決めろエナジーボルト! 世紀の決戦!
『キュー!』
パンジャが掛け声と共に、光の網を連続して発射したのが合図になった。
ゼインが斧槍を構えて魔王に仕掛ける。
魔法を帯びた武器が、オルゴンゾーラの装甲を連続して削っていく。
一方では、メリッサ軍団が一斉攻撃を仕掛けている。
ボンゴレは魔王の体を駆け上がりながら、尻尾からの光線で攻撃だ。
チョキは鉄の玉を発射する筒から、バリバリとぶっ放す。
ビアンコは巨大化し、空から魔王に掴みかかる。
ネーロはメリッサを載せたまま滞空し、口から炎のブレスを発している。
「メリッサが一人モンスター軍団だなあ」
「うむ。増えたものだな……っと!」
振り下ろされる魔王の足を、レヴィアが両腕をクロスさせて受け止める。
俺の目がくらむかと思うほどの雷が飛び散った。
なんか、床がグラグラするぞ。
俺はこの間にも、オルゴンゾーラが連続して放ってくる強烈な攻撃を防いでいる。
「あっ、また世界を割ってきた!」
魔王はスナック感覚で、世界に亀裂を作って仲間たちを飲み込もうとする。
俺は素早くそこに飛び上がって、世界接着の魔法で亀裂を接着する。
『ギッギギギギギィッ!! お前お前お前ッ! ちょろちょろと我が力を食い止める! 目障りッ』
「へえへえ、そりゃあどうも」
世界接着の魔法を使用する都合上、空に飛び上がっていた俺は、オルゴンゾーラと目が合う。
ぐるぐると渦巻く真っ青な目玉が、俺を睨みながら回転を早くする。
その回転が、また青い光を放ち始めた。
エナジーボルトが来るな。
俺もまた、全身を紫色に光らせる。
エナジーボルト返しである。
バリバリと、互いの間に生まれたぶっとい魔法の光線がぶつかりあう。
これだけで、空間が凄まじい振動をして、そこから世界の色が変化し始める。
俺が魔王と本気でぶつかると、世界そのものを変えてしまうみたいだ。
「ウェスカー、こらえろ! 攻撃は私が行う!」
レヴィアもそのことに気づいたようだ。
低く身構えて、全身に力を溜めるようなポーズをしている。
あれは本当に力を溜めているのだ。
彼女の体が、金色の輝きを帯び始める。
雷の波動が収束していく。
「抜剣……!」
レヴィアが剣を抜く、その動作だけで世界が揺らぐ。
俺に向けてエナジーボルトを放っていた魔王は、それだけに意識を裂くことを許されなくなる。
片目だけが、ギョロリと下方を睨んだ。
『我が幼体を押し戻した力ッ!! この世界の抗体、勇者……!』
「勇者かどうかなどどうでもいい。今、ここに貴様がいて、私は貴様を害する力を手にしている。それが全てだ!」
魔王の翼が羽ばたく。
迫ってきていた、クリストファとマリエルの魔法を、その一羽ばたきで撃ち落とし、逆にそれを収束。レヴィア目掛けて叩きつける。
こっちの魔法を利用することまでやってくるのか。
化け物然とした見た目に似合わず、とんでもなく器用なやつだ。
だが、器用なだけだとうちの女王陛下には通用しないぞ。
「ふんっ!!」
剣を抜き放った挙動で、襲い来た魔法は明後日の方向まで跳ね飛ばされた。
裏拳一閃で、神懸りと海王の大魔法を無効化したことになる。
「いやはや、これは……。洒落になりませんね。間違いなく、神々に言わせれば封印せねばならないのは魔王だけではなく、あの二人もその対象となる……。ですけれど、誰も彼らを止めることは出来ない……!」
クリストファの笑いが引きつっている。
「わたくしたちだけなら、この戦いは絶望的なものだったでしょう。だって、先代の勇者たちは、未熟な状態の魔王を相手にして、誰一人として帰ってこなかったのですから。ですけれど、神をも恐れさせる彼らがいるからこそ、わたくしはこの戦いに希望がある気がするのです」
レヴィアが剣を構える動作は、遅い。
その間に、オルゴンゾーラは無数の攻撃を彼女に対して加える。
俺は奴のエナジーボルトを食い止めつつ、レヴィアに対する攻撃を撃ち落とすことに専念する。
即座に靴を脱ぎ捨て、足の指から放つエナジーボルト。
そこに、炎、氷、雷、風、土、あらゆる属性を混ぜ込み、魔王の攻撃を相殺するのだ。
『邪魔を、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔をするなァッ!!』
「他人の邪魔をするのが俺の趣味でな」
俺と魔王の魔法がぶつかり合い、あちらこちらで世界が変質していく。
飛び散った魔力の残滓が世界の色を変え、性質を変化させる。
だが、そんな中にあって、レヴィアはじっと剣を振り上げていく動作を続ける。
やがて、その動きが止まった。
メリッサもこれを見ていたらしい。
しもべたちに、一斉行動の命令を出した。
「みんな! 魔王の動きを止める!」
「フャン!」
