休息
だいぶゆるめです
食事を終えたシュウ達は酒場を出てひとまず宿屋を探し始める。
「どこに行くのです?」
「宿屋だ。もう夜だからな」
「やどや?」
「…面倒だから少し静かにしてくれ」
イズミは少し不満そうに「はい」と返事をした。
(そういえば元々宿屋を探していて迷ったんだった…この時間だと安い宿は諦めた方がいいか)
既に日は落ちていて、薄暗くなった街で昼間とはまた違った賑わいを見せていた。
(イズミが目立つのかさっきから結構視線を感じるな…面倒事は避けたいし早く宿に入りたい所なんだけど…)
そんなことを考えていると、前方にレンガ作りのしっかりとした大きな宿屋が見えてきた。
(…結構でかいな。この大きさなら部屋は空いてると思うけど、この佇まい…お金が足りるかどうか)
他にあてもないので、仕方がないと宿屋に入った。中に入るとすぐに受付の女性に声をかけられた。
「いらっしゃいませ。お客様。本日はご宿泊ですか?」
「ああ。そうだ」
「ご用意する部屋は1部屋で大丈夫ですか?」
「…問題ない」
一瞬イズミと部屋を分ける事も考えたが、イズミは8歳だ。なにかが起こるわけもないと1部屋だけにする。あまりお金を消費したくないというのも理由だが。
「ご宿泊の日数はどうしますか?」
「1日でいい」
「この時間からですと朝食のみとなりますが大丈夫でしょうか?」
「あ、ああ」
基本的にこの街の宿屋は冒険者が寝るためだけに泊まる事が多いため、食事が付いているとこは珍しく、ましてや朝食がちゃんと付いている事に軽く衝撃を受けつつも今更引き返すのもな、と後に引けない状態になっていた。
その後も色々手続きを済ませ、シュウ達は部屋に案内された。
(2人で15000円か…普通の宿屋なら10泊は出来る金額だ…)
幸い、シュウが今まで冒険者として稼いだお金が思っていた以上にあったため支払いは問題無くできた。
(まさか、野宿ばかりしていたのがこんな所で役に立つなんて)
これまで、街に留まる必要も特に無かったため、少ない食糧と回復薬の類を持って魔物を狩る生活をしていると、自然と野宿をすることが多かったシュウの所持金は90000円ほどになっていた。
(まあ、お金を使うことなんてほとんど無いから問題無いか…)
階段を上がり、少しの間廊下を進むと部屋が見えてきた。内装だけ見てもかなり豪華な造りの為、値段が高いのも納得できる。
「こちらのお部屋でございます」
シュウは簡単に感謝し、目の前の扉を開くと驚きの光景を目にする。
(今まで泊まった宿屋の5倍ぐらいスペースがあるし、めちゃくちゃ綺麗だな…完全に入る場所間違えただろ…)
受付の人に身の程知らずの冒険者と思われているのだろうなどと考えていると、先程まで横に居たはずのイズミはいつの間にか大きなベッドにダイブしていた。
「すっごいフカフカだ!」
興奮してベッドの上で跳ねているイズミに声をかける。
「ふっ随分と楽しそうだな」
思わず笑みを浮かべながらそう言うと、イズミは急に不機嫌になりそっぽを向く。
「どうした?何かあったか?」
問いかけても一向に返事をせず、機嫌が直る気配が無いイズミにどう接すればいいのか分からず、たじろいでしまう。
「…さっき黙れって言われたです」
「ん?そんな事で怒っていたのか…?それに少し静かにしてくれと言っただけだろ」
「そんな事、じゃないです」
(め、面倒だな…)
子供の扱いには慣れてないのに…と思いながらもとりあえずどうすれば機嫌が直るのか摸索する。考えれば考える程どうしてイズミが怒っているのか分からなくなった。
「そんなに怒らなくてもいいだろ…」
つい本音を漏らしてしまい、ますます機嫌が悪くなったイズミに早く謝っておくのが賢明だと判断する。
「お、俺が悪かった。もう少し言い方を考えておこう」
「…それなら、いいです」
未だに少し機嫌は悪いが素直に謝るとすぐに許してくれたのでイズミに感謝を伝えた。
(…子供の扱いは難しいな)
心の内ではそんな事を思ったが、もちろん口に出さない。
(ニオさんなら余裕の表情で相手にすることが出来るんだろうな…)
早々に心が折れそうになるが、確かに悪かったのは自分だと思ったし、自分から提案しておいてやっぱり無理と断るのも悪いしな、とうなだれる。
頭を上げふとベッドを見ると、先程まではしゃいでいたイズミがすやすやと寝ていた。
「もう、寝たのか」
(よく分からない奴だな…まぁ疲れていたのか…)
知らない街に一人でいただけでも不安だったはずだ。そのうえ知らない冒険者の二人組に襲われていたのだ。疲れないわけがない。
(子供の考えている事すら理解出来ないのに世界を変えるなんて誰にも望まれていない事をしようとしている、か。俺は、本当に身勝手だな…)
当然、分かっていた。
「それでも…絶対に…」
この思いだけは絶対に曲げない。そう思いながらシュウは眠りについた。
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イズミ 8歳?
スキル:特になし?
見た目:鮮やかなピンク色のロングヘアー。身長はまだまだ小さい。簡素な作りのワンピース調の服を着ている。
特徴:謎に包まれた不思議な少女。親しい信頼できる人の前では明るい。口癖は母親から敬語として教わっている「です」。その母親いわくコアな層を虜にすることが出来るらしい。