来たる者、潜む者
ユグドラシルの街は今日も活気に満ちている。
魔法大陸レガリアの最前線と呼ばれているように、この街には多くの魔法使いや冒険者が集まる。多様な人々が多様な理由で集うユグドラシルの雑多な街並みは、どんな人間も受け入れる懐の広さを見せていた。
なので、多少変わった出で立ちでもこの街では目立つことはない。だが、今朝方にユグドラシルへ入った二人組は多くの目を惹いた。
「ここがユグドラシル、ほんとに木陰の下に街があるんだね」
純白の長髪に透き通るような肌、新雪を思わせる真っ白なドレスに身を包んだ、全身白づくめの少女まるで無垢な人形という印象を見た人間に与えるが、無邪気そうな笑顔を浮かべている。
しかしその一方で、白でかたどられた少女で唯一の例外である鈍色の首輪が、少女の素性を怪しいものにさせていた。
「そうそう、このど真ん中に立つでっかい木が世界樹なのさ」
その隣の隣に立つのは、少女とは対照的に全身黒づくめの少年。ロングコートに真紅のスカーフを首に巻いた、その姿はまさに格好つけた気取り屋だ。
この少年はひと月ほど前からトレジャーハンターと称した便利屋として、この街で活動していたが、年若いこと以外はあまり話題にならない存在だった。
自称トレジャーハンターの少年と正体不明の白い少女。まるで関係性が見て取れない二人組を道ゆく人々は注視していた。
渦中の当人たちは全く知る由もなかったが。
そんな二人の姿をどこからともなく見つめている影があった。
「二人とも無事にやってきて何よりだ。ようこそはじまりの街へ」




