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Rejecter  作者: ソウさん
序章
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序章②

 あの後、気まずい雰囲気に耐えられず自室で食事をとることにした。

 シュウは自室に戻り、一人になったことで愚痴が溢れだす。


「はぁ…そりゃ外は魔物が出て危ないっていうのは分かるけど流石に過保護過ぎるだろ。母さんが魔物に殺されたせいで親父が魔物を恨んでいるのは知ってる。だから、俺に魔物を近づけたくないってのは分かるけど」


 母さんは凄腕の剣士だったらしい。俺が3歳の時に死んだからほとんど記憶は無い。親父の話が本当なら、王国の中でもトップクラスの腕前だったそうだ。


「母さんがどれくらい強かったのかなんて知らないけど、魔物が危険だってことくらい俺でも分かる。でも、家の中にいるより外で色んな事をする方が楽しいに決まってるだろ」


 13歳の時に初めてカイルの言いつけを破り、屋敷の外に出た。それまでにも、ごく稀にだがカイルについていく形で街に出た事はあった。幼い頃から外出を禁止されていたシュウにとって屋敷の外は魅力に満ちており、すべてが輝いて見えた。


「親父から外は危険だと言われ続けて、ずっと屋敷にいることに疑問すら持たなかったなんて、ガキの頃は本当にぼんやり生きてたな…」


 幼い頃のシュウにとっては、屋敷の中こそが世界のすべてだった。もちろんそれは、カイルが外出を禁じていたからだ。それでも不満なんて一切なかった。それがシュウの当たり前だったから。

 カイルに外に出たいと言い始めたのは10歳ぐらいの頃だ。カイルと外出した際に、自分と同年代の少年たちが楽しそうに外で遊んでいるのを見て不信感を持ったのだ。しかし、カイルがそれを許す事は無く、ニオという監視役がいた事から外に出る事は出来なかった。


「あの頃はニオさんのことを恨んでたっけ…抜け出そうとする度にすぐに見つかって止められるから毎日どうやって屋敷を抜け出すか考えたけど、結局無理だったんだよな」


「まさか索敵スキルを生まれつき持っていたなんて知らなかったし。今思えば、いつでも場所を把握されていたんだから、そりゃ脱出なんて出来るわけないよな」


 シュウは「そうとも知らずに、屋敷から抜け出すために筋トレを始めたんだったなぁ…」と、当時の事を思い(ふけ)る。


「13歳になった時、ニオさんから突然外に出てもいいって言われた時は驚いたっけ」


 13歳になったシュウにニオは、「そろそろ善悪の判断がしっかりとしてきたでしょうし、もう何も言いませんよ。でも、くれぐれも危険な事はしないで下さいね?」と微笑みながら言ったのだった。

 初めてカイルの言いつけを破って恐る恐る屋敷から出た日の事は鮮明に覚えている。森での体験によって楽しみが格段に増し、やれることの幅も増えたことの高揚感は今でもシュウの原動力になっていた。


「あれから外に出るようになって、毎日森の探索やスキルを手に入れるための鍛錬を続けてきたけど、魔物を見たのなんて数十回しか無かったけどな…怪我をしたことも無いし」


 屋敷周辺の森にいる魔物は足が遅い個体が多く、体を鍛えているシュウには簡単に撒くことが出来た。故に、魔物に遭遇(そうぐう)したところでそこまで危険では無かった。


「ん?それなら、森に出るぐらいなら安全だって事を説明したり、なんなら実際に魔物を撒くところを見てもらったら森だけでも外に出る事を許可してもらえる可能性もあるんじゃないか?」


 どうして今までこんな事にも気づかなかったんだろう。いや、結構前から気づいてはいた。だけど、それを言う勇気が無かった。どうせ却下されると心の中で思っているから。それでも、今更こう考えられるのは自分に対して自信が付いてきたからなんだろうか。それなら、当たって砕けるのも悪くない。

