王都の決戦! 魔博士VSウェスカーパーティ
「何じゃ……!? お前は、本当に何だというのじゃ……!!」
魔博士オペルク。
八人の魔将の一人で、多分あのシュテルンを復活させた本人だ。
伸ばした白い髭を震わせながら、怒っているようである。
乗っている魔道具は、丸くて分厚い金属の板を角が無いように磨き、そこに操縦するための取っ手をつけたようなもの。
「この人間どもの王国は、確かにわしが乗っ取ったはずじゃった! 貴様ら勇者一行に対する支援は打ち切られ、国民の価値観は変わり、やがて貴様らは排斥されるはずじゃった……! それが、なぜこうなっている!?」
オペルクは目を見開いて、俺を睨んだ。
「お前か!!」
「俺は今尻から出した魔法で魔物をぶっ飛ばしただけである」
「尻から!? 尻から魔法がでるわけがなかろう!!」
オペルク、こめかみに青筋を浮かべて怒鳴る。
俺の横では、仲間たちが盛り上がりだした。
「甥っ子、明らかに尻から魔法出してたよな」
「ウェスカーさんだからお尻から魔法出してもおかしくないよねえ」
「ウェスカーならやると思っていましたよ。いい意味でです」
「わたくしもお尻から出るなんて初めて見ました」
「ほう、ではこれを三回見ているのは私だけだということだな。ふふっ」
オペルクはすっかり話題に置いて行かれた雰囲気になり、さらにピキピキと頬を引きつらせて、怒りのあまり今にも炎を吐きそうである。
「き、貴様らぁっ!! わしを無視するとはいい度胸じゃ!!」
オペルクは手にしていた、目玉がついた杖を掲げた。
杖は生きているみたいに脈動して、そこから青黒い玉を幾つも吐き出す。
これは爆発して大変なことになる玉だな。
「よし、迎撃するぞ。“世界破断魔法・連続使用”」
俺は以前、オペルクが放った爆弾を迎撃する時にこの魔法を使っている。
今はなんだか、前よりも上手く使える気がするので、試しに連続使用してみた。
すると、空に小さな亀裂がいくつも走る。
亀裂は爆弾を飲み込み、その中で爆発が起こったようだ。
「ぬ、ぬ、ぬうううっ!! 力を上げておる……! わしの策をひっくり返したのみならず、力ですらこれだけのものを持っているというのか!! オルゴンゾーラ様、こやつら……いや、この大魔導、明らかに我らが知るそれとは全くの別物ですぞ……!!」
何かブツブツ言っているな。
そうしている間にも、オペルクの後を追って、魔物たちが次々に出現する。
蜥蜴みたいな上半身と、馬のような下半身の魔物。巨人の背中に大きな鉄の羽が生えた魔物。巨大な目玉に無数の触手がついた魔物。
全部オペルクが作った魔物っぽいな。
喋る様子もなく、変てこな吠え声だけを上げながら襲い掛かってくる。
魔王軍、今まで割りと喋ってたもんなあ。
「魔物はわたくしが相手をしましょう。“我は命ずる。天は今、我が掌にあり。一界を征して、我が意思を通ず。天空よ、流れ乱れて疑似なる雷を放て。命ず我が名は海王マリエル。汝、招雷殲滅魔法、天破雷鳴陣”」
マリエルが詠唱を完成させると、一瞬で空がかき曇った。
空を覆った雲はゴロゴロと唸り始めると、次の瞬間、まるで雨のように次々と稲妻を放ち始める。
その稲妻が、ピンポイントで魔物を狙うのだ。
あちこちで爆発が置きて、魔物の絶叫が響いた。
ここで、周囲の民衆や革命軍は我に返ったらしい。
悲鳴を上げながら、街の外に向かって逃げていく。
「小癪な! 天空管理システム起動じゃ!! ポチッとな!!」
オペルクが杖のボタンを押した。
すると、向こうにぶっ飛ばしたはずの、空を覆っていた魔物がまた起き上がってくる。
そのから猛烈な勢いで煙を吐き出し始める。
これが、マリエルの呼んだ雲とぶつかり合って、バチバチと火花を散らすのだ。
おお、雷雲が駆逐されていくぞ。
「おっ、じゃあそろそろ俺らの出番だろう」
ゼインが武器を担いで出てきた。
どこで手に入れたのか、なんか鉄球がくっついた棍みたいなのを持っているな。
「叔父さん、それは何だい」
「これか? リチャードの家の地下に封印された武器らしいぜ。まあ見てなって」
雷の雨を掻い潜って、こちらに押し寄せてくるオペルク製の魔物たち。
これに向かって、ゼインが武器を振りかぶった。
「そぉー……らッ!!」
すると、鉄球が外れ、まるで見えない鎖で繋がれているみたいに、ぐんとその射程を伸ばした。
そして、魔物たちに直撃し、次々とその胸やら頭やらを痛打しながら、薙ぎ払っていく。
戻ってきた鉄球が、ゼインの棍にガシャンと合体する。
「扱い方が難しいんだとよ。確かにこりゃ、俺以外じゃ無理だろうな。ほれほれ、甥っ子、行け! 姫様が待ってるぞ!」
どこに隠していたのか、ゼインの周りには無数の武器が散らばっている。
状況に応じて武器を拾い、使い捨てては戦うのがうちの叔父さんのスタイルである。
「叔父さん一人で大丈夫かね」
「私もいますよ」
クリストファが、魔物たちを光の障壁で食い止める。
彼は制御不能な超威力の光線を放てるが、制御不能なので大変危険なため、使わないことになっている。
