島に閉じ込められたとき、私しかいなかったはずです。どこから湧いてきたんですか?」
「虫みたいに言うなよ。一回説明したけど俺は異世界から来たんだよ。で、直接神さまにここに送り込まれた。どうしてここだったのか俺にはわからない。とりあえず転移した後は出会った人に頼れと言われた」
「……はぁ。ほんとですか、それ? 神さままで出てきて、私のことからかってます?」
「別にからかったわけじゃないんだけどな。本当のことだし隠す意味も無いからな。信用できないならそれでいい。俺のことを信用してくれなくていいから、とりあえず助けてくれ。流れから察するに神さまが言っていたのはリルアのことだろう」
「それ、大分無茶苦茶言ってますよね!」
「ああ。ある意味もう吹っ切れた。初対面で失敗した以上、今更上辺を取り繕う意味は無いだろ。人間素直が一番だ。思ったことを言って何が悪い」
「悪いですよ! 少なくとも私は困惑しっぱなしです!」
確かに。さっきから尻尾がウネウネと挙動がおかしいからな。
「そうか。すまない。ところで、この島にはリルアしかいないのか?」
「はわわっ。抗議したのにあっさり流されました!」
「……で、どうなんだ?」
「……はぁ、もう何を言っても無駄そうですね。諦めます。ここには私しかいませんよ。キリヤさんもいるから今は二人ですけど」
「何でまたこんな辺鄙なところに?」
「……それ、私が聞きたいくらいですよ。夜中、寝ている間に一晩で浮かび上がってしまったんですから」
「降りようとは思わないのか? 羽があるんだし飛べるんだろ?」
「……いや、その。それは、その。と、とにかく閉じ込められちゃったんです」
「なるほど。原因は何なんだろうな。まずはそれを調べることから始めるか」
「いえ、原因ならわかってますよ。ダンジョンです。ダンジョンの中心部に存在するダンジョンコアが浮遊の魔力を帯びているんだと思います。ここではありませんがそういった浮島のダンジョンが他にあると聞いたことがあります」
「へぇ、ダンジョン。魔物が出るって言う?」
「はい、そのダンジョンです。この島の中心部あたりに大穴が開いていてそこから入れます。入ったことはないんですけどね」
「よし、ならば早速調べてみよう。今日は遅いから明日だな」
「え? 調べるんですか? ダンジョンは罠があったり魔物が出たりで危ないですよ」
「まぁ、あれだ。興味本位って奴だ。危なくなったら逃げ帰ってくる。無理してつき合うことは無いぞ」
……まぁそんなわけで行き当たりばったりに今後の予定が決まったのだった。
異世界初日。その日の晩の床は硬かった。流石に家の主から寝床は奪えない。
主人公はコミュニケーションになれていない設定。
小さな頃から病室で母親やナースに甘やかされて育ってきたわけです。
病人だから誰かに何かをやって貰うのが当たり前。気を使われて当たり前。
これは不遜になるのも仕方が無い。ゲームしかしてこなかったから常識もない。
それはまだいいとして、会話での発言が割とおかしい。作者的が客観的に見て普通じゃない。
考え無しに発言するクレイジーボーイ。彼に隠し事なんて出来ません。
そして、その発言内容と思考回路は恐ろしいことに作者にも理解できません……。




