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遙か上空にて


 見渡す限りの青空が眼前に広がっていた。空が近い。雲一つ無い快晴に青と赤の双子の太陽がぽっかりと浮かんでいる。

 どうやら、地球では無い場所のようだ。

 俺はどこかの草原の上で大の字になって寝そべっている。


 おぼろげながら思い出す直近の記憶。


 (あ~、確か転生させて貰ったんだっけ。つまりここは異世界って事か)


 ふと、俺は自分の体の状態に気づいた。

 いつもと違って体のだるさが無い。薬の副作用による吐き気が無い。

 何だかいつもと違って動けそうな気がする。

 証拠に、起き上がろうと腹筋に力を込めてみると介助が無くてもすんなりと起き上がることが出来る。

 どうやら健康になったらしい。体が自在に動くのはいつぶりだろうか。

 たったそれだけのことなのに、感動で涙が出そうになる。


 オズウェルの爺さんがそこにいるのかはわからなかったが、なんとなく空に向かって俺は手を合わせると思いつく限りの感謝の言葉と共に一心に祈った。


 「ありがとなーす。おたんこなーす。お局様はおばさんなーす」


 うん、それっぽく語ったぞ。 こんな感じでいいかな。

 俺はラノベばっかり読んでいたからね。

 文章力にはそれなりに自信があるんだよ。


 「……ひゃあっほおおおおおおおおおおうっ」


 レッツダンシングだ。サタデーナイトフィーバーだ。踊って踊って踊り明かせ。

 次のサタデーナイトフィーバーまで。


 ……つまらない。


 体が動くってのはもっと楽しい事かと思ったよ。

 これなら病室でマンガ読んでいる方がいいかな。


 さて、今日から俺の冒険譚が始まるね。

 その冒険譚を小説にするならきっとこうなるかな。

 紙がないのは残念だけど、心の中のメモに気が向いたら記して行こうとおもいまーす。


 では、はじめ。

 

 どれくらいの時間、そうしていたかはわからない。

 ひとしきり言葉が出尽くしたところで、とりあえず俺は今後の指針について考えることにした。

 折角、転生させて貰ったのにすぐ死んだら意味が無い。そう結論するのは当然の帰結だろう。


 さて、今後の指針をたてないとな。まずはこの場所の把握。

 オズウェルの爺さんの口ぶりだと、割と早期に俺は誰かと出会うようだ。

 悪い人じゃないから力になって貰えとも言っていたな。

 つまり、この辺に人が住んでいる可能性は十分にある。


 俺は辺りを見回して――視界の端っこの方に民家がある事に気づいた。

 明らかな人工物。即ち知的生命体が済んでいることの裏付けでもある。

 ここで一人で自問自答していても状況は膠着して進まないし、俺はその民家を訪ねてみることにした。

 

 民家に向かって歩いていると、その途中で俺は強烈な違和感を覚えた。

 まず、雲のある位置がおかしい。

 上空に雲一つなかった代わりに、そこら辺に浮かんでは霧のように所々俺の視界を遮っている。

 丁度、俺の今いるこの場所と同じくらいの高さだ。相当な高所にいるって事だろう。

 おまけにその民家は崖っぷちに建っていた。こんな崖っぷちに家を建てるその感性がわからない。

 雲くらい高い位置から落ちたら洒落にならないからだ。

 もう一つわからないのが、民家の周りに柵があるのだが、崖っぷち側でなく平原側にある事だ。

 落下防止用の柵でないとするなら侵入防止用の柵である。

 しかし、柵は民家を一つだけ囲んでいるような形で、その民家も特別豪華な屋敷というわけでもない。

 どこにでもありそうな普通の民家だ。むしろ守る価値もなさそうなくらいボロい。

 一番理解できないのはその柵に出入り口がないことだ。住人はどうやって出入りしてるんだろう?

 わからないがまだこれらは理論上実現可能な事ではある。

 問題なのはその崖っぷちの下に広がっている光景の方だ。

 それは俺の知っている限りの理論では起こりえないことだった。


 そう、崖っぷちの向こうには緑の大地と蒼い海原が果てなく広がっていたのだ。

 

 俺は逸る気持ちを抑えきれず、柵を乗り越えそのまま崖っぷちへと駆け寄る。

 民家のことなどすっぽり頭から抜け落ちていた。

 崖っぷちまでやってくると俺は好奇心から崖っぷちの下を覗いてみた。

 すると崖っぷちの真下、遙か遠くに城と城下町があるのが見えた。

 城や城下町の周囲には影が落ちて薄暗い。つまり光を遮る何かがあるって事だ。

 その原因は恐らく今俺のいるこの場所が関係しているのだろう。

 どうやら俺が今いるこの場所は島のようで、もう少し身を乗り出すと島下部はむき出しの土が露出しているのが見て取れた。

 雑草の類が茂っていないことから、どうやらここの浮島はつい最近何らかの要因で地面から切り離されて空に浮かんでしまった場所のようだ。

 しかし、そう仮定するならば崖っぷちに民家があった理由にも頷けるというものだ。

 そこで俺が建てた仮説は、この島は元々地上にあった平原の一部で、村の端っこが切り取られて宙に浮かんでしまったという説だ。

 合ってるかどうかはわからないけどね。

 

