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Rejecter  作者: ソウさん
1章 出会い
8/22

村までの道のり①

気まぐれ投稿申し訳ございません

 町から続く整備された道を外れ、薄暗くなった森を進む影が2つ。まだ町からそれ程遠くないとはいえ、そこは魔物達の巣食う森。


 獲物を求めて徘徊(はいかい)する魔物と遭遇する事は度々ある。獲物となった冒険者や一般人の数は一人や二人ではすまないだろう。


「下がってろ」


 手でイズミを制止し、これまでの道中で何度かあったやりとりを行う。そうするとイズミは素直に、シュウから少し離れた場所に移動する。


 シュウが戦闘態勢に入ったのを感じたのか、暗闇の中からピリピリとした緊張感が広がる。途端に1体の狼型の魔獣がシュウの死角から襲いかかる。


「___ 」


 シュウはすぐさま後ろを振り返るとイズミの目では捉えきれない速度で剣を抜き、魔獣の首を音も無く断ち、絶命させる。

 イズミには、それが有り得ない程の剣の切れ味によるものか、圧倒的な剣技によってもたらされた結果なのかなど、考える間もなく戦闘は進む。


 その一瞬の隙を魔物が逃す訳もなく、後方と前方から1匹ずつ追撃を仕掛けるが、シュウに接近した途端、魔物の速度が目に見えて落ちる。

 魔物とはいえ多少の知能はある。身体に起きている異変に困惑し、その困惑によって動きがさらに鈍くなったところをシュウが一掃する。


「グルルゥ...」


 呆気なく散った仲間の異変を感じ取ったのか、シュウ達を囲んでいた気配がすぐさま遠ざかっていく。


「...結構魔物が出て来たな。そろそろ野宿にするか...」


 魔物を解体しているとイズミが近づいて来た。


「お疲れ様です。シュウお兄さん」


「ああ。でもお前も疲れただろ?慣れない道を2日も歩いて」


 ただでさえ体格の違いにより、同じ距離を歩くにもかなり体力を消耗するはずなのだ。


「そんな事無い...です」


「無理をするな。こう何回も魔物に襲われるだけでも精神的にも相当疲れるだろうに」


 魔物を解体し終えると、シュウ達は移動を始める。


「ここら辺にするか...」


 先程の場所から10分程森の中を進むと、比較的見渡しの良いところに出た為、そこで焚き火の用意をする。


(受付嬢は馬車で3日進めば村があるって言っていたが、歩くという選択はマズかったか?)


 イズミのペースに合わせている為、誤差は免れないだろうが、それでも2日経とうとしているのにも関わらず全く森を抜ける気配が無い。普通なら、村へと続く整備された道があるはずだ。


 とりあえず道があると信じて進むしか無いと割り切ると食事の用意を進める。


「そういえばシュウお兄さんはどうしてお料理出来るです?」


 少し体力が回復したのと安堵の為か、以前から気になっていたらしく、質問をしてきた。


「…ちょっと前に教えて貰ったんだ」


「そうなんだ!誰に教えて貰ったのです?昨日のご飯も美味しかったから楽しみです」


「その喋り方、少しづつ直せよ…?まあ、俺に料理を教えてくれたのは、師匠…だな」


「師匠です?」


「あぁ。俺に剣の使い方や森や山での生き方を教えてくれた人だ」


「シュウお兄さん、その人のこと好きなんだね!」


「好きっておま…いや、その人はまず男だからな。どうしてそう思ったんだ?」


「シュウお兄さん、その人の話をしてる時笑ってたです」


 全くもって無意識だった。とはいえ、トゥムトで冒険者になってから、笑った記憶などないのだから仕方がないだろう。誰とも関わりを持たなかった為、当然といえば当然だ。


「…まあ、そうだな。尊敬はしていたよ」


「それじゃあ、良い人なんだね!」


「見ず知らずの俺なんかに色々教えてくれる変な人だったよ。…この話はこの辺りにして、食事にするぞ」


「はーい」


 シュウは1日目の夜にも料理をした。食べれるかどうか見分けがつく野草と、街で補充した食料を使用した簡易なスープだったがイズミからの評判は良かった。


「直ぐに作るから座って待ってろ」


 昨日の事を思い出して、何故だか少し素っ気ない態度を取ってしまう。だが、イズミは特にその事を気にかける様子も無く大人しく待っていた。


「ほら、出来たぞ」


 宣言通り素早く調理を済ませると、イズミに料理を渡す。


「ありがと…です」


 余程疲れているのだろう。目の前に料理があるにも関わらず、これまでのイズミからは考えられない程に気分が沈んでいるように見える。


(かなり無理をさせてしまったか…イズミの不安や体力を考慮せずに進んでいたからな…出来るだけ早く村に着くにはどうすれば)


 シュウがそんな心配をしているのとは裏腹に、実はただ眠いだけだったりするイズミは食事に手を付ける。


「美味しい…!」


 途端に目を輝かせ、いつもの調子を取り戻すと肉にかぶりつく。


 今回のメニューは先程入手した狼型魔獣の肉を使用した串焼きだ。この肉は丁度いい歯ごたえの為、臭みを取る為牛乳に漬けた後、食べやすいサイズにカットし豪快に焼く。後は好みの調味料を振れば完成だ。


 臭みを取ればそこそこ美味で腹にたまる。それでいて調理も楽なので冒険者の中では重宝される。


(ひとまず元気になったみたいだな)


 シュウはひとまずホッとする。とはいえ、これからの対策を考え無ければならない。


 出来るだけ馬車や船を使って移動した方が疲労は少なくなるだろう。だがそれには、移動費を稼ぐ必要がある。それによって狩りに出た場合、イズミを連れて行けば本末転倒だ。


(村に預けるしかないのか…?)


