あの決意から3年後
前回のあとがきでも記載しましたが、話は3年後に飛んでます。誤字とか多かったらすみません。
「グガァァァァァァァ!」
体長3m程の獣の魔物の咆哮が暗い森に響く。
その魔物は馬程の速度で移動し、獲物である男に鋭い爪で襲い掛かる。
すると、男は魔物の目でようやく捉えられる速度で剣を抜き応戦する。
キィィンッ!という澄んだ音が鳴った。魔物の爪は男によって完全に受け流されていた。魔物は何が起こったのか分からないといった感じで「グルゥ」と短く鳴き、再び攻撃を仕掛けた。
「グガァァ!」
渾身の一撃を男に放つ。しかし、それですら男に受け流されてしまう。
ズバッ!
気がつくと魔物の方が男から攻撃を受けていた。
「ガァァァ!?」
男は更に追い討ちをかけ、一瞬で数十の剣撃を魔物に浴びせる。
凄まじい速度で放たれる剣技に魔物はなす術が無く、身を翻して逃げる事を選択する。そこで魔物はようやく気付く。何故かはわからないが自分の身体能力が、途轍もなく下がっていることに。
「……遅い」
男は逃げようとする魔物に連撃に連撃を重ねた。しばらくすると魔物の命が尽きた。
「グル…ガァ…」
短い断末魔のうめき声の後、魔物が地面に倒れ込むのを確認する。魔物の爪と牙を切り取ると、剣士の男__シュウはその場から立ち去った。
シュウが獣の魔物を倒した日から2日経っていた。シュウは目的を果たすため、とある街に戻ってきていた。
魔物を倒した森から数十キロ離れた場所にある街、トゥムトは活気に満ちていた。街の真ん中にある冒険者ギルドから広がる様に武器や薬を売る商人達や酒場や宿屋で常に賑わっていることから冒険者の街と言われている。シュウは3ヶ月程前からこの街を拠点に冒険者として活動していた。
街に入ると、すぐにギルドへと出向いた。受付をし、ギルドの依頼で採取した魔物の爪と牙を引き渡し報酬を受け取ると受付嬢に話しかけられる。
「シュウさん、おめでとうございます。今回の依頼でランク73に昇格です」
冒険者はランク付けされていて、1から100まである。ちなみに1番下がランク100であり、ランク1の冒険者は数人程しかいない。ランクを上げる為にはランクごとに決められている昇格依頼というものを達成する必要がある。
「すごいですね…シュウさん程若くて、ギルドに登録してから3ヶ月でランク73までいく人なんて中々いないですよ。しかもソロなんですよね?かなりの実力を積んできた人か、すごいスキル持ちの人ぐらいしかこの期間でそこまで昇格するなんて普通はあり得ないですよ?」
「……」
興味が無い。といった感じで黙り込む。実際そんなものに興味はなかった。
受付嬢はその様子を見て「あはは…」と苦笑する。
「あ、新しく依頼を受けられますか?」
そこでようやくシュウが言葉を発した。
「…次の昇格依頼を受けたい」
受付嬢は一瞬、何を言われたのか理解できず困惑する。
「え…?また、続けて昇格依頼を受けられるのですか?流石にそろそろ厳しい戦いになると思うのですが…」
「問題ない」
受付嬢の問いかけに、シュウは即答する。
「他の冒険者の方達は最低でも一週間は別の依頼で実力を試したりするのですが…一週間でもかなり早い方ですし、そういった人たちは基本パーティーを組んでいるんですよ…?なんなら!私が他のパーティーに推薦しましょうか?普段はそういうことやってないんですけど、やっぱり心配ですし…」
「くどい。問題ないと言っている」
観念した受付嬢は「はぁ…」とため息を吐くと後ろの棚から1枚の紙を取り出した。
「…分かりました。それではこちらの依頼書にサインを」
素早く手続きを終わらせ、ギルドから出て行こうとするシュウを受付嬢が呼び止めた。
「あの!…お気を付けて」
シュウは振り返らずそのままギルドを後にした。
ギルドから出ると外はすでに陽が傾いていたため、宿屋を探すことにする。この時間帯になると冒険者の街と呼ばれているだけあって大勢の冒険者が宿屋を求めるため、満室である可能性が高くなる。
「すまないね、冒険者さん。部屋が空いて無いんだ。他を当たってくれ」
既に断られるのは3回目だった。再び宿屋を探すため歩いていると、人気の無い路地に迷い込んだ。
(この街にこんな場所があったのか…完全に迷う前に引き返すか)
シュウはこの街を拠点にしているとはいえ、滞在する時間が極端に短いため、地形には疎かった。
そのため気づいた時にはもう遅く、完全に迷っていた。3分ほど歩き、自分が完全に迷っていることに気づいたシュウは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「くっ…迷ったか…はぁ情けない…」
人気のない場所だとつい、素が出てしまう。酷く落胆していると路地の先から声が聞こえてきた。
「とりあえず道を聞くしか無いな」
このままだとさらに迷いそうだしな。そう考えると、声が聞こえた方向に歩く。
(男が2人と…小さな女の子?何をしているんだ?)