 そうしてシュウは、カイルに直談判(じかだんぱん)する覚悟を決めた。


「よしっ!早速親父に会って交渉するか!」


 善は急げと自分の部屋から出た。ドキドキしながらも、外に出たいという小さな願いを叶える為に力強い足取りで歩きだす。

 シュウの部屋は2階にあるため、1階にあるカイルの部屋まで向かう途中で廊下の窓から小さな灯りが見えた。


「灯り?こんな時間に?なんでこんな所に…人なんか滅多にこないはず…」


 この屋敷は町や村からそこそこ離れた位置にあり、人なんてまず来ない。来るとすれば食料や生活用品を運んでくる商人ぐらいだ。だが、時刻は23時になろうとしている。そんな夜中に商人が来るなんて事はまずありえない。「何かあったのか?」そう思っていると突如(とつじょ)、下の階から爆発音が響いた。


「___一体なにがっ!?1階で爆発でも起きたのか?…親父とニオさんは大丈夫なのか!?」


 下の階から伝わってきた激しい衝撃に身を揺さぶられながらカイルとニオの心配をする。

 シュウはカイルの部屋へ安否の確認と状況を知る為に急いで下に向かう事にする。


 階段を降りて広間の方を見ると玄関が跡形も無くなっていて、そこから黒いローブを被った大量の人間が屋敷に進入していた。


「あそこに人がいるぞ!取り押さえろ!」


 そのうちの一人がシュウの方を指差しながら叫ぶと、大人数の視線が一斉にシュウの方へ向く。シュウの存在を確認した彼らは足の動きを再開し迫りくる。


「ここで何をしているんだ!お前ら、一体何者なんだ!?」


 シュウは混乱しながらも、持ち前の身体能力とカイルから教わった体術で襲いかかってくる敵を蹴散らしていく。


「すばしっこいな…流石は英雄の息子といったところか。拘束魔法の準備をしろ」


 黒ローブ達も負けじとシュウを捕らえようとする。英雄?何の話なんだ?と思いつつも攻撃のペースを上げる。こんなところで、カイルから学んだ体術が活きるとは思っていなかったが、少しずつ敵を減らしていく。


