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Continental of Magica   作者: ドライ@厨房CQ
第7話 セイレーンの呼び声
30/33

突入開始

2018年最後の投稿です。

 セイレーンは海上から伸びる樹木のようだ。いくつのもの繊維が絡み合って天を衝く威容は、無機質な構造体というより蔦がいくつも寄り合い成長したようにも思える。

 界面に近い部分は波消しのために盛り上がっており、船をそこへ接岸させた。デッキより探索メンバー達が上陸すると、セイレーンの巨大さを改めて認識した。誰もが雲まで届きそうな頂上を見上げて、或斗もぼやくようにつぶやいた。


「まるでジャックと豆の木だな……」


 ただ見ているだけでは始まらないので、周囲を確認しつつ内部への突入を図る。幸いにも根元の部分には中へ入れそうな隙間がいくつも存在しており、大型トラックが悠々と入っていける大きさのものもあった。それらから手近にある、乗用車が入れる大きさの隙間からセイレーンの内部へと足を踏み入れる。

 上下二連式魔導銃ブレイズを構えた或斗を先頭に、少し後ろを盾持ちのダンが続いて隊列を牽引するように進んでいく。ダンが前に出ているのもその防御力を買われたからで、もし何かの奇襲があっても彼が正面から受け止めて、後方の者達が反撃に移る算段だ。

 通路は思っていたより広いが薄暗いもので、先頭の或斗は銃にフラッシュライトを付けて前を照らしながら進み、隊列の中にもライトを持った警戒役を置いて周囲を照らしている。繊維状の構造体によって作られた一本道ということで、まるで巨大な生物の腹の中を進んでいるような錯覚を覚えて、薄暗さと相まって気味悪さが増している。

 しかし場数を踏んでいるエクシード達はすぐに慣れていき、ライトをバトンのように回して交代しながら警戒しつつ、雑談するぐらいには余裕があった。この時会話の中心にいるのはいつもミーナだ。


「ほんとビックリしちゃったよ、スピカちゃんがデッキに出てきたときは。だってその真っ白なドレス、花嫁衣装みたいだもん。あ、でもその首輪はちょっとパンクぽくていいかな」

「ありがと、この服も首輪もお気に入りなの。ミーナの魔女っ娘スタイルもいいと思うなー」

「魔女っ娘ね……。このローブは重いしデザインも古臭いし、あんまり好きじゃないのよ。でも魔法の補助をするアーティファクトってことだから、あんまり無碍にできないから、仕方なくね」


 ミーナとスピカは仲良く会話しており、その隣で繊華が相槌を打っている。実は先程よりスピカに声を掛けようとした男性陣は多くいたが、その全てが繊華の一睨みによって鎮圧された。それによりミーナが話し掛けるまで誰もスピカに近寄れなかったが、今度はレベルの高い美少女の集まりということで、混ざろうとする猛者はいなかった。

 エクシードの中でも誰にもフランクで明るいミーナと、慎ましやかながら地母神的な慈愛を持ったマナの二人が、アイドル的存在と言えた。纏め役たるナギサも二人に劣らない美少女であるが、可愛さよりも格好良さが先行しているから、異星より同性からの人気が強かった。

 中核たるレオンとともに会話には加わらず、ダンのすぐ後ろについて奇襲に備えていた。聖剣を抜いて警戒を怠らないレオンは、盾よりも前に出て進んでいる或斗に目を向けた。聖剣に選ばれて強い力を授かった彼であるが、本質はバカ正直なお人好しなので或斗を純粋に心配していた。


「彼は大丈夫か? 一人で先行してて、もし何かに襲われたら……」

「心配ないさ。彼の鼻はかなり効くようだし」

「鼻が?」

「うん、なんでも気配や直感なんかを“におい”って表現しててさ、それを感じ取れる力が人一倍鋭いらしいよ」

「なるほど、彼はレーダー役というわけね」


 なぜ或斗だけが先に進んでいるのか納得してナギサは頷いた。レオンも理解できたが、いつでも援護できるように構えていた。他人の心配するよりも自分の行動で他人を心配させないでほしいと、彼の行動を間近で見てきたナギサは嘆息を吐き出すも口元を緩めた。後先考えず突っ込んでいく無鉄砲な行動力が彼の美点でもある。

