リレー
空高く、晴天。気持ちいいんだけど、私の心はふさぎ込んでいたんだ。
今日は三ヶ月に一度のクラス対抗リレーの日。
いつも思うけど、何故うちの学校だけそんなことをするんだろう? そしてリレーっていうのか嫌。対抗ならなんでもいいよね? 早食いでも。え、なんでって。食べ物好きだから。横に広がるそのジレンマが嫌だけどさ。
……でも。
「ハッハッハ……積年の恨み晴らさせてもらうわ!!」
積年って……二年しかないし。
「これで優勝したら、富山がなんか奢ってくれるってよ!」
担任ェ。
「負けたらどうなるか分かってんだろうな!!! お前らぁ!!」
……なに? この気合。 体育会系を中心にうちのクラスはただいま一気団結中。
……。
休みたいよぉ。心底。実際まりちゃんなんて逃げ(病欠)たし。けど、くじ引きで一番手を引いちゃったんだ。引いたんだよ。
宝くじなんて当たったこともないのに。
「五木。分かってんだろうな? コケるなよ? コケるなよ?」
「う、うん」
体育委員。念には念をって感じ。子供じゃないんだからそうそうこけたりはしないんだけど。コケた方がいいの? って思えてくる。
それにしても、私へのアドバイスはそれだけなんだ。少し寂しいんだけど。他のリレー選手とは何か真剣な顔で話し合ってるんだけどなぁ。
「なんかすごいなぁ。こんな行事に参加した事なかったから面白いよ」
映見君は感慨深そうにあたりを見回してるけど、選抜漏れ。応援側だ。
「体育祭とかいろいろ参加したことないの?」
羨まし……いやいや病気かなんかでかな?
映見君は軽く笑う。相変わらず姿だけはいいので本性を知らない他のクラスの女子がチラチラと見ているのがわかった。知らない方が幸せって言うこともあるよね。
まあ、映見君はやっぱり気にも止めないけど。
「面倒くさかったからね。アニメでよく見るし、いいかなって……現実ではみなみちゃんも、かおるちゃんもいないし。つまらないからね」
「……そ、そうなんだ」
内心、誰だ。とツッコミを入れたけど声に出すのは長くなりそうなのでやめた。
アニメの説明とかされたら抜け出せなくなる予感。私は話題を変えるように慌てて口を開いた。
「でも、今日は出てきたんだね?」
「だって、負けたくないし」
「……」
口を尖らせて、言う映見君は何処か子供のようだ。可愛いというか。なんというか。母性をくすぐられる感じかなぁ。
けれど、意外。
「そんなに……好きなの?」
このクラス。友達も私達だけだし……。話しているところも見たことないし馴染んでるようにもねぇ。大体この間は委員長の名前間違えてたし、クラスメイトの名前も覚えてるか怪しい。
そんな映見君はいったい、いつどこでこのクラス好きになった?
私は去年からいるけど(繰り上がりなので)そこまで好きにならないんだけど。
伺うように言うと少し驚いたあとで苦笑を浮かべてみせ、ポンポンと無意味に私の頭を叩く。
ええと。なぜか突然の子供扱い。
何で?
そんなことも分からないお子様って言いたいのかなぁ?
うーん。
まぁ、いいか。悪い気はなぜだかしないし。楽しそうだし。
「まぁ、ね……あ、吉岡も出るらしいよ?」
だろうな。と思う。私は苦笑を浮かべていた。
「縁は運動馬鹿だから」
そう言えばあの映画を見た後、小学校からの同級生達ににこっそり連絡してみたんだ。いらないことするなって怒られそうだけど。でも、力になりたかったんだ。わたしだって。
それとなく縁はどうかって勧めてみたんだけど、彼氏がいたんだなぁ。これが。別れろなんて言えるはずも無いしね。
だからそれをどうやって伝えようかっていうのが目下の悩み。世の中残酷だよね。ほんと。
失恋の痛みは新しい恋でって言うけどさ。相手を紹介できるほど私友達いないし。
ため息一つ。
まぁ、近くにいてやる事ぐらいしかできないな。縁も私の時はずっと頭を撫でてくれていたわけだし。
「……ねぇ、僕は吉岡に勝つにはどうしたらいいかな?」
考え込んでいたらしい私は我に返ると慌てて顔をあげていた。そこにはニッコリと微笑んだ映見君の顔。
縁に勝つ……考えて私は思わず首をかしげた。
「リレー出ないよね?」
代わるよとは言えない悲しさ。男子と女子が交互に走るリレーだけら、代われない……。
「そうだね。でも、勝ちたいんだ」
「……」
えっと。
世に聞く男同士のライバル的な何かだろうか。争っているって言うよりお互い違う方向を見ている気がするんだけど。
一応聞いてみようか。
「何に?」
「僕が欲しい物を持ってるから」
「……」
顔ってわけないし、コスプレ衣装作る能力が死ぬほど羨ましいとか? 私も可愛い服作りたいって縁に教えてもらったことがあったけどあれって細かい事が好きじゃないとやっていけないんだよね。発狂するし。
いったい、縁は何を目指してるのか謎。聞いたらなせか怒られたんだ。
「そう、なんだ。ええと」
突っ込んでいいものかどう言おうか考えていた時、奥で『集合〜』という気合の入りきった体育委員の声が聞こえた。
うわぁ、もう始まるの? 確かに三組組と四組の試合は終わったようだけど……。あ、因みに私は五組。
憂鬱なんですけど。でも、仕方ないよね。ともかく遅刻したら説教が待ってそうで怖いし。
ため息一つ。私は身を翻していた。
「あ、じゃあ、行かなきゃ」
「五木さん」
ガッチリと掴まれた腕。振り返ると、真っ直ぐに私を見つめている映見君の顔。
それは、何処か思い詰めた表情だった。
なにか、あったのだろうか。不安が胸をよぎる。例えば身の上話とか……例えばイジメとか?
「どうしたーー?」
「これが終わったら、僕の話を聞いてくれる?」
悲しげに笑った彼の顔。その裏で私は必死にいじめの対処はどうしたらいいかと考えていた。




