ウェスカーパーティ大勝利! 解放の火山島
全身から怒気を発するフレア・タン。
もう、超絶怒ってる。あんなに怒っている人は初めて見た。
「こりゃあ頭から湯気が出るってやつですな」
「湯気というより蒸気だな!」
俺はなぜか、レヴィアと並走していて、どんどん魔将が近づいてくる。
王子様みたいだった面影などなくなって、炎をまとった巨人みたいな姿だ。
これが本当の姿だったりするんだろうか。
『死ねえ、アホどもぉぉぉ!!』
もう俺たちの名前も呼ばない。
ひとまとめにしてアホとおっしゃる。
どかーんっと繰り出されたパンチを、俺が「拡大水作成」と、城のお堀一杯分くらいの水を作り出してカウンターする。
ジュワーッと音がして、凄まじい蒸気が上がった。
「うひょー、こりゃあ飛び込むと髪がしっとりするぞ!!」
だが躊躇せずに飛び込むのだ。
なぜならレヴィアが先行している。
彼女はいつも通り、何も考えずに振りかぶった拳を叩きつける。
「こうだ!!」
『グオーッ!!』
フレア・タンの巨体が揺らぐ。
蒸気に紛れて、レヴィアの姿が見えなかったようだ。
逆に相手がでかいから、女王騎士は攻撃を当てるのが大変楽そうだ。
『おのれえっ! この猪突猛進女があっ!!』
怒り任せに反撃するフレア・タン。
だが、大きくなったから、攻撃が大ぶりで当たらない。
というか、レヴィアはもう密着するくらい接近してドカスカ殴りまくるので攻撃を当てづらすぎるのだ。
「水噴射ー」
俺は指先からビュービューと水を発射して、フレア・タンを冷やしまくる。
冷えたところを殴って砕くレヴィア。
そこに、ゼインも寄ってきて、当たるを幸いと魔将の脚に、回転刃つきの棍棒を当ててガリガリ削り出した。
「おほー、こいつは楽だ! 刃が勝手に食い込んでいくぜ!」
『ウゴオオオ!!』
「フャン!」
切り裂かれたところを、さらにボンゴレが爪や牙で引き裂く。
俺が常に水で敵を冷やしているので、みんな安全に戦えるのだ。
「いやあ、大きくなってくれて助かったなあ。当てやすくいい」
俺はしみじみ呟きながら、時折牽制で、目からエナジーボルトをぶっぱしてフレア・タンの顔に当てる。
『ぐわっ、まぶしっ』
思わずフレア・タンがたたらを踏んだところで、足のあたりでバキッと音がした。
「あっ、棍棒が折れちまった。便利なんだが、複雑過ぎてもろいなあ、これ」
ゼインは折れた回転刃棍棒をポイッと投げ捨て、次の武器を取り出す。
分身するブーメランだ。
「おらっ!」
ブーメランは魔将の頭上まで飛び上がり、三つに分かれて落下。
肩、頭、胸に突き刺さる。
『ぐおおおお!』
「あ、刺さったら戻ってこないよな。そうだよなあ」
そしてまた新しい武器を取り出すゼインである。
叔父さん、楽しそうだな。
次々に新しい武器をフレア・タンに叩き込んでは、使い捨てている。
そして、正面ではレヴィアが力勝負で魔将を押し込んでいるわけで。
「熱くない炎ならば余裕だ! 炎は避けないからな!」
とか言いながら、魔将の体を足場にして、当たるを幸いとゴリラに匹敵する腕力を叩きつける。
「レヴィア様、落ちそうなら言ってください。迎えに行きますわ」
「ああ!」
個人的には、大変ゆったりとした戦場である。
いやあ、敵が大きいと本当に楽だ。
だが、そんな俺たちの呑気な気持ちを、ついに魔将に見抜かれてしまったらしい。
『そ、そうか! 俺も小さくなれば』
「やべえ、レヴィア様、魔将に気づかれました!」
「くっ、賢しいやつだ!」
「いやいや、ウェスカーさんとレヴィア様、大声で楽しそうにやり取りしてたでしょー」
メリッサの突っ込みは大変もっともなのだが、俺たちは改善はするが反省はしない主義なのだ。
今度はもっと抽象的なやりとりでチャレンジする!
フレア・タンはシュウシュウと煙を上げて、その動きを止める。
「チャンスのようだが、ここで手を出すのは危なそうだな」
レヴィアは冷静に言いながら、距離を離した。
彼女の成長しているのかもしれない。
「だが我慢はできない……!!」
あっ、また走り出した!
何も成長していない!