『キュー!』
「ぶいー!」
「ウキー!」
「御意!」
ボンゴレが魔王の背中に組み付き、羽の付け根に牙を突き立てながら尻尾からの光線をばらまく。
パンジャは高く飛翔し、魔王目掛けて連続した光の網を降り注がせる。
チョキは撃ち尽くした鉄の玉を回収し、これを再び魔王の足目掛けて連射する。
ビアンコは魔王の頭まで飛び上がり、巨大化した拳で殴りまくる。
ネーロはメリッサを載せたまま、その巨体で魔王の半身へと組み付いた。
おお、ネーロが妙に強くなっている気がするぞ。
魔物使いであるメリッサを乗せているから、強化されているんだろうか。
『邪魔ァッ!!』
吠える魔王。
その翼を羽ばたかせ、風を巻き起こす。
魔王が起こした風は、即ち魔力そのものだ。
これが魔王の背後で渦巻き、オルゴンゾーラの巨体に組み付いたメリッサたちを一網打尽にしようとする。
「おいおい! 俺を忘れるんじゃねえぜ!」
ゼインの声がした。
斧槍を使って、高く跳躍したゼインが、オルゴンゾーラの足を駆け上がりながら、腰から得物を抜き放つ。
それは、投げるように調整された槍だ。
槍の先端に、なんだか見たことがあるような丸いものがくっついている。
……あっ、オペルクが使ってた、爆発する玉じゃないか。
狙いは過たず、ゼインの投げた槍が、魔王が収束された魔力の只中に突っ込んでいく。
そして、魔力と接触した瞬間、槍の先端に据えられた玉が爆発を起こした。
この程度の爆発では、オルゴンゾーラはダメージを受けまい。
だが、それは魔王の集中力を削ぐには十分だったようだ。
何せ、正面で、俺とレヴィアをまとめて相手しているのだ。
背中からチクチクやられて、意識を集中できるわけがない。
『おおおおおおっ!?』
「レヴィア様! いま!!」
「やっちまえ、女王陛下!」
「よーし、俺も頑張るぞ。パンジャの真似だ! “光輝の投網”!」
目と両手と両足が使用中だったので、俺はバッとローブをはだけてへそから発射した。
よし、いけるいける。
へそから魔法、やれるじゃないか。
大きく広がった光の網は、オルゴンゾーラの巨体をその場に繋ぎ止める。
異形の魔王は、束縛から逃れようと、叫びながら暴れた。
「レヴィア様、今! 今!」
「ああ……! 行け、聖剣!!」
さっきまでのゆるりとした挙動が嘘のように、レヴィアの動きが加速した。
振り上げきった腕を、まさに雷速で振り切る。
黄金の輝きを纏った聖剣が飛んだ。
それは一瞬で魔王まで到達し、その腹部に炸裂。
爆発音が響き渡った。
そして、オルゴンゾーラの下半身がその一撃で爆散する……!
『ぐううううおおおおおッ!!』
いや、魔王は下半身を切り離したのだ。
俺とのエナジーボルト合戦も無視して、飛び上がる。
あの翼を使って、空高くまで飛ぶつもりなのだ。
「あ、こら待て!」
「ウェスカー! 私たちも飛ぶものを!」
「俺に乗ります?」
「それではそなたが十二分に動けまい」
俺はぐるりと周囲を見回す。
パンジャも、ネーロも、魔王を抑えた事で魔力や体力を使い切っている。
他に飛べそうなのは、ビアンコ。
だが、ビアンコは飛び立った魔王に振り払われ、結構なダメージを受けたようだ。
回復はクリストファがするとして、まだ時間がかかりそうな……。
「あっ、そういうことか」
俺はピンと来た。
空間に、腕を突っ込む。
あの、時空をドアに変えて行き来する魔法の応用だ。
だが、ドアの大きさでは、あいつはここを通ってこれない。
腕を突っ込み、広い範囲を意識して……押し上げて開ける!
「そぉい!! “時空の遮断扉”!! 来い、ソファゴーレム!!」
『ま”!』
時空の彼方から、懐かしい声が響いた。
どたばたと、彼方の空間から奴がやって来る。
「うむ! 頼むぞソファ!」
「頑張って、ソファ!」
「頼みましたよ、ソファ!」
「わたくしたちも付いていきたいのですけれど……」
「あの魔王がやらかさんうちに決めないとな。甥っ子、女王陛下、行って来い!」
俺とレヴィアがソファに乗り込む。
「よし、では、ソファを強化するんで。“従者強化”!!」
ソファの背中に、翼が生える。
材料は、飛び散ってきたオルゴンゾーラの欠片である。
危なそうな材料だが、この欠片が悪さをしないうちに勝負を決めればそれでよし!
「飛ぶのだソファ!」
『ま”!!』
翼から、真っ白な煙を吐き出しながら、ソファゴーレムの巨体が空に舞い上がっていく。
目指すのは、空の果てまで飛翔した魔王オルゴンゾーラ。
「ほう、そなたも無事か」
レヴィアの声に、横を見ると、骨の鳥にまたがったシュテルンの姿。
「オルゴンゾーラに一太刀くれてやらねば、俺の気が済まんからな……!」
というわけで、対魔王戦、最終局面なのだ。




