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Continental of Magica   作者: ドライ@厨房CQ
第2話 世界樹の下にて
10/33

地下に眠る記憶

「久々のベッドから離れるのがつらいぜ……」


 昇りたての陽光を受けながらもしばらく惰眠を貪っていた或斗(アルト)であったが、掛け布団を脚で蹴り飛ばすとむくりと起き上がった。いつもならもっと早く起きているのだが、これまでの疲れが溜まっていたからかベッドからしばらく離れられなくなっていたのだ。

 身体を軽くほぐすとその辺に適当に脱ぎ捨ててあったシャツとスラックスを着込む。コートは頼りになるが分厚くて重いのでこのまま置いていく事にする。


「まったく、無造作にもほどがあるぞ」

「まあまあ、硬いこと言うなよ」


 或斗の影から姿を見せたジェフティは呆れ気味だ。その視線の先には無骨な黒いフレームが、床に放り出さ

れている。コートと一緒に放り出してしまったのだろうそれを手元に引き寄せる。

 適当な敷布を引っ張り出すと、その上で魔導銃の分解整備を始める。精密機器なのでいつでも万全の状態で使えるようにしておきたい。

 この銃は魔力によって銃弾を再構成して出来上がったこともあり、物理的に弱い部分がないか確認も兼ねている。結果からいって、構造や仕組みは通常の魔導銃と何ら変わりなかった。


「構造的には普通の魔導銃と変わらねえか。というか、形状からして普及型魔導銃で間違いないよなぁ」


 工具を使わずに分解すれば、グリップやトリガーがある後ろ半分にあたるレシーバー、銃口がある前半分にあたるバレルの二つに分けることができる。 バレルの中には円柱状のクリスタルが填められており、レシーバーからの魔力を収束させてバレルから撃ち出すためのものであり、魔導銃で一番重要なパーツとなる。

 この部分にヒビや傷がついていないか確認すると元の形へ組み直していく。簡単に分解できることもあってか、元へ戻すのも難しくはない。

 魔導銃は魔力に指向性を持たせて撃ち出す武器である。カートリッジやバレルをうまく組み合わせると魔法陣や詠唱を省略して魔法を放てる事も、これが大きく普及している理由である。

 この銃のセットアップも近距離での衝撃力に特化しており、至近距離でヒットしたならボクサーのパンチ並みの衝撃を与えられる。


「しかし、これの大元はお前の心臓に撃ち込まれた弾丸であるぞ。いやな感じはしないか?」

「ま、こいつはただの銃でしかないからな。それに俺を撃ったのはオスカー・ワイルド、奴に倍返ししてやればいいだけの話よ」


 昨日出会ったオスカーが言い放ったものを思い浮かべる。自身の心臓に銃弾を撃ち込んだその男が残した『マギア』という言葉を調べるのが今日の目的だ。

 銃を構えて撃つような仕草をしてからテーブルの上に置いた。


「今日はこいつの出番はなさそうだな。さ、いこうぜ」











「ここから結構地下に降りるわよ、準備はいい?」

「うん、覚悟はできてるよ」


 世界樹の根元にある遺跡跡への入り口の前で、アスールがスピカに対して最終確認を取っていた。

 自分の失われた記憶の手がかりがあるのなら退くつもりはないし、アーテルの手掛かりにもつながっていくのなら動くべきであるとスピカは結論づけた。

 それには繊華(センカ)も賛同してくれて一緒についてきてくれた。だが、ある意味で無関係である彼女がいることにアスールは眉をひそめる。


「繊華、あなたもついてくるつもり?」

「はい、友達の手助けをするのは当然のことです! それに発掘現場を通るなら私が居たほうがいいと思うますので」


 繊華はここの代表をしているので発掘現場の内部をフリーパスで移動できた。それにアスールは納得し、本人も行く気満々なのでそれ以上は何も言わなかった。

 今一度決意を固めて拳を小さく握りしめたスピカが地下へと向かうロフトへ乗り込むと、その後に二人が続く。三人を載せたリフトは金属音を軋ませながらゆっくりと降下していく。











「ここが書斎とはねえ……。まるで図書館みてえだ」


 ハカセの書斎へと足を踏み入れた或斗はその蔵書の数に圧倒される。円形の部屋の壁一面に置かれた書架に、それは所狭しと本が挟まれている。その内容も魔法の論文から医学プロファイル、心理学、名作映画全史、神話伝説、果てはユーモア会話術といっものまで雑多に詰め込まれている。