妙な組み合わせだなと思いながらも、その集団に近づくにつれ、会話の内容が鮮明に聞こえてくる。
「おいガキ!いいから早くそのネックレスを寄越せ!」
「それがあれば何日も酒が呑めるんだよぉ!」
その内容はどうやら2人の男が少女からネックレスを奪おうとしているようだった。2人ともそこそこ体が鍛えられているし、武器を持っている事から冒険者だろうと推測できた。2人の男の中心では少女が懸命に抵抗していた。
「嫌だ!このネックレスは母様から貰った物なのぉ!」
「知ったことか!早く寄越せ!スキルを使われたいのか!」
(面倒事には関わりたく無いけど、少女相手にやり過ぎだな…仕方がない、助けるか)
顔には出さずに内心ドン引きしながら集団に近づく。男達が近づいてくるシュウに気づかないわけもなく三者三様の反応をされる。
「なんだてめぇ邪魔したらぶっ殺すぞ!」
「お前もネックレスに興味があるなら早く手伝え!1杯ぐらいなら奢ってやるからよぉ」
(こいつら、だいぶ酔ってるな…)
「お願い!助けて!お兄さん!」
(泣いて縋られると助けない訳にもいかないか…)
そこでようやく男達に声を掛けた。
「おい、早く少女から離れろ。度が過ぎているぞ。お前たち冒険者だろ?恥ずかしくないのか」
「おい…邪魔したら殺すって言ったよなぁ?なめてんのかてめぇ!?」
「このネックレスは俺らのもんなんだよぉ!出しゃばってくるんじゃねーよ!」
男達から怒声を浴びせられたシュウはそんな事知ったことかと剣を抜いた。そこで男達の顔つきが変わった。
「本気で邪魔しようって言うなら仕方がねぇな?言っておくが俺達はランク48の上級冒険者なんだぜ?今更後悔しても遅ぇからなぁ!?」
「邪魔するなら…殺す!」
男達はそう言うと、一瞬で短剣を構えた。
想像以上に男達が手練れな事に軽く驚いたが、今にも襲いかかって来そうな男達を見てすぐに冷静になる。
(それにしても、なんでこいつらここまで狂ってるんだ?)
シュウは辺りを見渡し、積み上げられた酒瓶を見てひとまず納得する。
「「よそ見してんじゃねぇよ!!」」
男達はかなりの速度でシュウに接近した。
だが、シュウに後10mまで迫った時、彼らに異変が起きた。
「なんだこれ!?」
「力が…消えた!?」
男達は困惑し、酒に酔っているのもあって体が自由にコントロール出来なくなる。その隙を逃さずにシュウが動いた。スキルではないただの技量で男達が持っている短剣だけを弾き飛ばし、素早く剣を鞘に戻すと身を翻し強烈な足蹴を放った。
男達の体は簡単に吹き飛び、家の外壁に当たって気を失った。
「スキルに、頼りすぎだ」
(1番スキルに頼ってるのは俺だけどな…)
世界を否定すると決心したあの日から3年もの月日が流れていた。しかし、未だにどういった形で世界を否定するのかも考えがまとまらない状態だった。
(結局俺は何がしたいんだ…)
そんな事を考えていると突然声をかけられた。
「あの…助けてくれてありがとうです」
「おぉっ!?」
自分が少女を助けるために男達を倒したということをすっかり忘れていたシュウは変な声を上げて驚いた。
驚いたのも束の間、すぐに冷静な雰囲気を纏わせて少女に話かけた。
「礼はいいから早く家に帰れ。親が心配するぞ」
少しの沈黙の後、少女は困った顔をして返事をした。
「お家には帰れないです…」
「は?」
今度はシュウが困った顔になる。少女に「どういうことだ」と聞いてみる。
「父様にお前はここにいたら駄目だって言われて、母様は止めようとしてくれたけど、無理だったです…」
要するに捨てられた…のか?そう考えたシュウは戦慄する。目の前の少女はどうみても10歳程度で、こんな少女が一人で生きていける訳が無いからだ。
「お前…帰る場所は?」
「無いです」
「金は?」
「無いです」
シュウ自身も困惑している為か、幼き少女に向かって非情な質問をする。
「…何を言っているか分からなかったらそれでいい、最後に聞かせてくれ。親に、捨てられたのか?」
「多分…そう…です」
(嘘だろこいつ…)
そもそもなんで捨てられたんだ?そんな事を聞くのもな…と今更な気もするが悩みだしたら止まらなかった。その事を察したのか少女の方から答えを口にした。
「私には…スキルっていうのが無いらしい、です」
「なっ!?」
「それが原因で…父様と母様が喧嘩しちゃったです」
(スキルが無い!?そんな話、聞いたことがない…)
人は、生を受けた瞬間からスキルを1つ授かるというのがこの世界の理である。
この少女は、この世界の常識から、外れた存在。
すごく興味が湧いた。なんとなく自分がこれから何を成せばいいのか、それが分かるかもしれないと思ったから。
(俺についてくるか?なんて絶対に言えない。言っては、いけない)
どういった形にせよ、シュウは今の世界を否定しようとしている。それには当然、多くの者達から反感を買うことになる。それに、達成できるのか分からない事を目標として旅を続けないといけないだろう。
(そもそも、こんなに幼い少女を旅に同伴させるのは問題があり過ぎるし、この子の気持ちも知らずに何を考えてるんだ俺は!)
悲しそうな顔をしている少女の前でずっと何かを悩んでいる男。はたから見れば、変質者と思われても仕方がない様な状況だということにシュウは気づかない。
そんな時、不意に下の方から腹が鳴る音が響いた。ふと視線を下に下げると少女が顔を赤らめながら、腹を押さえていた。
「はぁ…お前、大通りに出る道を知っているか?」
「多分、分かるです…?」
「なら案内してくれ。腹が減ってるんだろ?早く行くぞ」
少女は「え…?」と不思議そうな顔をして、シュウを見ていた。
「金を持ってないんだろ?飯を食わせてやるって言ってるんだ。せっかく助けたのに、腹が減って倒れられたら後味が悪いからな」
少女は一瞬、明るい顔になったがすぐに悩み、戸惑いながらもシュウを大通りへと案内し始めた。
急展開過ぎて内容が薄くなってる気がする…最近読みやすく書けてるか心配になります。