神さまの苦悩
物語の整合性を取るための話です。
後からの追加で済みません。
「キリヤ君、アホだけならまだしもバカじゃからなぁ。心配じゃよ」
ワシ、オズウェルは何度か異世界からこの世界へと客人を招いたことがある。
目的はワシの世界で過ごしてどう感じたのか感想を聞くためじゃ。
しかし、キリヤ君ほど一目見てヤバイと思った客人は他にはいなかった。
まず、人の話をまともに理解できん。
病室育ちじゃから口の利き方などの常識がないのは仕方ないにしろ、あれはちょっと酷すぎじゃろ。
しかし、キリヤ君タイプの人間を今まで送り込まなかったのも事実じゃ。
あの手のタイプがワシの世界に何を感じるか気になるところでもある。
じゃが、キリヤ君が死んだ後に感想を聞いたとしたらどう返ってくるだろうか?
……うん、ワシは簡単に予想がついたよ。
「忘れた」
絶対にこう言うに決まっとる。
じゃからワシは一生懸命考えた。
そしてある画期的な方法を思いついた。
キリヤ君の考えていることを随時ワシの元に情報として送ればいいのじゃと。
ワシはキリヤ君と会話しながらそのスキルを創り出して与えてみた。
……その結果を見てワシは愕然とした。
キリヤ君、何も周りの状況について考えとらんかった!!
聞こえてくるのはキリヤ君が思っていることだけ。
ワシの元に送られてくる情報に、風景などの情報が常にゼロ。これはヤバイ。
どこで何をしているかわからない。それは不安じゃ。
ワシは慌ててスキルを作り替えた。
キリヤ君の脳を使って現在の状況を勝手に説明するスキルじゃ。
言わば思考のサポート。
これがあればキリヤ君の状況が手に取るようにわかるようになるはずじゃ。
その目論見は上手くいった……と今の所思う。
キリヤ君を異世界に送り込んだ後、キリヤ君の周囲の情報がワシの元に伝わってきておる。
キリヤ君の脳内で勝手に状況説明をしたくなるある種の脳波を出すことにしたのだ。
しかし、元々バカなキリヤ君にはそのスキルの負担が大きすぎるらしい。
すぐ疲れて効果がなくなってしまうのだ。
しかし、面白いこともわかった。
スキル発動中のキリヤ君の思考能力は大分引き上げられるらしい。
普段のキリヤ君だったら多分、雲を見ても「美味しそうだ」としか思わないじゃろう。
しかし、スキル発動中のキリヤ君は違った。きっちり雲くらい高い場所にいると考察して見せた。
キリヤ君に本来ない知識はスキルが自動カバーしている形じゃな。
それくらいしないと意味がないのじゃ。
知識カバーがなければキリヤ君の情報説明はこんな感じになってしまうに違いない。
これくらいのあれがそうしてきっとああなんだ。
ワシの直感がこうなることは間違いないと告げておる。
ワシはこのスキルをキリヤ君に与えて本当に良かったと思う。
キリヤ君は自分に文章能力がある気でいるみたいじゃが、それ間違いじゃからな。
ほぼ十割スキルの力じゃ。
キリヤ君には教えたくても教えられない事実じゃな。
勿論キリヤ君にばれないように見えない形で発動しているスキルじゃ。
アビリティボードにも記載されておらん。
……実を言うとな、この才能を与えるために他の才能を極限まで削る必要があったんじゃよ。
人一人に与えられる才能ってのは決まっておる。
キリヤ君を一時的にでも頭よくするのは神であるワシをもっても難しかったんじゃな。
こんなこと初めてじゃよ。びっくりじゃ。
おかげで他の才能を殆ど与えられないことになってしまった。
しかし、ワシの勝手な都合で与えたスキルのせいでキリヤ君の才能が減った事実は意地でも隠し通さなければいかん。じゃからワシは特殊なスキルを創った。
倒した他者からアビリティを奪う能力じゃな。これをデコイに見せかければキリヤ君も気づかないじゃろう。アンリミテッド・アビリティチェインの説明文もそう書き換えておこうかの。
しかし、語った後は反動で知能が下がってしまう副作用があるらしい。
そこだけが未だに心配じゃ。
キリヤ君。流石に雑草を食べるのはないじゃろう。人の家で勝手に寝てもいかん。
どうしようワシ。キリヤ君から目を離せる気がしないんじゃけど。他に仕事あるのに。