 部屋の中央には簡素な書斎机がぽつんと置かれており、その上に筆立てにタブレット端末、資料と思われるファイルや紙の束が整然と並んでいる。

 その隣にはいくつかの蔵書が扇状に広げられて置かれているテーブルと長椅子があり、椅子の上にイサムとステラが座っていた。


「やぁ、或斗君。せっかくきてくれたところ悪いけど、ちょっと待っててくれるかい」


 書斎机に向かっているハカセが掌を広げて魔法陣を展開させると、散らばっていた本が勝手に動き出して自力で書架の中へと戻っていく。これほどの数の蔵書を簡単に整理できるよう、一冊一冊に魔法を施してあるのは流石と言ったところか。

 飛び交う本の間をすり抜けながら長椅子に腰を落とした。テーブルの上に残っている本がマギアに関する本なのだろうか。昨日協力を約束してくれたイサムが幾つかの資料に目を通しているが、ここにステラまで居るのは予想外であった。


「ステラもここに居たとはね、一緒にマギアについて調べてくれるの?」

「はい、それもありますけど、魔法の勉強に来たんですよ」


 ステラは手提げバッグからノートや筆記用具を取り出して広げている。ノートの内容もしっかりとしておりちゃんと学んでいるのが見て取れる。元々学業が芳しくなかった或斗には無縁なものだが、魔法使いの端くれとしては覚えることも多いだろう。

 蔵書の整理が終わったのかハカセが三人の前へ綴じられた紙の束が差し出された。題名には『古代魔法文明におけるマギアの発生と関係性』と書かれている。


「それが今日の議題だよ。さぁ紙とペンを」

「まるで講義みたいっすね」

「確かハカセは実際に魔法の講義してるもんな」


 ハカセは研究の傍らで魔法に関する講義を開いており、ステラもその生徒の一人なのだ。これから始まるマギアの調査も講義に近い形で行っていくようで、配布された資料には既にマギアに関することがある程度まとまられていた。


「或斗君からマギアについて聞かれた後から調べ直したんだけど。中々集まらなくて夜通しかかちゃったよ」

「ハカセ、寝てなくて大丈夫なんです?」

「そこは心配いらないよ。なにせゴーレムだから一時間の休息があれば十分さ」


 そのハカセが夜なべしてまとめた資料は長文読解が苦手な或斗にもわかりやすく書かれている。

 マギアはマナの上位物質であり、扱えた魔法使いは非常に強力な魔法を行使できたという。現在よりも高次元な魔法が扱えた古代魔法文明でもマギアの普及は不可能だったらしく、マギアの扱えるある種の突然変異で生まれた魔法使いは神子として祀り上げられていたという。


「わかったのはここまでみたいっすな。案外少ないもんだ」

「うん、ここから先を調べるのが今日の目的となるね。未分類だけどそういった類の話をまとめたのが、ここの書物になるかな」

「つまりは、この本の中から探せばいいのですね」


 ステラは早速本を手に取ると読み始まる。イサムの方も単純作業は得意とのことだ。ただ一人、こういった作業が苦手な或斗はぼやきつつも分厚い書物を紐解いていく。


「こいつは骨が折れそうだ……。イサムもステラもよくこんなこと出来るよな」

「いきなり投げだしてんじゃないよ! 別に俺はそこまで苦にではねえし、ステラも魔法に関してはハカセとあのアスールさんから学んでるからな」


 文字列の津波にめまいを覚えた或斗は早々と本を閉じるが、その速さにイサムがすかさずツッコミを入れる。そんな古典的なやり取りの中をハカセとステラは何事もなく作業を続けている。

 そっけないイサムにぶうたれた顔を浮かべる或斗は、話に出てきたアスールの事をステラに尋ねる。或斗は彼女とは何も接点がなく、フリーで活動している魔法戦士がどんなことを教えてくれるのか興味もある。


「アスールって確かここの防衛担当の人だろ。オレらと変わんねえ年齢で流れの魔法戦士とかすげえよな。ステラはどんなこと教えてもらってんだ?」

「アスールさんからは実技を教わってますね。あの人は人付き合いが悪いように見えますけど、良い人ですよ。それよりも或斗さん、口より手を動かしてください」


 ぴしゃりとステラに言われた或斗は言い返せずに渋々作業を続けるのだった。











 だいぶ深くまで降りただろうか。最下層についたリフトから更に地下へとスピカたちは進んでいた。

発掘が盛んに行われていたポイントから正反対の方向であるので、照明は通っているが発見当初のままでむき出しとなっている周囲の岩壁からはひんやりとした地下特有の冷気が放たれている。