「準備が出来ました。いつでも使用可能です」


 魔法の準備をしていた一人が隊長らしき人物に声を掛けた。


「よし。放て!」


 その言葉を合図にし、突き出した手の前方に詠唱陣を発現させた複数の人物が声を張り上げる。シュウに襲い掛かっていた者達は一斉に飛びのいた。


「拘束魔法、発動!」


 鎖や縄、手など様々な形をした魔法がシュウを拘束しようと襲い掛かる。しかし、シュウは一切躱そうせず直進する。


「馬鹿なやつだ。これでお前はもう動けない」


 魔法は確かにシュウに直撃する。しかし、魔法がシュウに触れた瞬間、その力は崩れさってしまった。


「すまないな。俺には…効かないんだ」


「なっ!?」


 シュウは敵が動揺している隙に間合いを一気に詰め、殴り倒した。


「はぁはぁ…とにかく、親父達が大丈夫なのか確認しないと」


 当然息は荒くなり、困惑や不安で押しつぶされそうになりながら、大きな音が聞こえてくる中庭の方に向かうと、カイルとニオが数十人の黒ローブに囲まれていた。


「親父!大丈夫か!?」


「シュウ、無事だったか!こっちは大丈夫だからお前は早く逃げろ!」


 円状に囲まれている中心部からカイルの大声が届いた。ニオを守りながらも、カイルは順調に敵を倒しているようだった。


「俺だけ逃げるなんて出来るわけないだろ!俺だって親父達を守ってみせる!」


 逃げろと言われたことに反抗するようにシュウはそう言い放つと、中心に向かって突撃した。一人ずつ、確実に敵を倒しているとすぐにカイル達と合流できた。


「シュウ君!大丈夫なの?怪我は無い?」


 シュウが見えた瞬間、ニオがいきなり飛びついてきた。


「ちょっ、ニオさん、俺は大丈夫だから!本当に怪我とか無いから!あと口調が戻ってる!」


「あぁ…良かった…シュウ君が無事で、本当に良かった…」


 ニオが泣きながら慌てふためくシュウを抱きしめているとカイルが言葉をかけてきた。


「シュウ!あんな事を言った後ですまないがお前がニオを守ってくれ!とりあえず俺はこいつらを倒す。その間なんとかしてくれればいい。それと、この剣をお前に託す」


 カイルは常に自分の腰にかけていた剣をシュウに渡す。


「この剣は、母さんの…シイナの形見だ。持っていてくれ」


 質素な金属の(さや)に入った剣だ。いつもお守りだとしか聞かされなかったそれが母親の形見とは知らずにいたが、こんな形で疑問が解けるとは思ってはいなかった。


「そんな物受け取り辛いだろ!それに、親父が使えばいいじゃないか!」


「俺は剣を使うより素手の方が強いからな。お前が持っている方がまだいいだろう」


 カイルから武術を学んでいる為、それが嘘ではない事はシュウも理解している。故に渋々ではあるが剣を受け取る。


「くそっ!分かったよ!絶対にニオさんは守るから、親父はさっさと敵を倒してくれよ!」


「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」


 カイルが微笑んだ気がした。その瞬間、カイルが姿を消した。そして、様々な方向から凄まじい打撃音が鳴り響く。


「凄いな…こうもみるみる敵が減っていくと俺ってなんて無力なんだろうって思うんだけど」


 ようやく落ち着きを取り戻したニオがいつもの調子でシュウに話しかける。


「シュウ様が来てくださった分、私を庇う事を意識せずにカイル様が少し本気を出せているんですし、決して無力だなんて事はありませんよ。それに、今私を守ってくださっているのはシュウ様なのですから」


「ニオさんがそう言ってる間にも凄い勢いで敵が減ってるにも関わらず、少し本気を出してるだけとか言われたらあんまり納得できないけどねっ!」


 剣の鍛錬をした事がない為、剣を鞘に収めたまま周辺の敵を殴り倒した頃には黒ローブ達はほぼ全滅していた。


 これで終わりかと思った時、森の方から今まで戦っていた者たちとは明らかに違う、異様な雰囲気を(まと)う人物が現れた。


「まさか、ここまで時間をかけるとは。武闘家のカイルともあろう者が…腕が落ちたものだな」


 ただ喋っただけで、辺りに重圧感が生まれる。ニオだけでなく、シュウも恐怖で打ちのめされそうになっている事からスキルによって生み出されたプレッシャーでは無いことが理解できる。

 そんな中、カイルが口を開く。


「お前は一体何者だ。何が目的で屋敷を襲った」


「それを答える必要がどこにある?」


「もう一度聞く…何が目的だ?」


「…あるお方の命令でお前を排除しにきた。それだけだ。ついでに英雄の息子も排除する、といったらどうする?」


 それを聞いたカイルは、豪風を巻き起こしながら雷のごとく移動し、その日一番の力で謎の人物を頭上から叩きつけた___はずだった。カイルの拳は男を跡形もなく消し飛ばす威力だったにも関わらず、今もなお謎の人物の頭上で止まったままだった。


「なんだと!?スキルで弾かれているのか!」


 自分の力が通用せず叫ぶカイルに謎の男は、「ふっ…」と笑い淡々と話しだす。


「そう焦るな。時間稼ぎも充分済んだ。既に準備は整っている。後一つを除いてな」


「時間稼ぎだと?一体何を…」


 謎の男が突然その場から消え、カイルが体勢を崩した隙にシュウ達の背後に回り込むと、謎の粉末を浴びせた。


「シュウ!ニオ!」


(まずい…意識が遠のいていく……)


 そこで突然、男の雰囲気が変わった。


「安心して下さい。ただの睡眠薬です。しかし、これでもう先輩は逃げられませんね。あなたなら、息子さんを置いて行けないでしょうし。これで、本当に全ての準備が整ったということです」


 カイルはひどく困惑し、顔を歪めて体の動きを一瞬止めてしまう。


「なんでお前がっ!」


 すぐさま体勢を整えたカイルがシュウ達に迫るのを、薄れゆく意識で確認する。


(ごめん…親父…ニオさん…)


「シュウっ…!」


 そして、謎の男が口を開いた。


「……魔…発動」


 その言葉を最後に、シュウは意識を失う。


 その直後、屋敷の全体を呑み込む程の光の柱が発生した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カイル 41歳


エンドスキル「神速」:その速度はどこまでも加速する。「速度上昇」から「俊敏」そして「神速」へと昇華したスキル。

etc.


 見た目:紺色のショートヘアー、青色の目、身長は180㎝近くありで体重が92kg


 特徴:真面目で優しいので常に誰かから頼られている。魔物に妻を殺されており、身近な者の命を常に案じている。過去に様々な苦難を乗り越え、英雄と呼ばれている。


名前を考えるのが苦手なので、どうしても適当になってしまいます。

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