 ひとしきり景色を眺めた後、俺は身を引き上げる。

 そこで当初の予定を思い出して改めて民家を訪ねることにした。


 ――コンコン。


 ドアをノックしても返事が無い。時間をおいて、二度、三度試しても結果は同様だ。

 誰もいないのだろうか?


 ……はい、おわり。

 真面目に語るのは疲れるね。


 それよりも、家に誰もいないなら入っちゃえ。

 おなかすいたなー。食べ物ないかなー。

 ないなー。じゃあ水で腹を膨らませよう。ごくごくごく。

 ベッドがある。少し眠いし寝よう。


 ZZZ。


 起きた。暇だ。

 折角待っていてやったのに誰も帰ってこなかった。

 仕方がない。改めて出直そう。


 ここどこなんだろー。どんな島なのかなぁ……こほん。

 寝たら回復したのかまた語りたい気分になってきたぞ。


 まずは今俺がいる浮遊島の全容を明らかにしたい。

 どこから下に降りれるのか、食料や水源はあるのか具体的なことが知りたい。

 ここが人が住める場所ならば、その辺の問題はクリアしているはずだ。


 俺は民家を起点に島の外周をぐるりと回ってみることにした。

 そして十五分。ぐるりと一周した俺は民家へと再び戻ってくる。

 

 その間見かけた物は小さな林くらいのもので後は見渡す限りの草原しか無かった。

 どうやらこの島には民家は一つしかないらしい。

 一周した今ならわかるがこの島は非常に小さい。直径一キロくらいだろう。

 つまり、島の対角線上の端っこまでしっかり見通せる。

 民家くらいの高さがあれば遮蔽物になるから真っ先にわかるはずだ。

 そして疑問に思う。

 見たところ、この島には川などの水源も無ければ木の実のなる木も生えていない。動物すらいない。

 ここに人が住んでいるとしてどうやって暮らしているんだ?

 そもそも、人が本当に住んでいるのか?

 もし、崖っぷち民家の人がこの島が浮かんだ際に脱出したならば、この島には誰もいないことになる。

 オズウェル爺さんが送る場所間違ったとか……ないよね?

 あれ?

 そもそも俺はどうやってこの浮島から脱出すればいいんだ?

 ゲームとかだと浮遊大陸って飛行船とかの最終移動手段を手に入れてから来る場所だぞ。

 プレイヤーを初期配置していい場所だとは思わないんだけど。

 三百六十度、どこに行っても崖。推定、海抜一万メートル。雲より高い場所。

 詰んでね? 何でいきなり隔離状態? 何これクソゲー?

 

 ……俺は途方に暮れてしまった。


 島の端っこに陣取って浮島の下を流れていく景色を眺めている。

 所々に分厚い雲海が広がっている。その切れ間から遙かなる大地が見える。

 どうやらこの浮遊島は少しずつだが移動しているようだ。


 ファンタジーな城と城下町が少しづつ遠ざかっていく。

 それを俺は睨み付けている。

 あそこがスタート地点だったらとどうしても思わざるを得ない。


 清々しい空の下だというのに、俺の異世界生活にいきなり暗雲が立ちこめている。


 ……ぜーはー。ぜーはー。


 時折無性に語りたくなるのは何でだろう?

 まるで頭の中に宇宙人がやって来てピーガガガガガとか変な命令を出しているようなかんじだ。

 例えるなら俺の脳みそを無理矢理500%の出力にして動かしているような感じ。

 滅茶苦茶疲れるからやだ!


 「うん! 悩んでいても仕方がない。しばらく雑草でも食べて生きることにしよう」


 もしゃ、もしゃもしゃ。うん、余り美味しくないサラダだと思えば食えなくもない。

 あ、あっちにはタンポポみたいのがある。

 雑草がノーマルならきっとあれはレアだ。きっと美味しいぞ。


 ぶちっ。もしゃもしゃ。


 「ちっ、期待外れだよ。もう食ってやらないからなっ!」



アホ主人公にそのまま語らせると情景描写がマジで足りない。

かといってアホが真面目な考察を語っているのも変だ。


どうしよう?

もうラノベ語りが好きという設定を付けて、このスタイルで行っちゃう?

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