 リフトから10分ほど進んで先で行き止まりへたどり着いた。薄暗くて他の岩壁と区別がつかなかったが、よく目を凝らせばその部分だけ金属製となっている。通行用の入り口も併設されてはいるがそれも硬く閉ざされて開く気配はなかった。


「ここはアスールさん、あなたがここから先は崩落の危険があるからって封印したところですよね?」

「そうよ。でも、それだけじゃなくて閉じておかなきゃいけない他の理由があったの。黙っていてごめんなさい」

「この先にわたしに関する何かあるんだね」


 スピカの問いにアスールが頷くと繊華もそれ以上のことは追及せずに扉を開けにかかる。ここの扉は彼女かハカセの持っている鍵でしか開かないようになっている。そのためこの先は鉄の壁で固められてからは誰も入ったことはない。

 扉が仰々しく軋みながら開かれる。半分ほどのところまで開いた辺りから、ガガッと床を削るような音をあげてそれ以上は開かなかった。それでも通り抜けるには十分なので、中に足を踏み入れる。

 内部は地下空間にしては天井が高く開放感を覚える。ただ長い間放置されていたのか砂塵で空気が淀んでいて、あまり長居はしたくない場所であった。

 先へと進む道は崩壊しており、円形のようなこの部屋が終着点となっている。


「アスールさん、ここがスピカの記憶に関する場所なのです?」

「えぇ、ふたりともここまで来てちょうだい」


 アスールが先導して壁の近くまで寄ると、そこには打ち捨てられた道具と思わしき物体がいくつも転がっている。それらのどれもが無残に破壊されているが、その中で無傷なものが一つだけあってそれがアスールの見せたかったもののようだ。

 それは一辺1メートルほどある直方体の箱であった。冷たい金属光沢の表面をアスールが指差すと何かの紋様が描かれていた。スピカはピンと来なかったが、繊華には思い当たる節があるようだ。


「その紋様、スピカの左眼の紋様と同じ形ですね」

「そうなの? 鏡でしっかり見ておくべきだったかな」

「まぁ、これがあなたの過去に関係するものよ」


 そう言うとアスールは半年前の事を語り始めた。

 ユグドラシルの地下に存在する非合法な魔法組織が所有する箱を回収する依頼を受けた。その組織は街の地下遺跡を利用しているので、情報通であるオルビス商会の協力を得ながら地下空間の調査を行い、その本拠地を探った。

 場所がわかるとすぐにアスールと依頼主はそこへ潜入し箱の回収と内部での破壊工作を行った。結果的にそれは成功し連中をここから叩き出す事ができた。追手から逃れられるように遺跡と繋がる部分を崩落させて足止めとした。それがこの場所である。

 そして、この場で箱の中身が開かれた。


「まさか、その箱の中身って……」

「そのまさかさ! 中から出てきたのはスピカ・シェルナ・ティアラその人だったのさ!!」

「!? 誰ですかあなたは!?」


 突如として響き渡った高笑いとそれの人物に繊華は驚きの声を上げた。スピカもぽかんとした顔を浮かべているが、アスールだけがどこか警戒したように怪訝な表情で件の人物を睨みつける。


「いったいどういう了見かしらオスカー・ワイルド、『半年前に助けた娘が来たかから仲良くしてあげてね』というおかしなメールを出すなんて。それにアンタに連絡先を教えて覚えなんてないわよ」

「いやいや、文字通りだよアスール。これから先彼女の助けになって欲しいという純粋な善意からさ」

「アンタほど善意という言葉が胡散臭く聞こえる人間は居ないわね」


 突然現れたオスカー・ワイルドという男に理解が追いつかない中で、彼はスピカに向けて仰々しく頭を下げた。自分のことを『シェルナ・ティアラ』と知らない姓名で呼んだことに困惑しながらも、その目つきと動作にはスピカは見覚えがあった。


