バレンタインの怨嗟と非リアの道化師(詐欺師の少女と旅する道化師 バレンタイン特別短編)
クリスマスに続いてのバレンタイン短編です。
だんだん道化のキャラが残念になっていっている気もしますが、私は気にしません。
バレンタイン。
日本のチョコレート会社の陰謀により、男子を二分する行事。
二分とは即ち、
貰える者。
貰えざる者。
この2つである。
この2つの対立は、果たして止まることを知らないのであった……。
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「結局何が言いたいの、道化?」
「地球、というか日本好きの私でも、このバレンタインだけは許せないというお話だねぇ」
私たちは今、日本のとある廃墟で話をしていた。
久し振りだねぇ、日本。
来てすぐに秋葉原行ってきたけど、この格好でも何の違和感も無く歩けるって最高だよ。写真もちゃんと声をかけてからにしてくれるし。
まあそれはそうと、せっかく日本に来たと言うことでテンションが上がった私は、詐欺師の少女に日本について色々教えていたんだ。
そうしていたら彼女が、
「町で見かけた、バレンタインって?」
と言ったのが原因で、私がバレンタインについて多くを話すことになったのだよ。
え、言いたいことは1つしか無かっただろうって? 何のことやら。
「道化はずっと旅してたからね。そもそもバレンタインデーに日本に居たことがほとんど無いんじゃないの?」
「何を言う! むしろバレンタインデーを狙って何度か日本に来ていたに決まっているだろう!?」
「決まってるんだ……」
バレンタインデーの前後数日を狙って日本に来て、誰か可愛い女の子が依頼に来るのを待つのだよ。
ちなみに今回で26回目さ。
「で、貰えたの?」
「そもそも依頼が来なかったさ!」
もし日本で依頼が来るのならば、他の世界と同じくらいの時間滞在するさ。それが出来ないから、時々"遊びに"来るんだよ。
ちなみに23回目の時、廃墟に誰かが入ってきて『日本で珍しく依頼が来たか? まさか女の子!?』と心をウキウキさせて待機していたら実は持ち主不明の空き家の調査に来た役所の人間で、私に驚いたその人に警察を呼ばれかけたのも今では良い思い出だよ。
奇跡を使いながら穏やかに話しかけて、嘘八百を並べ立て、宥め賺し、騙し丸め込んで事なきを得たよ。
あの時は本当にハラハラしたね。
「で、1回も貰えた試しが無いからバレンタイン反対……と?」
「いや、漫画やアニメのそういうシーンは最高だからあるのは問題ないんだよ。でもねぇ、リアルの方でもあんなに盛り上がるのはねぇ……」
ギャルゲーのそういうシーンになるとこう……グッと来るものさ。超可愛いとしか言いようがないねぇ。
漫画や小説は主人公に感情移入すれば無問題。
だがしかし!
現実でそういうことやっているなんてムカムカするねぇ! 妬ましいよ! 恋人同士でチョコを通じて愛を通じ合わせてその後しっぽりかい? ふざけるんじゃあないよ!
……え? 廃墟に居るのに何でそんないかにも"見てきた"かのように話すのかって?
廃墟ってね、人が立ち入らないからとっても見付かりにくいんだよ?
―――また、火の玉でも用意して待機しておこうかな。
「いや、リアルで盛り上がってなければそもそもアニメや漫画で使われないんじゃ……」
「シャット、アープッ! 黙りなさい、黙りなさいな娘さん」
「誰が娘さんか!」
「とにかく、私は貰えざる者たちの味方であり、リア充を殲滅せしめすがために奇跡を使う所存なのだよ!」
「文法がおかしいような……」
「煩いのだよ!」
私の崇高な任務を邪魔するものは誰も許さない。
さあ、世の非リアよ!
今こそ立ち上がるのだ!
周りが盛り上がってる中、微妙な顔でいるしかない男共よ!
部活かクラスの繋がりで貰えるものの何か渡され方が雑で、どうしようもなく義理であることが分かってしまう者共よ!
それどころかその繋がりですら貰えなかった者共よ!
つーか引きニートしてるからリアルとの関わりがねぇよって者共よ!
今!
この今!
立ち上がるのだ!
今こそその時なのである!
何を迷うことがある!
どうして躊躇っている!
最後に勝鬨を上げるのは我々であることは自明の理である!
さあ、行こうぞ!
我らが望む栄光へ!
リア充が死せる非リアの世界へ!
我らを阻めるものは何もない!
ただひたすらに勝利への一本道があるのみである!
さあ、バレンタインを!
我らの手中へと取り返すのだ!
リア充ではなく、非リアのためのバレンタインへ!
Valentine of the people, by the people, and for the people, shall not perish from our hands!
「ところで道化、私その……チョコを……」
「えっ!?」
演説を繰り広げていた私を正気に戻す事を詐欺師の少女は言ってきた。
「えっと……えあの……あ、ありがとう……」
「……うん」
彼女が以前からバレンタインを知っていた事には驚いたが……。
バレンタイン、捨てたもんじゃあないねぇ。
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「自然にバレンタインの話を振ってチョコを渡そうと思ったのに、何であんな渡しづらい空気になっちゃったの……? 予定外に恥ずかしい感じになっちゃったじゃん……」
呟く少女が居たとか居ないとか。
読んでいただきありがとうございます。
よろしければ本編『詐欺師の少女と旅する道化師』の方も読んで貰えると嬉しいです
http://ncode.syosetu.com/n0168ci/(『詐欺師の少女と旅する道化師』本編のURL)