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マッチポンプ革命 後編

「扉が開いたぞー!!」


 誰かの声と同時に、城壁に設けられていた門が開いた。

 どどっと民衆が、壁の内側へとなだれ込んでいく。

 内側にいる人々は、みんな驚きつつ窓からこちらを見ている。

 外に出てこないのは賢い判断だね。


「うおおー! 内側に住んでいい暮らししやがってー!!」


「俺たちの税金で整備された道やら街灯やら! ええい、ぶっ壊してやる!」


 おっ、無軌道になった民衆がいるぞ。

 こういった輩は必ず発生してしまうらしい。

 そして、彼等が好き勝手やると、革命の悪評みたいなのが広がってしまうとか……。


「そうクリストファが言ってたなあ」


「言ってたねえ。でも、そのために姫様をあそこに設置してるんでしょ?」


 メリッサが指差したのは、人間櫓の上で腕組みしながら立っているレヴィアである。

 彼女は悪事を働こうとする人々を見ると、


「そこ!! 何をしている!」


 と叫びながら、彼女の横に用意されていた球を投げつける。

 これは毛糸で編まれているそうで、大変安全なのだとか。

 ただし、レヴィアが投げつけなければ。

 雷っぽい気配を纏った毛糸玉が、焼け焦げた臭いを発しながら飛ぶ。

 そいつは民家の窓を破ろうとしている人の後頭部にぶつかると、そのまま彼を電撃で痺れさせた。


「ほぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」


「そこも! そこも! そこもそこもそこも!」


「ぎゃぴー!!」


「ぎょえー!!」


 的確なコントロールで、不埒な参加者を次々粉砕していくレヴィア。

 命に別状はないのかもしれないが、この光景を見ている人々にとって、これは効果抜群だろう。


「やべえ! 悪いことをすると、レヴィア殿下がお仕置きしてくるぞ!」


「なんだあれ……! 魔王軍と戦ってたっていうのは本当だったんだな……!」


「それって私たちも討伐されちゃうってこと!?」


「ありうる……いや、今の制裁を見ただろ、間違いない……!」


「やばい」


「やべえ」


 スーッと革命の志士たちが静かになった。

 リチャードが満足げに頷く。

 そして、レヴィアが(力によって)その威光を示したことに、涙目になってまで感激しているようだ。


「流石です姫様……! あなたを迎え入れることが出来て、我がユ解戦線は本当に幸運だった……!! やはり、次なる王はこの世界を襲っている危機を正しく理解し、自ら立ち向かっておられる貴女しかおられない……!! おおおおおおお!!」


 面白いなあこの人。

 俺はレヴィアの近くに着地することにした。

 メリッサを背中にくっつけ、途中で回収したボンゴレは俺の腹にしがみついている。


「順調ですな姫様。リチャードもお疲れ」


「おうウェスカー。ご苦労だった。お陰で、我らが魔物と戦えるというビジョンを、民に広く見せつけることができたぞ」


「ウェスカー殿、感謝いたします! 貴方こそ、伝説で語られる魔導師、大魔導の再来です!!」


「うむうむ。なんか最近よく言われるようになった」


「ウェスカーさん、大魔導ってなに?」


 そう言えばメリッサは知らなかったな。

 彼女は闇の世界で生まれ育ったので、俺たちの世界にある物語や書物に関して知らないことばかりだ。

 エフエクスには、俺たちが使っているものと同じ文字はあれど、物語のたぐいは全て口伝か、個人が書いたノートみたいなものばかりだったらしい。

 ということで、最近、食い道楽から徐々に読み道楽へと重心を移していっている。


「これが終わったら、姫様から本を借りるといいぞ。王都の方だと、勇者とその仲間たちの物語は結構メジャーらしい。で、大魔導ってのは魔王と戦う勇者の仲間。あらゆる魔法を使いこなして、新しい魔法を作り出し、敵の魔法も支配するんだと」