「……あなた地下牢獄の管理人だね。姿は違うけど雰囲気は一緒だから」

「ご明察だよスピカ。だからってそんなに身構えないでよ、君を連れ戻したりなんかしないからさ」


 地下牢獄の管理人ということでスピカも繊華も戦えるように構えて、スピカに至っては魔法剣ティアラを展開させていた。アスールも二人に協力しそうな状況でオスカーは降参するように両手を高く上げて敵意をないことは示した。

 スピカがティアラを納めて戦闘態勢を解くも繊華はまだ警戒している。このような場所に謎の男が現れれば警戒するのは当たり前だろう。突き刺すような繊華の視線を受けながら、オスカーは蕩蕩と語る。


「ボクがここに来たのはスピカに過去のことを教えてあげるためさ。なぜそんな箱に詰められて魔法組織なぞに囚われていたをね。聞きたくないのならこのまま立ち去ってもいいさ、聞いてて面白い話でもないからね」

「聞くよ、自分の過去を知らないでいるよりも聞いて後悔した方がいいもの」

「……スピカ、あなたは強い人ね」


 スピカの力強い宣言に繊華はどこか誇らしげに感じられ、オスカーも両手を叩いて絶賛する。


「素晴らしい! それほどの啖呵を切れるなら何も心配はいらないな」


 ではプロフェッサー・オスカーの講義を始めよう、と両手を大きく広げて得意げな顔を浮かばるオスカーに早くしろとアスールは無言の圧力をぶつけた。

 マギア、かつての古代魔法文明でさえも再現不可能な高純度な魔力の塊であり、それを扱える魔法使いは別格の存在であった。現在では伝説と化したそれは下らないお伽話で終わるはずだった。

 だが、スピカの中にはマギアが存在していた。彼女がどのようにしてマギアを扱えるようになったのかは定かではないが、伝説として伝わるマギアの神子を確保しようと多くの魔法組織が暗躍した。その結果が封印用のアーティファクトにスピカを収めてその中から無限にマギアを取り出すということであった。


「全く乱暴な話だよね。そんな事をすれば肉体も精神もただではすまないというのに」

「それが、スピカがここでされたこと、なんですか?」


 怒りに震える繊華が絞り出すように声を出した。それに対してローブを纏った男は変わらぬ調子で返答する。


「そうだね。これではいかんということで、ボクとアスールでスピカの救助作戦を行ったわけさ。結果は大成功、スピカの意識が戻らないというトラブルがあったけど、今こうして元気しているならそれでオッケーさ」

「あなたは一体何がしたいの?」


 スピカは率直に尋ねた。壊されそうになった自分を助け、牢獄の中とはいえ回復するまで匿ってくれたというのなら、この男に感謝すべきなのだろう。だが、目を見ればわかる。オスカー・ワイルドという男は善意で動いているわけでなく、もっと何か良からぬことを企んでいると思えてならない。


「当然、マギアがどうこの世界に影響を与えるか見たいのさ! 希望と夢、絶望と諦観、人と人が織りなす全てをボクは確かめてみたい。神子たるスピカ・シェルナ・ティアラ、いや一人の人間である一ノ瀬スピカが歩む人生という物語を」

「人の人生を除き見って、あなたは最低な人ね」

「ハハハ、似たようなことを彼にも言われたよ」


 悪びれずに笑うオスカーはスピカに近づいていく。その間に繊華がかばうように割って入りスピカも嫌悪感を隠さないでいるが、オスカーは気にせず言葉を続ける。


「最後にもう一つだけ教えてあげるよ。君の左眼の術式は古代魔法文明由来のものだから、他のアーティファクトとも接続することが可能なんだよ」

「……それがどうかしたの?」

「今ここで発掘された魔導演算機が計算するためには大元となる情報が必要さ。その術式なら君と演算機をリンクさせて、記憶から情報を引き出して計算することができるかもね」


 それはつまり、スピカが演算機とリンクすればアーテルを探し出せることが出来るということだ。驚きを見せたスピカに満足したのか、オスカーが杖をかざすとその姿が薄っすらと徐々に消えていく。