 先行していた或斗が歩みを止めると、手を伸ばして隊列を制した。何かがあるのかとミーナ達も雑談をやめて緊張感が辺りに立ち込める。振り返った或斗は道の先を指さして告げた。


「この先は広い空間になっているみてえだ。何かあるのかわからんが、このまま進むか?」

「どうも一本道だし進むしかないな。みんな、突入と同時に全周防御隊形だ!」


 すぐに適した案を出して周知をさせるレオンの姿は指揮官としても申し分ない。カーツ教官から直々に叩き込まれた指揮官訓練の賜物であり、スピカ達もその指示に従って隊列に混ざって、或斗がポイントマンとして先陣を切る。


「オレがポイントマンでいく。バックアップは任せた」

「了解した。それじゃあ、カウント。3……2……1……、突撃(ゴー)!」


 レオンの号令で或斗が真っ先に突入してその後方からダンにレオン、ナギサと続いて、4人が背中合わせに円を組んで全方位を警戒する。内部は想像以上の広くて天井は遥か高くにあり、円形をしている床は全員が入ってもまだまだ余裕があるほどだ。

 ほのかにオレンジ色をした光で明るくなっている空間の中、突入したエクシード達も全周防御の陣形を敷いて、何かが来るのかとビリビリと警戒心を高めていた。しかし待てど暮らせど、何も起こらず敵性存在が現れるわけでもなかった。構えを解いた或斗が周囲を見回す。


「……何もないのか?」

「まだ何かあるかもしらない。警戒を怠らず、必ず複数でまとまって動いて周囲のクリアリングをするんだ」


 全周防御を解いてこの空間を調べるように散っていく。それでも幾人がまとまって複数で動いていくのは警戒心の現れだ。或斗もダンの後ろについて探索を行っていく。


「不意打ち対策は盾持ちの後ろにいることが一番だぜ」

「そりゃあ、確かにこっちの役目だけどさ、なんか納得いかん……。あ、道がある!」

「こっちにもあったよー!」


 遮蔽物が存在しないだけのだだっ広い空間では探索にすぐに完了し、壁に奥へ続く小さな道がいくつかあるだけだった。この先どう進むかとレオンやマッパーであるハカセが検討しあう中、他の面子は引き続き探索を続ける。或斗はどこまでも続くかのように聳える壁を見上げ、床から15メートルほどのところに大きな球体がはめ込まれている事に気づいた。

 その球体が突如として動いて、まるでギョロリと目玉が下を見つめるようだ。或斗が叫んで伝える前にこの場にいる全員が異常を察知できた。床や壁からキノコのような何かが大量に生えてきたて、取り囲んで蠢いていた。


「なに、これ……」

「どうやら、こちらを調べているみたいだ」


 傘のようなセンサーを近づけてキノコ状の観察ユニットは各々の顔を覗いたり、指紋や網膜をレーザーで読み取っていった。だたそれだけのことだが、反抗してどんな反撃がくるのかわからないので誰しも動けずにいる。特にスピカの周りにユニットが多く出ており、レーザー光を鬱陶しげに見ていた。

 全員分読み取ったのかユニットが元の場所へ戻っていくと、サイレンのような不快な甲高い音が響き渡る。同時に照明が真っ赤な物に変わって微細な振動が起こる。何かが来ると理解した皆が武器を構える。


「なにが、キャッ――」


 スピカの短い悲鳴が或斗の耳に届いた。見ると彼女の足元盛り上がっており、間欠泉が吹き上げるように真っ赤な流体がその身体を飲み込んだ。近くにいた繊華やミーナは吹き上げた時の衝撃で吹き飛ばされてあしまい、助けにいけそうにない。


「スピカアアァァ!!」


 臆することなく或斗はスピカを飲み込んだ流体の中へ飛び込んでいく。それを誰も咎めることはない。足場が泥沼のように溶けて下半身が埋まって沈んでいく者や、伸びてきた触手に絡め取られて壁に取り込まれる者などで阿鼻叫喚を呈していたからだ。

 レオンは聖剣を振るって触手を引き裂くが、まるで時間を巻き戻したかのように再生していき絡みついていき、彼に向けて先端を尖らせた槍が勢いよく伸びていく。そして壁が崩れて流体へと変化していくと、真っ赤な怒濤となって全てを呑み込んだ。

 波が収まり平穏を取り戻したそこに人の姿はなく、先程と変わらぬ柔らかな光が照らしているだけだった。

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