「へえー! でも、それってウェスカーさんまんまじゃない? あと、勇者って姫様……」


「不思議な符合だ」


「そうか?」


 振り返ると、レヴィアが嬉しそうに微笑んでいる。

 リチャードは、俺たちのやり取りを不思議そうに見ているわけである。


「ウェスカー殿は、殿下と随分親しげでおられるようだが……。もしや、やんごとなき家の出であるとか」


「キーン村の地主の次男だぞ」


「な、ならばウェスカー殿。殿下はこの国の女王となられるべき方。もっと敬意をですな……」


「良い、リチャード。気になるようならば、いざ時が来たならば私が王配にでも指名するさ」


「なっ、なんとぉっ!! ですが殿下、家柄が……!!」


「血筋で魔物と戦えるか? 魔将を倒せるか? 魔王を退けることができるか? 何事にも初代というものはあろう」


「なんと……!」


 俺を見るリチャードの目が変わった。

 ……で、王配ってなんだ?


「そりゃあお前……」


 ゼインがニヤニヤしながら説明しようとしたが、レヴィアにぺしっと蹴られて黙った。


「さてリチャード。そろそろ壁内の民に混じった魔物が正体を現しますよ」


「お、おお、そうでした!! 皆の者! 油断するな! 魔物が出るぞ!」


 彼の掛け声に応じて、ユ解戦線に所属する元王国兵士たちが飛び出してくる。

 おや、数が増えている。

 どうやら、城壁を警備していた兵士の多くもこれに加わったようだ。

 あいつら給料が減らされていたはずだもんな。大変だなあ。


「ウェスカーさん、ゴー!」


「へいへい」


 背中にくっついたメリッサに、肩をぽふぽふと叩かれて、俺は再び空に舞い上がった。


「まあ。姫様気付いてらっしゃいますか? ウェスカーさんは、蒸気の魔法ではない手段で飛んでいます」


「あれは飛翔(フライト)ですね。ああ見えて、世界に対して自身が飛行できるよう誤認させることで飛ぶ、高度な世界魔法で」


「クリストファさんは使わないのですか?」


「私は若干自分の中の常識が強すぎましてね。世界を騙す前に自分を騙せないのです」


「行って来い、ウェスカー。こちらは支援するからな!」


 そんな声を受けながら、飛ぶ俺。

 そう言えば確かに、足の裏から蒸気を出してないな。

 先日からずっと、アイロンの魔法で飛ぶ時も随分スムーズになった気がしていたが。

 次元の縫い目を経験してから、魔法の使い方の感覚が変わった気がする。


「キャー! ま、魔物ー!!」


「宿泊客が魔物に!」


 あちこちから悲鳴が聞こえる。

 人に化けて、王都に潜んでいた魔物たちが次々姿を現しているのだ。

 魔物はこの世界から撤退したんじゃない。

 人間の中に紛れ込むようになっただけだったのである。

 そして、魔将オペルクは、魔物が魔物のままでも人間の中で暮らせるようにしようとした。


「うりゃっ、スパイラルエナジーボルト!」


 俺の目が光る。

 そこから、ぐるぐると螺旋を描くエナジーボルトが放たれた。

 宿の窓から飛び出してきた魔物が、これに貫かれる。


「ウグワーッ!?」


 さらにエナジーボルトの勢いは止まらず、そのまま真っすぐの方向にいた魔物も貫通して、どんどん突き進んで行く。


「続いてホーミングエナジーボルトだ!」


 俺が広げた両手から、十本のエナジーボルトが放たれる。

 初めてこうやって撃ったときは、指の数に分割したら、魔法が細く弱くなってしまった。

 だが、今は違う。

 普通に太い紫色の光線が、ぐねぐねうねりながら街中の魔物だけを狙って降り注ぐのだ。


「ウェスカーさんすごい! 前よりも強くなってない!?」


「うむ、そうっぽい」


 俺たちは、城へ向けて突き進んでいくのである。

 城からは慌てて兵士たちが出てくるが、俺に向かって弓を射ていいものかどうか悩んでいる。

 彼等の後ろで、見覚えのない痩せぎすの男が何かヒステリックに叫びながら、俺を指差している。


「あれが、カンリョーさんかな。私たちのことうてって言ってるんじゃない?」


「だろうなあ」


 だが、兵士たちは渋々やを(つが)えるものの、まだ迷っている。

 割りと俺の顔見知りも多いのかもしれないな。


「ええい、こうなれば私がじきじきに!! (ほとばし)れ炎よ!!」


 痩せた男は、首から掛けていた何かを握りしめ、大声で叫んだ。

 おや、あれは詠唱じゃないのか?

