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Continental of Magica   作者: ドライ@厨房CQ
第7話 セイレーンの呼び声
33/33

デブリーフィング

セイレーン編後半です。今年もよろしくです!

「そうか、今回の一件にはオスカー・ワイルドも一枚噛んでたわけか」

「そしてあの鉄仮面の男、クレストと言ったね。彼もスピカ嬢のマギアを狙ってセイレーンを再起動させたということだね」


 医務室にて或斗はハカセから検査を受けていた。いくら解毒剤を服用したとはいえ猛毒を受けたので身体に異常はにか調べており、結果から言えばどこも問題はないとお墨付きが出た。また或斗のイド魔法は肉体に負荷をかけているものなので、そのレクチャーも含めた検診といったところだ。

 問診を受けながら互いにセイレーンにて知り得た情報を交換し合う。或斗はここで初めてセイレーン探索を依頼してきたのがオスカー・ワイルドである事を知り、ハカセは中枢区画で遭遇したクレストの目的がスピカである事を理解した。

 今回の件を総括すれば、マギアの神子の実力を図るべくクレストが、スピカと関わりのあるセイレーンを復活させたという事になる。また、その事実をオスカー・ワイルドは把握していたという可能性だ。


「となると、あのクソムシどもが手組んでることもありえそうだな?」

「うん、でもあのクレストには別の目的があるようにも思える」


 手渡されたタブレットにはクレストの画像が写っており、ハカセが中枢で遭遇した時に撮ったものだ。ハカセは写真に写るクレストの右手に握られた黒い球体を指し示す。

 ハカセは初見でこの石が凄まじい魔力を内包している事を見抜き、当初はセイレーンを再起動させる為に使っていたと考えていた。さが本当はその逆で球体に魔力を注ぐためにセイレーンを使っていたのではないかと。魔力を吸収し溜め込む性質を持つセイレーンはうってつけの供給源だ。


「あの野郎、マギアうんぬんはフェイクってわけか。とりあえず次会ったら骨の髄まで燃やしてやる」

「あの石ついては僕の方で調べてみるから、或斗君はあんまり無理はしないで、って言っても無茶しそうだからね、常に僕たちがいることを忘れないでね」

「あったりまえよ、いつでも頼りしてるぜハカセ」


 或斗のイド魔法は血を媒介にして発動しており、また過度な肉体強化は身体に負担を与える。いくら肉体強化に順応して最適化されている或斗でも、全力を出せるのは3分が限界と言える。当の本人は3分どころか1分で片がつくと豪語していて、我が強いながらチームワークも尊重しているのでそこまで心配する必要はないとハカセは考えている。


「オレの心配はいいからさ、それよりもエクシードの誰かが重傷って聞いたけど大丈夫なのか?」

「うん、なんとか応急処置が間に合たけど、出血量が多くてね。今はタンク内で治療中だよ」


 医務室の奥に置かれたタンクベッドの中でナギサが眠っている。マヤの回復魔法とハカセの応急処置のおかげで一命を取り留めたが、出血量が予想以上に多くてカプセル内の医療薬が減った血液の代わりを担っていた。またセイレーンの魔力が入り込んでいる可能性もあったのでデトックスを含めた本格的な治療を早めに行う必要があった。

 他にも負傷者はいたが既に治療が済んでおり、いま診察中の或斗がトリアージからして一番最後だ。あと30分もすれば港につくということでいち早く専用施設へ搬送できるようハカセは魔導院と調整を続いているので、邪魔しないようにと或斗はそそくさと医務室から出ていった。






 ブラズニールの船内で人が集まりやすい場所は格納庫とラウンジである。そのラウンジにはエクシードの殆どが集まっていたが、皆一様に暗い表情だ。ツートップがどちらも負傷していて精神的支柱を欠いた状態では仕方ない。

 そんな暗い空気などお構いなく箸を軽快に進める者がいた。純白のドレスからラフなパーカー姿に変わっていたスピカである。減衰した魔力を補うべくカロリー摂取を行っているが、空腹と相まって料理を次々と平らげていき、給仕役の繊華が嬉しげに空になった皿を料理が盛られた皿へ矢継ぎ早に交換していく。

 見事な食べっぷりに食欲を刺激されてかぽつぽつと食事を頼む者が増え、暗い雰囲気が少し和らいだ気がする。その後も黙々と食事を続けるスピカの元にマヤがやってきた。


「スピカさん、すごい食べっぷりね」

「いっぱい動いたからね。センカも食べないの?」

「ええ、見ているだけでお腹いっぱいだもの。さぁ私の事は気にせずどんどん食べてね」


 大盛りパスタを置いた繊華はもきゅもきゅと頬張るスピカを眺めており、それにはマヤも思わずときめいた。セイレーンをなんとか攻略するも幼馴染たるレオンとナギサは両名とも重傷を負って、一方はいまだ意識が戻らぬ状態で眠っている状態では気が緩む時がなかった。