「では俺もサポートのために並走せざるをえませんな」
「おおウェスカー。いつも世話を掛けるな」
「なに、慣れました」
レヴィアは駆け寄りざま、以前の身体強化魔法を早口で唱えると、拳を輝かせて思いっきりぶん殴る。
殴った瞬間、フレア・タンの巨体が破裂した。
破裂と一緒に、爆発が巻き起こるが、その爆発もレヴィアのパンチに押されて後方へ吹き飛ばされる。
「おお、レヴィア様のパンチも強くなりましたなあ。以前なら爆発で怪我をしてた」
「ああ。毎日鍛えていたからな」
ぐっと力こぶを作って見せるレヴィア。
上腕を包む服が今にもはちきれそうだ。
あっ、ビリっといった。
「余裕を見せるのはそこまでだ!!」
「むうっ!!」
いきなり、爆風の中から拳が飛び出してきた。
炎をまとったそれが、レヴィアの頬を撃ち抜こうとする……ので、ずーっとレヴィアを見ていた俺が間に割り込んだ。
「いてっ」
俺の額にパンチが当たる。
だが、俺も打たれ強くなっているのだ。
そのままぶっ飛ばされながら、「エア・クッション!」風の緩衝材をたくさん作り出し、空中で停止した。
「ふう、緩衝材がなければ危なかった」
「ま、魔導師!! お前、なんで俺のパンチを受けても首が飛ばないんだ!! というかお前、なんで最前線にいる!」
地上に降り立った俺に向けて、人間のような姿に戻ったフレア・タンが突っ込んでくる。
「ウェスカーさんだもの」
「ウェスカーさんですからねえ」
「ウェスカーですから」
「ウェスカーだからなあ」
「ああ。それがウェスカーだからだ」
異口同音の答えが返ってきた。
「俺もよくは分からんが、まあそういうことだ」
「ええい、納得ができるか……!! お前たちは、お前たちは一体なんなんだ……!! 計画を立てればおかしなやり方でずたずたにし、この世界からはじき出せば力ずくで入ってくる!! どっちが魔物だ……!?」
「御託はそこまでだぞ!!」
怒りをぶちまけるフレア・タンだが、当然我らが女王騎士は付き合う気がない。
むしろ、この魔将を殴りたくて仕方ないのだ。
言葉と同時にパンチが叩き込まれて、フレア・タンが慌てて腕をクロスして受け止めた。
「前よりも重くなってやがる……!!」
「毎日鍛錬しているからな!」
二人はやり取りをしながら、戦い始めた。
フレア・タンはひたすら手数が多い。
全ての攻撃に炎を纏わせ、殴りながら相手を焼く戦法だ。
対してレヴィア。
攻撃を受けながら、全身から稲妻を発して炎を相殺し、力いっぱい拳を振りかぶる。
おお、あれ一発で決める気だ。
俺は彼女の攻撃に合わせて、最高速度で飛んだ。
一瞬でフレア・タンを飛び越えて背後へ。
「俺の打撃を無視して、最強の一撃をぶっ放す!? それが……それが人間のやる戦い方かよ!?」
フレア・タンの顔に余裕の色はない。
振りかぶられたレヴィアの拳が、バリバリと稲光を走らせると、魔将はあからさまに攻撃の手を緩めた。
「だがっ、当たらなければ……!」
フレア・タンがレヴィアの攻撃に併せて、体を仰け反らせた。
結婚式場の戦いで、レヴィアの攻撃をやり過ごしたスウェー回避だ。
だが、後ろには俺がいるぞ。
「エアクッション山盛りだ!」
俺は魔将の背中側の空気を圧縮し、クッションを作り出した。
大量に作った。
だから、魔将は仰け反ったが、背中をエアクッションの反発で押し返され、ぼよーんと直立の姿勢に戻っていく。
「な、なんだとおおおおおおお!?」
「おおおおおおおっ!!」
目前に、レヴィアの拳。
「ば、ばかなあああああああ────!!」
炸裂と、爆発。
フレア・タンは今度こそ、雷を纏ったレヴィアの拳で、粉々に打ち砕かれたのだった。
後に浮かぶのは、ワールドピース。
この火山島と、島の背後に広がるたくさんの島……群島というらしい。その光景が描かれている。
「きゃっち!」
近くまで来ていたメリッサが、ジャンプしてピースを掴み取った。
「今度は私がパンジャで魔法使ってみたいなー」
「あらあら。ですけれど、あれは魔法の才能が必要ですから、誰でもできるというわけではないんですよ?」
「じゃあマリエルさんに教わるもん!」
「あらあら」
女子たちが和気藹々としている。
一方、俺の目の前の女子は、拳を振り切った姿勢のまま固まっている。
突き出した手のひらが、ゆっくりと開き、二度、三度空中を掴む。
そして、ゆっくりと戻っていった。
「ついに……忌まわしい過去を殴り倒した……」
なんか、万感の思いを込めて呟いてるなあ。
「そんなイヤでしたか」
「嫌なんてものじゃない」
「ははあ。じゃあ次は嫌じゃない思い出にしましょうや」
俺が言うと、レヴィアはパッといい笑顔を浮かべるのであった。
「そうだな!」