 あいつは魔導師だったんだろうか。

 男の前に炎の渦が生まれる。

 巻き込まれかけて、兵士たちが悲鳴を上げながら逃げ出した。


「逃げるな! 逃げるならあいつらと同じ、反逆者とみなすぞ!! 何が第二王女だ! 王族など象徴だけの存在! 力があった時代など遠い過去よ! そうだ、この機会に反乱を押さえて、連帯責任で王族全てを牢獄に放り込んでしまえば……!!」


「なんかあいつ、炎を呼び出してからおかしくなったぞ」


 俺はピューッと痩せた男に近づいていくのである。

 普通に城の大扉の真上までやって来た。

 そんな俺を見て、痩せた男がニヤニヤ笑う。


「ききききき、来タな反逆者あ……! 我ラのっ、私の権力のタめに、お前はイらないんだよおっ!!」


「発音がおかしいぞ。口の中が乾いているのではないか。ほれ、ウォーター」


 ピューッと水を指先から出して、炎の渦を迂回させながら男の顔に掛けた。


「ぶぶぶぶぶぶっ!? なななな、なニをするっ!! 炎よ、こイつらを焼きつクせ!!」


 渦巻く炎は、まるで行きているかのように鎌首をもたげ、こちらを睨む。

 そして即座に襲いかかってき「水作成、水作成、水作成、水作成、水作成、水作成」

 ジュッと消えた。


「!?」


 痩せた男が固まった。


「攻撃までにあんなに時間がかかると、対策されてしまうぞ」


「だよねー。ウェスカーさんもこの人が命令してる最中に水を掛け始めてたもんねー」


「ききききき、貴様ァーっ!!」


 痩せた男が怒りを露わにして、俺たちに踊りかかった。

 正気ではない。

 っていうか、いつの間にかこいつ、額から角が二つ生えて、耳が尖り、手から鉤爪が伸びている。

 足はロバの後足みたいになってるな。

 魔物になっちゃってるじゃん。


「魔物ならこうだ。超至近距離……はメリッサが危ないから、集束(フォーカス)炎の玉(ファイアボール)!」


 世界魔法による膜みたいなもので炎の玉を包み、ごく狭い範囲で爆発を荒れ狂わせる、今考えた魔法だ。

 これは痩せた男だった魔物にぶつかり、これを一瞬で燃やし尽くした。

 後には、人の形をした灰が残る。

 これもザラザラと崩れていった。

 灰の中から、キラキラ光る石が出てくる。


「なんじゃこれ」


 俺はひょいっと拾い上げた。

 すると、石にギョロリとした目玉が浮かび、俺を睨む。


『わしを使え! さすればお前には人を超えた力を与え……』


「おっ、いらないぞ」


 手の中で集束炎の玉を展開した。


『ウグワーッ!?』


 石も燃え尽きたのだった。


「これはなかなか重大事だねえ。お城の中まで、魔物が入り込んじゃってる!」


「うむ。魔物探しだな」


 メリッサが床に降り立つと、ボンゴレも俺のお腹から降りる。

 そしてさらに、どこに隠れていたのか、パンジャとチョキが降りてくる。

 よし、この二人と三匹で城の中を探索だぞ。

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新作はじめました。
魔銃/獣使いの召喚士 ~ブラックな冒険者稼業からドロップアウトした俺、召喚の才能を得て、可愛いお姉さんと新天地で楽しくやっていく~
どこかで見たような女の子がヒロインで……?
世界観を同じくするお話です。
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