 雰囲気で理解したのかスピカはゼリーが盛られた皿をマヤへ差し出す。食べ物の譲渡は彼女にとって信頼の証であり、気遣いをありがたく受け取って椅子に座ると身体を大きくテーブルへ投げ出した。


「マヤさん、お疲れのようですね。まぁあれだけの戦いの後なら仕方ありませんね」

「ほんと、皆なんとか無事だったのはフリーケンシーのおかげだよ。私達だけだったらナギサちゃんだってどうにかわからなかったし……」

「そんな暗い顔してると美味しくなくなっちゃうよ。元気がないときは美味しいものを食べるのに限るの、さぁさぁ食べて食べてー」


 どんどん差し出される料理の更に顔を引きつらせながらマヤは手にしていたゼリーに口をつける。程よい甘さが口いっぱいに広がって疲れが取れて行く気がして、スピカの言い分も案外的外れではないとマヤには思えた。






 廊下に置かれたベンチ深々と腰掛けたレオンは両腕を包帯が分厚く巻かれていて沈痛な面持ちだ。しかしその表情の理由は両腕の怪我でなく、仲間達を危険に曝してあまつさえ幼馴染が深手を負ってしまう事態を自分を招いた事に深い後悔を覚えたからだ。仲間に合わせる顔もなくここで独り頭を抱えている。

 なので床を叩く足音も近づいてくる人の気配も、誰かの足先が視界に入るまで気づかなかった。顔を上げたらそこには深い海色の瞳をした少女が立っていた。


「君は、アスール……」

「全く、そんなしょぼくれた顔なんかして、傷でも痛むのかしら?」


 先の模擬戦にて自身と互角以上に戦った少女であるが、ぶっきらぼうに心配してくれた彼女にいつもどおりの笑みを浮かべて大丈夫だと示すが、ジトッとした表情は崩れなかった。

 繊華の回復魔法とハカセの的確な処置に加え、魔力を含んだ護符を包帯代わりに巻かれているので傷の治りは劇的に早く、そこまで深くない熱傷なのですぐに元通りになるだろう。


「いや、ハカセ達の治療のおかげで痛みは殆どないよ……ってどうした?」

「全部自分に責任があるなんて考えてるわね」

「!? どうしてそれを!」

「そんなの、顔を見れば分かるわよ。あとそのどす黒い雰囲気もね」


 見透かされた事で逆に腹がくくれたのか、自分が思っているものを全てを吐き出した。仲間を人質に取られて何も出来なかった己の無力を呪い、自分を守ったダンが力尽きて倒れたのを黙って見ているしかなかった事。セイレーンの膨大な魔力とのぶつかり合った時、仲間を助けるよりも敵を倒す事を心のどこかで優先してしまい、それが聖剣の暴走を引き起こして結果的に仲間も深く傷付けてしまった事。そんな自分にリーダーの役目も聖剣を持つ資格も無いこと。

 エクシードでない部外者であるアスールだからこそ、弱音を出せたと言える。出すだけ出して言葉を切ったレオンは、黙って聞いていたアスールへ目を向けるが彼女は本当にただ聞くだけで何も言ってこない。短い付き合いだがこれが彼女らしさだろうと思って強張ってた表情を緩めた。


「ありがとう、聞いてくれて。おかげで少しは楽になったよ」

「愚痴ぐらい聞くくらいならね。それから一つ忠告、初対面な女の子を呼び捨てにするのはやめたほうがいいわ」

「あ、ああ、心に留めておくよ」


 何故そんな事をと問う前にアスールは廊下の奥へ消えていった。だからこそ朴念仁と呼ばれているのだが、当人は全く気づかずにいる。ともかく心のもやもやが少しは晴れて、皆がいるラウンジへ向かおうとレオンは立ち上がる。





「よっ、お二人さん。大活躍って聞いたぜ?」


 医務室を出て廊下を進んでいた或斗は見知った二人組の背中を見つけた。ダンとエミリアである。呼びかけられて振り返った二人の顔には絆創膏がいたる所に貼り付けられて、それが激闘と活躍を示す証であった。


「そんな事ないさ。気がついたらベッドの上だったもん」

「灰村さんこそスピカさんを抱えながら脱出してきたのは、格好良かったと思いますよ」

「いやー、最後の最後でばっちり決めれたけどよ、それ以外は殆ど毒でぶっ倒れていたもんで。スピカがいなかったら今頃あの世にいってたぜ」


 おどけるように手を下げてお化けのジェスチャーをする或斗に、2人は思わず吹き出した。実際のところセイレーンでの活躍は盾による防御力で一行を守り抜いてレオンの補助を担ったダンと囚われていた人々の救出に尽力したエミリアと比べるべくもないほどだ。