「それでは、またどこかで会おう!」

「…………できればもう二度と会いたくないわね」

「ですね」

「同感」


 姿が完全に消えてからポツリと漏れたアスールの呟きに繊華とスピカが同意する。それがどこか可笑しくて互いに笑いあってから、アスールがスピカと相対する。


「ごめんなさいねスピカ、こんなところまで連れ込んだ上にあんな変人な話を聞かせてちゃって。アイツが居たなら絶対にここまで連れてこなかったわ」

「ううん気にしてないよ。それにちょっとだけど過去を知れたから良かったよ」

「無理しないでねスピカ、私達もついているからね」

「センカもありがとう。さ、上に戻ろっか、ちょっと寒くなってきたからね」


 生地が薄く肌を晒している部分が多いスピカのドレスでは地下に長居はできない。身体をさすりながら早足でリフトを目指す三人はしっかりとくっつき合っている。











 魔導演算機の起動に成功したという報せが届いたのはスピカ達が地上に戻ってきたのとほぼ同時であった。モニカ達技術スタッフが徹夜して調整を繰り返していたので予定よりもずっと早く起動することが出来たのだ。

 論文の読み込みに沸騰寸前だった或斗もその報を聞いてハカセの書斎を飛び出した。演算機が起動できたのが嬉しいこともあったが、この長文地獄から逃れたい方が強かったのだ。


「けっこう人が集まってんなー」

「まぁ一大プロジェクトの始まりだからな。あ、姐さんとこいかねえと、あの人また無茶しそうだ」

「がんばれよー」


 徹夜明けでフラフラなモニカのもとへイサムは駆け寄っていた。だが流石と言ったところか、他の技術スタッフが起動とともに倒れ込むように眠りについたが、モニカはまだ眠らずに推移を見守っていた。


「ところでプロジェクトってなんなんだ?」

「プロジェクトというのは、陸上航行船と魔導演算機を使った大陸内部の調査遠征のことさ」


 後からやってきたハカセが今まで温めてきたという一大プロジェクトについて教えてくれた。

 ハカセとモニカ、そしてオルビス商会が提携して進めているこのプロジェクトはまだ謎が多い魔法大陸レガリアを少しでも解き明かせる物で、その過程で新たな鉱脈や遺跡を発見することで利益も生まれるという。

 学術面でハカセがリードし、船や技術はモニカが準備して、資金や人員をオルビス商会が補助する形で発足したプロジェクトも準備段階を終えて、今日から新たな最初の一歩を刻むのだ。


「そいつはすげえな、まさに一大プロジェクトだな!」

「そうそう、これには或斗君の協力もしっかり含まれているのさ。……おや、あれはスピカ嬢たちかな?」

「ほんとだ、あそこで何してんだろう。ちょっと見てきます」


 魔導演算機に近づいていくスピカ達をハカセが発見すると、モニカと何か相談しているように見えた。それが気なった或斗はスピカ達の元へ近づいていく。


「おいおい、何かあったのか? ってモニカよ、顔がひどいことになってんぞ」

「顔は余計よ! 完徹あとなんだから仕方ないでしょ。それよりもスピカがどうしても演算機とリンクしたいって言うのよ」


 話を聞くとスピカは左眼の術式を使えば演算機とリンクできる、らしい。らしいというのはまだ試したことがなくて確証がないからだ。それに演算機も始動したてで不安定なところもあってその状態でリンクしたらスピカにも悪影響が出るかもしれないので、モニカが止めようとしていた。

 それでも危険は承知で試したいとスピカは言うのだ。そのことに或斗は少し驚いた。今までスピカはあまり自己主張は強くなくて、どこかぼんやりとした印象を持っていた。そんな彼女が頑なな態度を見せたことに驚いて、そして頼りげであった。

 そんなスピカの背中を或斗は押した。


「スピカならきっと上手くやってくれるはずさ。現に龍種を倒してんだから魔導演算機なんて敵じゃあないさ。だろうスピカ?」

「うん、アーテルのためならこんなのへじゃないよ」

「……ハァ、わかったよ。でも危なくなったらリンクをすぐ外してね。こっちからでも安全にいけるようモニタリングしてるからさ」

「ありがとね、モニカ。それじゃいってきます」


 演算機の外殻の一部は開けるようになっておりそこから内部へ入ることが出来る。いつもならメンテナンスやコアとなるクリスタルを設置する時など止まっている時に使っているが、今は音を立てて稼働している。

 内部へ足を踏み入れる前にスピカがちらりと振り返ると或斗がサムズアップで見送る。無言の激励を受けて演算機の向こうへと消えていく。




 内部で光り輝くクリスタルと面を向かってスピカは力強く宣言する。


「わたしの妹、アーテルはどこにいるか教えてほしい。さぁ答えて!」


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