祭りの後
「よし、ソレは向こうに運んでおいて。あとコレはここに積んでおいて」
水晶峡谷のベースキャンプにてハカセは運び込まれた荷物について指示を出している。或斗たちが倒したグロリュースの残骸を回収しており、それを部位や用途ごとに仕分けているのだ。
ヌシである結晶龍を倒したと連絡が入って異変も解決できたと安堵するのも束の間、そこからドローンをたくさん送るように言われて、荷物運び用のドローンを飛ばすもそれが帰ってくると倒したグロリュースの角が載せらていた事には面食らう。
倒した魔獣は倒した者が半分受け取り、残り半分は自然に返すのがハンター達の決まり事で、或斗もその流儀に則って半分以上はそのまま残してあるが、50メートルにも迫る巨体であるため、ドローンだけでは足りないのでハカセやステラが使い魔を出して輸送に従事させてようやく全て運び入れることができた。
今はフリーケンシーメンバー総出で結晶龍の仕分けを行っている。角や鱗は魔力結晶であり、皮や外殻は魔導具の作成素材と使えるので、どれもが価値のある代物だった。
「さて作業はこのくらいで切り上げようか。明日からは本格的な調査が始まるから、英気をしっかり養ってほしいね」
「なら肉を食うしかないぜ! 今夜は焼き肉だぜ、ヒヤッホォォォウ!」
作業の手を緩めるハカセたちの元にエプロンを着た或斗が姿を見せる。左腕を負傷して安静にしておくよう言われていたが、そんな事お構いなしに肉の塊を手にしていた。
「……それで、焼き肉大会となったわけね」
或斗の一言に皆が賛同して荷物整理をしつつ、肉焼きの準備が進められる。テーブルについたアスールは巨大な龍の肉塊が食べられるサイズに切り分けられるのを黙って見つめていた。元々結晶が身体を占める部分が多い結晶龍は肉となる部位は少ないが、ここまでの巨体となればフリーケンシー全員でも食べきれないだろう。
ここで一つ疑問が湧く。魔獣の肉は魔力を宿しており、それを抜かなければ毒になるからだ。小型のものなら問題ないが、ここまで大型となると肉に含まれる魔力も相当なものになるから、そのまま食べても大丈夫なのか。
「何も処置とかしてないみたいだけど、食べても大丈夫なのかしら?」
「そこは或斗君の黒炎が魔力を取り除いてくれるから問題ないよ。ついでにこんがりミディアムに焼き上がるわけさ」
「ひゃっはー! どんどん焼くぜー!!」
大きめの焚き火グリルの前で盛大に炎を撒き散らす或斗は実に楽しそうであった。焼き上がった肉はコックチームが特性ソースをかけてから、皆に配膳していく。
特にスピカは真っ先に受け取って美味しそうに口に運んでいく。その気持ちの良い食べっぷりに或斗も肉を焼くスピードを上げていく。
「うん、すっごく美味しいね! アーテルもドンドン食べなよ」
「お、お姉ちゃん、ちょっと食べ過ぎなんじゃ……」
皆の分を配り終えて一仕事終えた或斗はステーキの皿を持ちながら、アスールとステラの元にやってきた。手にしてある一番グレートのいい肉を食べてもらうためだ。
「ステーキですか、どこの部位ですか?」
「コイツは喉の肉にあたるな。ブレスを吐くから一番鍛えられていて肉質が引き締まってるのさ。ここを食えるのは倒した者だけの特権なんだぜ? さぁよく噛んで食べてくれよ」
切り分けた肉を三人でほぼ同時に口へ放り込む。滲み出る旨味が口いっぱいに広がって今日一日の疲れが吹き飛んだ。初めて食べるドラゴンステーキに舌鼓を鳴らす。
「噂で聞いてたけど、本当に格別な味だぜ!」
「はい、今日一日頑張った甲斐がありましたね」
「でも、次は今回ほど激しくないところを望むわね」
何もない水晶峡谷のたもとに喧騒が響いて、ドラゴンの肉を囲んだ宴会はその後も夜通し続くのであった。
水晶峡谷の調査は危険性の高い魔獣を排除していたこともあってか順調に進み、三日間の内に多くのマッピングができており、フリーケンシー最初の調査活動は大成功の内に終わった。異常現象を引き起こしていた元凶を倒したこともあり、その名前は多く知らしめられるだろう。
ベースキャンプに残っている繊華は調査活動の情報をまとめていた。そこへ机に置いてあったマグフォンが音を鳴らすが、通知された番号に覚えがないので恐る恐る電話に出る。
『突然電話して済まない、繊華さん。此花だよ、久し振りだね』
「お久しぶりですね、此花さん。よく私の番号がわかりましたね」
『なに君の母君から聞いたのだよ、娘をよろしく頼むってね』
「もう、母さんったら……」
電話の主である此花は繊華の従姉妹で昔から付き合いがあった。魔法大陸に来ていたと話は聞いていたが、突然の電話に驚きつつも懐かしさを思い出して話は弾む。しばらく他愛もない話が続くが、此花はあら給って要件を伝える。
『君たちに頼みたいことがあってね、ご足労かけるかもしらないが、オリエンの街まで来れるかい?』
「ちょうど水晶峡谷での調査活動も終わりましたし、補給とかもしたいので是非こちらから伺いますよ」
『それは良かった。水晶峡谷の案件はオリエンでは大きな問題だったから、その解決に尽力した君たちを歓迎するよ』
旧友からのお誘いを快諾した繊華は次の行き先を相談すべく、皆の元へ向かう。