 誰か頼れる人物に預ける事が出来るなら一番安心できるのだろうが、残念ながらそんな人物はいない。


 考えても拉致があかない気がした為、この件は一旦保留にし、シュウは食事を済ませることにした。ふとイズミの方を確認するとすでにスヤスヤと眠っていた。その姿を見るとシュウにも睡魔が襲って来た。


(とりあえず、一刻も早く村について休ませてやらないとな…)








 次の日もまた、半日程森を歩いても村にたどり着く気配は無かった。


(いつになれば着くんだ…これ以上イズミを守りながらの戦闘は流石に疲れる)


 その考えを嘲笑うかのようにまた魔物が現れる。


「くそっ!一体何度目だ」


 何故か前日と比較すると魔物との遭遇率が高い。まるで魔物が明確な意図を持ってシュウの体力を削るかのように襲いかかってくる。


 それでも尚、シュウは一体、二体と次々に魔物を切り落とす。


「これで、全部か…」


 戦闘が終了した事による気疲れと肉体的疲労感が体を巡る。故に少しの油断が生まれた。


「ガウ!」


 その時、魔物が狙ったのはシュウではなく、イズミだった。


「イズミ!」


 間に合わないっ!もうすでにかなり近い距離までイズミに接近している!飛び道具なんて持っていない…どうすれば!?


 イズミに向かって全力疾走する。今まで鍛えてきた体は、たとえスキルが無くともかなりの速度でイズミに近づく。それでも、間に合わない。


「グルァ!」


 魔物の牙がイズミを捉える___


 ドシュッ


 その直前で魔物の頭に1本の矢が刺さる。


「大丈夫ですか!?」


 矢が飛んできた方向には、普段と違う服装をした見知った顔の人物がいた。


「…なんでギルドの受付嬢がこんなところにいるんだ?」


 そう問いかけるも全く意識が向いていないのかシュウの横で風が通った。


「イズミちゃん!怪我は無いですか!?お姉さんによく見せて下さい!」


 飛びつき、抱きしめ、ひょいっと持ち上げながら怪我が無いか確認する。イズミは完全に困惑していたが、そんな事はお構い無しだ。


「とりあえず怪我は無いみたいですね。可愛いお顔に傷が付いていたらどうしようかと思いました」


 そうして解放されたイズミはササっとシュウの後ろに隠れる。

 そこでようやくシュウの存在を思い出したのだろう。受付嬢はとても怒っていた。


「どうして危険な森を通ろうと思ったんですか!」


「いや、お前から村が北東に進んだところにあるって聞いたから…」


「馬車を使って、とも言いましたよね?」


 そう。確かに受付嬢は馬車を使えと言っていたのだ。しかし、もちろんそれを忘れていた訳ではない。この前の宿代と長旅の準備でほとんど財産が残らなかったのである。少しでも節約しようと歩くという選択をしたのだった。

 ひとまずそれを説明すると、ますます怒りゲージが増えているようだった。


「それなら!馬車が通る道を歩けばいいでしょう!?確かにこのまま進めば早く着くかも知れません。ですが、わざわざ足場も悪く、より沢山の魔物が出るような道を進まなくてもいいじゃないですか!」


「…全くもってその通りだ」


 トゥムトの町から出ている馬車は北東というよりも北に伸びている道を進んで大回りして村に到着するので、未だ地理に疎いシュウが道を間違えるのも仕方ないのだが、かなり危機的状況だった為、弁解の余地などない。


「イズミ、すまなかった。俺のせいでお前を危険に晒してしまった。それと受付嬢の人。イズミを助けてくれてありがとう。俺じゃ間に合わなかった。」


 とても素直に思いを述べた。一番最初に危険な目をさせてしまったイズミに謝罪し、間一髪のところで救ってくれた受付嬢に感謝した。

 イズミはオロオロとしていたが、受付嬢にとっては意外な状況だった。


(シュウさんってこんなにも年相応に話せて、素直な人なんだ…)


 今までは年齢に会っていないほど、冷静で堅物といった印象を受ける話し方でしか会話してこなかった為、純粋に驚いた。


「それにしても、ギルドの受付嬢って冒険者でもあるのか?動いている魔物の眉間に正確に矢を当てるとは…驚いたよ」


「いえ、そういう訳では…私が元冒険者だっただけで、他の人は普通ですよ」


 この森の魔物は、的としては小さく素早い筈なのだが、それにも関わらず狙った箇所に矢を当てる技術は並大抵のものではない筈だ。

 気になるところではあるが、一番の疑問点を問いかける。


「…さっきも言ったんだが、どうしてこんなところに?」


「それはですね…どうしても不安になって追いかけてしまったんです。馬車乗り場にいなかったので先に行ったのだと思い、私も追う形で馬車に乗って村に着いてもあなた達はいませんし、住民に聞いても見てないと言われまして。それでまさか森の中を直進しているんじゃないかって思って急いで森を駆けてきたという訳です」


「それは申し訳ない事をしたな…」


「いえいえ、送り出した私にも責任はありますから!それに、イズミちゃんにもう一度会えましたしね」


 そう言いながらジリジリとにじり寄ってくる受付嬢に、イズミはシュウの後ろ側の服を掴んだ。

 その様子を見て「可愛いぃぃぃ!」と叫ぶので余計に避けられていた。まあ、側から見れば不審者にも見えるので仕方がないといえば仕方がないのだろう。


「とにかく、もう少し進んだところで野宿しましょうか。そうすればあと半日ちょっとで村に着きますから」


 相変わらず切り替えが早いと思いながらも、ようやく村までの距離が把握でき、一安心する。


(戦力的にも申し分無さそうだし、本当に助かった…)


 村まであと少しだと自分を鼓舞し、疲れた体に鞭を打ち、再び歩き出した。

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