プロローグ
改稿しました。
キリヤ君の性格を大分馬鹿に修正しました。設定はズバリ、稀代のアホ。
いや、ここまで来るとマジキチ。
――俺こと工藤桐弥の人生は何の意味があったのだろう。
命が終わってしまった後に自分の人生について考える時間があったのが予想外だが、そうなると今いるこの場所は死後の世界なのだろうか。よくわからない。
ギリシャのオリンポスのような建物をバックに緑溢れる草原に小鳥の歌う声が響き渡っている。
清らかな川が流れ、光に満ちた美しい世界だった。
俺は生前あまり外に出ることをしなかった。いや、出来なかったと言うべきか。
俺の人生の大半の時間はベッドの上で過ごした。
十二才の時に末期の癌が発覚し、それから生に縋る思いで必死に治療を続けたが六年の闘病生活の果てに力尽きて死亡した。再三にわたる投薬や手術も殆ど延命に近かった。
享年十七才。早すぎる死だ。
それでも、もって一年と言われてから五年も生きたんだから俺はよく頑張ったと思う。
基本的にベッドの上で生活していた俺の趣味は必然的にインドアな趣味になる。
特に好きだったのがマンガやラノベ、ゲーム等だ。
母さんが見舞いの度に大量に買ってってきてくれるのを読むのが俺の唯一の楽しみだった。
一緒に学習参考書が入っていたのにはちょっとうんざりしたけどね。
母さんはそれだけ俺の完治を望んでいたって事だと思う。参考書を買ってきてくれたのも俺が社会復帰したときのことを考えてのことだと思う。
だから申し訳ないことをしたと思う。俺の入院費だって馬鹿にならなかったと思う。
親孝行をする時間も無かった。
生きるだけで精一杯で目標を持って生きることが出来なかった。夢を持てない人生だった。
強いて言うなら唯一の夢が病気の完治だったのに、その些細な夢すら叶わなかった。
だからこそ俺は思う。俺の人生って何だったんだろうって。
尤も、終わりを迎えてしまった後では悔いることすらも意味が無いが。
そう思ったら涙で視界が滲んだ。
――と、こんな感じでいいかな。俺ってば名演技。
前に読んだ転生系ラノベ風に悲壮な感じで自分の人生について語ってみた。
俺がこんな事思うわけないでしょ。
誰もがうらやむポジティブボーイが俺だよ。
いや~、別に夢がなかったって泣くことの程じゃないでしょ。人間に生きてりゃ死ぬ。
早いか遅いか。
早く死のうがそれまでの間に楽しんだ物が勝ちなんだ。
俺は一杯ゲームをしたよ。漫画も読んだ。
めんどくさい学校に行かなくていいし。
病室にいたら母さんがりんごむいてくれるし。たまにの自宅療養中だって家族は気を使ってくれるし。
調子にのってこたつの上の蜜柑やリモコン取れとか言っても誰もいやがらないもんね。
病院生活だとベッドの上生活だから、眠くなったらいつでも寝れる。
あっはっっはっはっは。実に快適な人生だったぜ。
学校にも行かず辛い就職もせず、病気ってだけで遊び続けることを許される。
まさしく、俺勝ち組人生。俺が王様。
そんな人生に悔いなどあるはずがない。
「ふむ、やりなおしたいか?」
気がついたときには白髪で白髭の爺さんがオリンポスのような建物の前に立っていた。
「ワシはオズウェル。まぁ、お前さんの知るところの神というやつじゃな。お前さんを呼んだのはちょっとした気まぐれって奴じゃな。望むなら病を治した状態でもう一度人生に復帰させてやってもよい。なに、本当に簡単な条件をのんで貰うだけでいいんじゃ。勿論お願いするのはこちらじゃから、それなりの支援もさせて貰う」
「……条件?」
「そうじゃな。先に説明しておくべきじゃのう。ワシはお前さんのいた世界とは異なる世界の神じゃから、転生させてやれるのはワシの理が及ぶワシの世界の中となる。後は自由に生きてくれて良い。時折こちらが連絡を入れるのでその応答をして貰うことと、お前さんの人生が終わった後にワシの世界がお前さんから見てどんな世界だったかを教えてくれるとありがたい。今後世界をよりよくするためにどう運営していくかの参考にするでな」
……なるほど。
連載漫画の読者アンケートみたいなものなのかな?
ギャグ漫画がいきなりバトル漫画になるような大胆なテコ入れでもするんだろうか?