この間もまあ大丈夫だろうと使ったら、神殿の屋根を吹き飛ばしてしまったしな。
「そういうこと! ちゃーんとみんないるんだから、ウェスカーさんは私たちの切り札を魔将にぶっつければいいの」
メリッサがそう言うと、にひひ、と笑ってみせた。
彼女の周りで、ボンゴレが巨大化し、パンジャがピカピカと光を放ち、チョキが「ぶいー」と気勢を上げる。
「おっ、子ブタ、お前これ使えるだろ!」
「ぶい?」
チョキがゼインから何か手渡されているな。
これも魔法の武器らしい。
一見すると、農作業で使うフォークみたいに見える。
だが、二股に尖った先端が、時々ピカピカ光る。
チョキの強みは、人間が使える武器や道具は全部使えることだな。
三匹のしもべは、リーダーであるメリッサを守るように陣形を組むと、魔物たちとぶつかり始めるのである。
「さて、姫様、俺たちも行きますか」
「ああ。だが敵は飛んでいるな」
「そう、飛んでますな。つまりどこからでも狙い撃ちにできる!」
「確かに!! ふぅんっ!!」
俺の解釈を受けたレヴィア、早速、落ちていた剣を拾ってオペルク目掛けて投げつける。
この人が剣を投げると、それ自体が魔法の詠唱みたいな効果があるらしく、剣が稲妻を帯びてとんでもない威力を発揮することになるのだ。
「ぬわあっ!?」
オペルクが慌てて、杖を振り回した。
そこから、ドロドロしたスライム状の魔物が飛び出してきて、剣を受け止めた。
と思ったら剣が爆発して、スライム状の魔物は蒸発してしまった。
「相変わらず、一撃必殺ですな」
「だが、投げている間は動けない。これを何とかしなければな」
「お任せくださいですよ。ソファ!!」
俺は外に待機させていた、忠実なしもべを読んだ。
『ま”!!』
城壁を駆け上がり、ソファゴーレムが走ってくる。
俺とレヴィアは、これに飛び乗るのである。
「行くぞソファ! 剣とか拾いながら走るんだ」
『ま”』
走りながら、ソファは足元に転がっている剣を、つま先で跳ね上げていく。
これを、レヴィアが立ち上がって片っ端から回収するのである。
「なんだ! なんだそのゴーレムは!? なぜそこまで複雑な命令を受け付ける!?」
「俺が手塩にかけてじっくり育てたゴーレムだ。強いわけじゃないが便利で器用だぞ」
魔物の一匹が、ソファ目掛けて炎を放つ。
これを、ソファは既の所でドリフトしながらやり過ごす。
「ナイスソファ! ほれ、エナジーボルトだ!」
俺の目から光線が放たれ、魔物を爆発させる。
おっ。オペルクの魔物は、不死者と同じ扱いらしい。エナジーボルトがめちゃくちゃ効く。
「さあ魔将オペルク、覚悟せよ!!」
俺が近寄る魔物を、目から指から足の指から、エナジーボルトをぶっ放しながら薙ぎ払っている横。
レヴィアがありったけの剣を握り締め、空の魔将を見据える。
「や、やめろ!!」
「やめない!! それっ! それっ! そらあっ!!」
レヴィアの連続投擲。
その全てが稲光を帯びながら、オペルク目掛けて飛来する。
狙いが甘いものでも、近いあたりで爆発を起こすので大変だ。
オペルクが乗った魔道具が、爆風でグラグラと揺れる。
「ぐわーっ!! シュ、シュテルン! シュテルンはおらんのか!! おらんのだったーっ!! まさか勇者一行が、国家転覆を企ててクーデターを起こすなど考えてもおらんかったのだーっ!! 非常識過ぎるぅっ!!」
「魔王軍を滅ぼせるなら国の一つや二つ!! さあ死ぬがいい!!」
裂帛の気合と共に投げつけられたのは、まとめて十本くらいの剣である。
これがオペルクへ殺到し、連鎖して爆発を起こすのだ。
もう、防御が間に合うとかそういう次元ではない。
「ウグワーッ!?」
これはひどい。
空が何倍も明るくなったような大爆発が起こり、魔物も人間も、一瞬呆然として空を見上げた。
そして、光が消えた所に、既にオペルクの姿は無かった。
死んだかな?
「随分簡単だったな。だがウェスカー、気づいたか? あのオペルク、自分では何も魔法を撃たず、道具だけを使っていたのだ」
「なるほど。姫様、ではあれは偽物だと?」
「ああ。ウェスカー、その証拠にその辺飛んでみるのだ」
「へい」
俺はスーッと空に舞い上がった。
ついでに、両手両足からエナジーボルトを発射して、街中を薙ぎ払っておく。
あちこちで魔物たちの断末魔が聞こえた。
半分くらい人間の悲鳴だったような……?
まあ、エナジーボルトが軽く当たったくらいでは死なない。
天を覆っていた魔物がいた高さまで来ると、俺はきょろきょろと周囲を伺った。
すると、レヴィアの予想が正しかったことに気づく。
緑色の魔物が浮き上がり、山を超えて飛び去っていくではないか。
そいつは山の上に来た辺りで、急にピカピカと光りだした。
全身が虹色になったと思ったら、スーッと消えていってしまう。
あれは、多分元の世界に帰ったんだろう。
オペルクは、封印された世界の一つを支配しているのだと思うのだ。
次は、オペルクを追うか、それともオエスツー王国を解放に行くか……。
考えどころなのであった。
2018/02/15 いきなり大魔導! がアース・スター・ノベルより発売予定です。