 エクシードよりも活躍すると息巻いていたが結果的に口先だけで終わった事に、或斗は自ら笑い飛ばして真に活躍した2人を労った。


「その点お二人さんは味方を守りきって救った、まさに最強の矛に最強の盾ってわけだ」

「そんなおおげさな、俺も無我夢中だったから盾を構えてることしか覚えてないよ」

「私もみんなのサポートがあったおかげだから……」

「謙遜しなさんな、事実なんだしもっと胸を張りな!」


 ダンの背中を強く叩くと或斗はマスターの喫茶店の扉を開いて2人を誘っていた。背中をさすりながらも香ばしい匂いにコーヒーの味を思い出して、その扉の中へ足を運んでいく。





「ちくしょう、どうなってんだ!?」


 誰もいないデッキの上でイズマが吠える。予てから目障りで最近は増長もしてきたと見えるダンをサイレーンを使って抹殺するはずが、彼は生還するどころか益々仲間内の評価が上がる結果となっていた。衝動的に起こしたものだから顔はばっちり見られているし、共犯といえる取り巻き達はいつもの制裁だと軽く考えている。

 いっそのこと昏倒している奴の口を塞ごうと考えるも、医務室は常に人の目があって何よりも自ら手を汚す覚悟などなかった。既に意識が戻っているのでこの件が露呈するのは明らかなので、どんな言い訳を考えている。しかし一向にバレる事はなく、ダンの性格なら真っ先にやってくるだろうし、焦らして自爆を狙うのも裏から強請るのもすることはない。

 何故と疑問と脂汗を浮かべて落ち着かない様子のイズマを見つめる人影がいた。その気配に気付いてはっとするも見知った顔に落ち着いた。しかし、その顔に浮かぶにやけた表情に違和感を覚える。


「な、なんだよ。そんなにやけた面なんかして……」

「ダンを殺し損ねたみたいだね、今どんな気持ち?」

「はぁ!? な、何訳わかんねえこと言ってやがる!!」


 なぜコイツが知っていると内心焦りを見せるも虚勢を張って威嚇するように吠える。それは面白そうに喉を鳴らし、まるで喜劇でも見るように楽しそうな表情を浮かべる。そこからいつもの姿は微塵も感じられなかった。


「何故って君を見てれば丸わかりさ。まあダンとの小競り合いは楽しく見ていられたけど、まさか直接殺しにいくなんて予想外過ぎて笑いが止まらなくかったよ! セイレーン頼りで自分から動かない所はマイナスだけどねー」

「……それがお前の本性かよ」

「そんな事もわからないなんて、やっぱアイツラ人形どもはつまらない」


 呆然と呟くイズマに対して腹を抱えて笑い、かと思えば冷めきった眼をして仲間達を吐き捨てる。その姿からいつのも姿など微塵も感じられず、狂気を孕んだ笑みを向けられては底冷えするような悪寒に襲われた。とんでもない奴に目をつけられたと後悔するも既に後の祭りだ。


「安心しな、ダンには暗示をかけてあの時の記憶は封じておいたから。これで何時も通りに小競り合いする仲に元通りってわけ」

「それで今度はお前がそれをネタに俺を強請ろうってわけか、このイカレ野郎!」

「イカれているのは世界の方だ。それに強請ろうだなんてこれっぽっちも思っていないよ。君は選ばれたんだ、“特別”として!」

「なんだって……」


 自分は特別、そんな甘美な囁きは抗い難いくらいに魅力的でその狂気混じりな笑みにイズマは惹かれていく。エクシードとなって力を手に入れ、自分に逆らう奴らを痛めつけて悦に入っていたあの快感を思い出し、セイレーンでただゴミクズのように押し負けた認められない屈辱が湧き上がってくる。何より自分よりも弱く無能なダンが持て囃されるのが許せない。

 特別になれるなら、もっと力が手に入るなら何でもやってやる。イズマの表情に狂気の芽がうぶいていくのを感じた影の人物は更なら一押しを出した。


「ククク、セイレーンなんぞに苦戦する勇者気取りのレオンなんて目じゃない力が手に入る。そして何もかも一緒に滅茶苦茶にしようじゃないか!」


 そしてイズマは魂を悪魔に売り渡した。






 ブラズニールが港に着いたその頃、荷揚げ用のクレーンにボロボロな鎧を纏ったクレストの姿があった。船の様子を上から眺めながら手の中に収めてある黒い玉を弄んでいると、その風貌にとても似つかわしくないファンシーな着信音が鳴り響く。


「よぉ、アプレンティスか。な、面白い素材だったろ?」

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