「でも、なんで俺なんだ?」
「理由はいくつかある。一つ目の理由として仮想とはいえお前さんはたくさんの世界と物語を見てきたじゃろう。何の比較知識も無い者と違って世界を見比べることができる。一つしか世界を知らぬ者はそもそも比べることすら考えつかないじゃろうしな。二つ目は、この世界がお前さんの知るところで言うゲームに近いからじゃな。ゲームを知っている者の方が適応しやすかろう。そう思っての事じゃ。最後に、お前さんの人格が善良だったことに加え、お前さんがとりわけ不憫な存在だったからじゃな」
「ちなみに、断った場合はどうなるんだ?」
「今回の話が無かったことになるだけじゃな。お前さんの魂は輪廻の輪へと戻り、どこかの世界に流れ着いて転生する。地球かもしれんし、そうでないかもしれん。冥界は幾つもの世界に跨がっているでな、その上ワシとは管轄が違うから確定したことは言えん。ワシの方は冥界を漂う魂からお前さんの他に魂を探し出して同様のことを依頼するだけじゃな。勿論善良な心根の持ち主だけに限るが」
別に転生させるのは誰でもよく、適当にクジの箱に手を突っ込んで一枚だけ適当に引いたかのような物言いだな。
つまり転生のチャンスが無かった可能性の方が高いわけで……なるほど、運が良かったのか俺は。
ならば迷う必要は無いな。
「よし、この話受けるZE! 爺さんはぜーんぶ俺に任しておきなっ! 図鑑の完成だって得意なんだぜ俺は」
「おお、受けてくれるか。ならば話を進めさせて貰うぞ。まずはワシの世界について簡単に説明せねばなるまい」
こほんと一つ咳払いをして、オズウェル爺さんは自身の管理する世界のあらましについて簡単に教えてくれた。
まず、魔法という便利な力がある代償として、この世界には魔物がいること。
その理由として魔力が非常に不安定な存在であり、安定を求めるために大地に根ざした生き物の感情や思念、魂やらを取り込むことでそれを核に魔物が自然に発生してしまうようだ。
魔物は生物の感情、思念等を根源とするその成り立ちから基本的に生物に近い形を取るらしい。
そして魔物の主な発生源はダンジョンと呼ばれるようだ。
どうやら、感情や思念が溜まりやすいスポットがあるらしい。
またダンジョンに発生した個体の中には稀に知能や繁殖能力を持っている場合が有り、大地に溢れている魔物はそれらの子孫に当たるらしい。
そういった理由からこの世界は非常に危険な為、最低限の戦う力を与えてくれるということだ。
オズウェル爺さんの目から見てもダンジョンはあまり放置しても良い物では無いらしい。
魂や感情が一ヶ所に停滞すると世界の流動性が無くなり、世界が段々と停止に向かってしまうからだそうだ。
例えるならば、血栓ができて血管に血液の流れなくなった人間だろうか?
よくわからなかったが、神の領域の話だから気にするなと言って爺さんは笑った。
オズウェル爺さんはそれを防ぐために人間をダンジョンに仕向けるための方策として、モチベーション維持のための宝箱などを配置したりもしているようだ。機会があったら狙ってみるといいと勧められた。
後は細かい話としてこれから行くことになる世界の通貨の概念などを教わって話が終わった。
「説明は以上になるが、何か望みはあるか? 叶えてやることが出来るかもしれん」
「そうだな。あんまり早くは死にたくないな。人間健康が一番だ」
「……切実じゃな。と、なると種族はエルフか竜人が良さそうじゃな。長命種じゃから長生きできるのは間違いないぞ」
……う~ん、そう言われても地球にはいなかったからピンとこないんだよなぁ。
確かに長寿は魅力だが、ラノベとかでも設定次第でまちまちだったりするからなぁ。
エルフとか一万年生きるパターンと二百年くらいのパターンあるしな。
人間に迫害されている可能性も否定できないし、立ち位置がわからない。
寿命と強さを加味するとして、どうせ選ぶなら一番良いものがいい。
俺はあんまり見た目にこだわらない。何が正解か。
俺が悩んでいると、オズウェル爺さんが言った。
「……うむ、一生を左右する問題じゃからなぁ。今ここで決めかねているようだったら一端保留にしておくか? 実際に世界を見てまわってからじっくり決めた方が後悔しないじゃろう。種族事に能力は違うし、吟味したければ冒険者ギルドに行けば能力値も開示されているからそれを見た方がいいじゃろう。とりあえず今の姿のままで一端転生するといい。……じゃが、そうなると種族が定まらない分、最低能力値が保証できない形になってしまうのぅ。ちょっと不利じゃがそこはこちらで何とかしよう」
オズウェル爺さんは少し思案している風だった。
「ならば与える才についても決めなければいかん。生前にやり残したことはあるか? 夢があるか? あればそれに見合った才にしよう。一人に与えられる恩恵の最大量は決まっておるでな。戦いの才も物作りの才も同時に与えることはできんのじゃ。ただ、望むように特化させることは出来る」
「ゲーム。マンガも続き読みたい!」
「……そ、それは無理じゃな。質問の意味を理解しておるのかの? 他にないか?」
「ないな。あまりくよくよ考えないことが俺のジャスティスだ。生きてさえいればハッピーなんだぜ!」
「……ふ、ふむ。近年稀に見る残念な馬鹿さじゃの。やはり質問の意味を理解しておらん。どうせ未来を見通すだけの頭はないじゃろうし、そうなると下手に才を与えてしまったら後悔することになりかねんな。ならば何にでもなれるように可能性を増やす方向性で才を与えることにしよう」
「うむ、良きに計らえ」
「……え、偉そうじゃのう。一応ワシ、神さまよ。わかっとる? まぁ、わかっとらんのじゃろうなぁ。さて、種族と才については決まった。と、なれば最後に与えるべきは加護じゃな。お前さんには出来る限りの可能性を与えた。じゃが、与えた才の殆どを言わば先行投資に当ててしまったわけじゃから最初に苦労するじゃろう。じゃから危険を避ける為の目を加護として与えよう」
オズウェルの爺さんはそう言うと、俺の胸へと手の平を当てた。
その手は眩く発光し、直後に俺の体はかぁっと熱くなった。
「さて、異世界で生き抜くための力を与えた。アビリティボードオープンと念じて貰えれば与えた能力については見れるはずじゃ。これから転生して貰うわけじゃが、降り立つ場所については実はもう決めてある。与えた才の使い方に関してはこれからすぐに出会う者に聞くと良い。悪い者ではないからきっと力になってくれるはずじゃ。お前さんもできればその者の力になってやって欲しい。少しばかり見ていて憐れでな」
オズウェル爺さんがそう言うと俺の体が光に包まれた。
程なく心地よい眠気が襲ってきて、俺はそのまま眠りへと落ちた。
主人公に優しい世界を目指します(願望)
なるべくストレスフリーな内容でいきます(予定)
……できるといいな。
だって主人公に厳しくし過ぎると詰むから(経験談)。